第32話 仲直り

 エドアルドはメリッサの肩を抱き二人を見守っていた。


 ミシェルは防御魔法でマリクの魔法をしのいでいる。


 マリクの猛攻にミシェルは身を守ることに手一杯の様だ。しかし、防御方法の訓練の成果は出ている。守りは堅く、マリクの火力から身を守ることが出来ている。

 これなら強盗や何かが起きても耐えられるだろう。


「ミシェル。大丈夫かしら……」

 メリッサは心配そうに呟く。


 メリッサの心配ももっともで、このままでは防戦一方だ。


「マリクもあんなに泣いて……」

 メリッサがまた泣きだす。エドアルドは彼女の背をさする。


「メリッサ、ミシェルの顔を見ろ」

 ミシェルは真剣な顔つきをしている。


「ミシェルは今、反撃の一手を考えている。大丈夫だ」


 ミシェルがマリクに話しかけ、マリクの隠した気持ちを知る。気づくことができなかった。ふがいなさと後悔が二人を襲うももう遅く、マリクは剣をかまえる。


 ミシェルは防御魔法を解き、氷の魔法で杖に氷をまとわせ剣を形作る。


 ミシェルの顔は、力強い。

 もう決着の時は近い。



 ミシェルは剣を構える。

 マリクは力強く地面を蹴り、叫びながらミシェルへ向かう。


 マリクとミシェルの距離が一気に縮まる。

 ミシェルまで一メートルにまで追った時、マリクの足元が光った。


 それはマリクのよく知っている魔法陣。


「トラップ……!」


 何も出ない。しかし、マリクはすぐ違和感に気づく。


 「動けない!」

 トラップを踏んだ足が動かせない。

 力をどれだけ入れてもびくともしない。


「定着魔法だよ。兄さん」


 それはミシェルが得意とする魔法だ。

 絵を描き続け、そのたびに使ってきた。

 マリクのような火魔法やエドアルドの雷魔法ではできないが、使いなれた、定着魔法ならトラップに応用できる。


「くっ、うっ……」

 うめき声を上げるマリクへ向けてミシェルは詠唱をとなえ、魔法陣を出す。


 放たれた魔法に防御が間に合わない。普段のマリクなら冷静に対処できた。しかし今は感情のまま動き、冷静さを欠いている。


 とっさに防御ができなかった。


 ミシェルの水魔法が轟轟と音を立て、渦を巻きマリクへまっすぐ向かう。


 ミシェルの渾身の一撃がマリクへと直撃する。


 マリクは大きく吹き飛ばされた。

 地面へ打ち付けられ、その体が反動で跳ねる。

 

「あははは、兄さんに反撃してやったぞ!」


 口を大きく開け、笑った。


 マリクは起き上がり

「うあああ!!!」

 と叫び火魔法を打った。


 風魔法も加わり速度の上がった火は、あっというまにミシェルのもとへ届く。


 調子にのった。


 速すぎて防げない。


「うわぁー!」

 ミシェルに直撃し、今度はミシェルが吹き飛び地面に転がった。


 エドアルドの防御方法に守られ、傷はないが地面に当たって痛い。


「ミシェル!」

 声をあげたのはマリクだった。


 思う存分思いの丈をぶちまけて、やっと落ち着き正気に戻ったのだ。


 慌てて駆け寄り、ミシェルを抱きかかえる。


「ミシェル! ごめん、ごめんね……」

 マリクの涙がミシェルにかかる。


「フフ…兄さんもそんな顔するんだね。楽しいな、兄さんと本気で打ち合うの」

 ミシェルは笑っていた。


「ミシェル」


 ミシェルにぐいっと引きよせられ、マリクも地面に寝転がる。芝生が柔らかく心地いい。


「僕、小さい頃兄さんが羨ましかった。いや、憎かった。嫉妬してた。魔法も剣も上手で褒められて、なんで兄さんばっかり、って。それで、兄さんのことを避けてた」

「えっ」


「それでも兄さんは話しかけてくるから、すごく嫌だった」

「ええ?!」


 マリクは数年越しの事実に驚く。


「まっそく気づかなかった」

「兄さんらしいや。だからさ、お互い様だよ。それに、別に嫉妬も憎いと思うのも普通の事だと思うよ。上手く付き合っていければ」


「許してくれるの?」


 弱々しい声で聞く。


「お互い様なんだって。それだと僕も謝らないといけないじゃん……! もう今さらやだよ! 謝らないでよ!」


 ぷんすこと怒るミシェル。こんな子どもっぽいミシェルを見るのは久々だった。


「それに、本当にずっと僕を見下してたの? クッキーを作った時も? 僕が火魔法をうまく打った時も? そうは見えなかったよ?」


 眉を八の字にしてミシェルが聞いてきた。


「ん……違う。憎しみだけじゃない。ミシェルといて楽しかった。僕はミシェルが好きだよ」

 二人の水色の瞳が交差する。


「ふふ。僕も」

 ミシュルがふんわりと笑う。

「ふふふ」

 マリクも笑う。


 二人が空を見ればきれいな青空が広がっていた。

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