第32話 仲直り
エドアルドはメリッサの肩を抱き二人を見守っていた。
ミシェルは防御魔法でマリクの魔法をしのいでいる。
マリクの猛攻にミシェルは身を守ることに手一杯の様だ。しかし、防御方法の訓練の成果は出ている。守りは堅く、マリクの火力から身を守ることが出来ている。
これなら強盗や何かが起きても耐えられるだろう。
「ミシェル。大丈夫かしら……」
メリッサは心配そうに呟く。
メリッサの心配ももっともで、このままでは防戦一方だ。
「マリクもあんなに泣いて……」
メリッサがまた泣きだす。エドアルドは彼女の背をさする。
「メリッサ、ミシェルの顔を見ろ」
ミシェルは真剣な顔つきをしている。
「ミシェルは今、反撃の一手を考えている。大丈夫だ」
ミシェルがマリクに話しかけ、マリクの隠した気持ちを知る。気づくことができなかった。ふがいなさと後悔が二人を襲うももう遅く、マリクは剣をかまえる。
ミシェルは防御魔法を解き、氷の魔法で杖に氷をまとわせ剣を形作る。
ミシェルの顔は、力強い。
もう決着の時は近い。
☆
ミシェルは剣を構える。
マリクは力強く地面を蹴り、叫びながらミシェルへ向かう。
マリクとミシェルの距離が一気に縮まる。
ミシェルまで一メートルにまで追った時、マリクの足元が光った。
それはマリクのよく知っている魔法陣。
「トラップ……!」
何も出ない。しかし、マリクはすぐ違和感に気づく。
「動けない!」
トラップを踏んだ足が動かせない。
力をどれだけ入れてもびくともしない。
「定着魔法だよ。兄さん」
それはミシェルが得意とする魔法だ。
絵を描き続け、そのたびに使ってきた。
マリクのような火魔法やエドアルドの雷魔法ではできないが、使いなれた、定着魔法ならトラップに応用できる。
「くっ、うっ……」
うめき声を上げるマリクへ向けてミシェルは詠唱をとなえ、魔法陣を出す。
放たれた魔法に防御が間に合わない。普段のマリクなら冷静に対処できた。しかし今は感情のまま動き、冷静さを欠いている。
とっさに防御ができなかった。
ミシェルの水魔法が轟轟と音を立て、渦を巻きマリクへまっすぐ向かう。
ミシェルの渾身の一撃がマリクへと直撃する。
マリクは大きく吹き飛ばされた。
地面へ打ち付けられ、その体が反動で跳ねる。
「あははは、兄さんに反撃してやったぞ!」
口を大きく開け、笑った。
マリクは起き上がり
「うあああ!!!」
と叫び火魔法を打った。
風魔法も加わり速度の上がった火は、あっというまにミシェルのもとへ届く。
調子にのった。
速すぎて防げない。
「うわぁー!」
ミシェルに直撃し、今度はミシェルが吹き飛び地面に転がった。
エドアルドの防御方法に守られ、傷はないが地面に当たって痛い。
「ミシェル!」
声をあげたのはマリクだった。
思う存分思いの丈をぶちまけて、やっと落ち着き正気に戻ったのだ。
慌てて駆け寄り、ミシェルを抱きかかえる。
「ミシェル! ごめん、ごめんね……」
マリクの涙がミシェルにかかる。
「フフ…兄さんもそんな顔するんだね。楽しいな、兄さんと本気で打ち合うの」
ミシェルは笑っていた。
「ミシェル」
ミシェルにぐいっと引きよせられ、マリクも地面に寝転がる。芝生が柔らかく心地いい。
「僕、小さい頃兄さんが羨ましかった。いや、憎かった。嫉妬してた。魔法も剣も上手で褒められて、なんで兄さんばっかり、って。それで、兄さんのことを避けてた」
「えっ」
「それでも兄さんは話しかけてくるから、すごく嫌だった」
「ええ?!」
マリクは数年越しの事実に驚く。
「まっそく気づかなかった」
「兄さんらしいや。だからさ、お互い様だよ。それに、別に嫉妬も憎いと思うのも普通の事だと思うよ。上手く付き合っていければ」
「許してくれるの?」
弱々しい声で聞く。
「お互い様なんだって。それだと僕も謝らないといけないじゃん……! もう今さらやだよ! 謝らないでよ!」
ぷんすこと怒るミシェル。こんな子どもっぽいミシェルを見るのは久々だった。
「それに、本当にずっと僕を見下してたの? クッキーを作った時も? 僕が火魔法をうまく打った時も? そうは見えなかったよ?」
眉を八の字にしてミシェルが聞いてきた。
「ん……違う。憎しみだけじゃない。ミシェルといて楽しかった。僕はミシェルが好きだよ」
二人の水色の瞳が交差する。
「ふふ。僕も」
ミシュルがふんわりと笑う。
「ふふふ」
マリクも笑う。
二人が空を見ればきれいな青空が広がっていた。
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