第31話 兄弟げんか
戦いの火蓋が静かに切られた。
ミシェルは杖を構え、マリクは火球を周りに浮かせる。
マリクが叫び声をあげ、火球がミシェルへと向かった。
軌道が変わりあらゆる方向からミシェルを襲おうとする。
ミシェルは防御魔法で自身がすっぽりと入る立方体を作り身を守った。
目の前の防御壁に火球がぶつかり爆ぜる。
至近距離の爆発にひるむ。
バァンッという音が四方から連続して鳴り、「ひっ」と声が出る。
防御魔法に守られているとわかっていても、すぐそばに来た自身への攻撃に身の危険を感じた。
魔力量は変わらないはずなのに。その火力、才能は僕にはないものだ。
どれだけ、勉強をして、練習しても手に入らなかった。
欲しかったものを全部持ってるのに、まだ欲しがるのか。
僕の気も知らずに。
やっぱり、少しは見返してやりたい。
ミシェルは爆発音のする中、目をしっかり開きマリクを見る。
火球が止まった。
その隙に氷の柱を複数建てる。
一瞬でもマリクの気を逸らし、火球を少しでも防ぐためだ。火球の軌道が変わるから本当にわずかだが。
一瞬時間を稼いだ隙に氷の柱に身を隠す。
氷の影からいくつか火魔法を打つ。
打つたびに別の氷の柱へ移る。
手を止めるな。手を止めたら反撃される。マリクに攻撃をさせるな。
しかし、技量には差があり、打った炎はことごとく相殺されていく。
それどころか次々と柱まで砕かれる。
柱が砕かれ減っていく。それはミシェルの身にマリクの反撃が迫るカウントダウンだった。
マリクの魔法がミシェルの前をかすめた。
「うわっ」
ミシェルは下がり近くの柱へ逃げ込んだ。
それにより攻撃の手が止まってしまった。
「しまった」
業を煮やしたのだろう。マリクは上空から雷魔法で雷を落とし、全ての氷を吹き飛ばし始めた。
バリンと氷が立て続けに割れビシャーンと大きな音が響き続ける。
「うわああ」
ミシュルは危険を感じ前へ転がる。直後ミシェルの隠れていた氷の柱も砕け散った。
「防御魔法!」
展開したと同時に岩が目の前で破片になった。
氷は全て壊され、何もない。
再び猛攻をしかけられる。防御魔法を展開してしのぐ。
ミシェルは今まで防御魔法を重点的に練習してきた。
敵に襲われた時、マリクが助けに来るまでは耐えられるように。
だからマリクの魔力が落ち着くまでは耐えられる。
しかし、身を守ってばかりではマリクに攻撃を当てることは出来ない。
打開策を考えよう。まずは状況の整理だ。
マリクは暴走状態で魔力量が上がっている。もともと高い火力がさらに上がれば、ミシェルの技量では太刀打ちできない。
マリクはミシェルの攻撃を魔法で相殺している。それは防御魔法よりも効率が悪く、次の魔法を打つまで少し時間が空く。
さらに感情的になっていて力押し、暴走状態のせいか動きも大きく隙が多い。
自分が勝つにはその隙をつくしかない。
どうやって?
考えろ、考えろ。
僕は何ができる? 使える?
得意な方法を頭の中で列挙する。
マリクとの練習を思い出す。
僕がしてきたこと、できることを整理する。
続けてきた習い事、得意な魔法、マリクとの練習。
一つ思いついた。
やるしかない。
それには少し時間が欲しい。
「ねぇ兄さん」
時間を稼ぐ。気になる事もあった。
「どうして、そんな辛そうな顔をしてるの?」
マリクの顔はミシェルが憎いと言いつつも、どこか憎み切れていない、苦しそうな顔をしていた。
最初は憎くてたまらないという鋭く怖い顔をしていたが次第にその顔は迷いのような、苦しい顔に変わっていった。
マリクが一瞬止まり、ぼろぼろと大粒の涙をこぼしていく。
彼の周りに吹く不規則な風に涙が乗り、マリクの顔の周りで揺らいでいる。
「ミシェルが評価されるたびに苦しくなる。喜ばしいことなのに。ミシェルを守りたいと思っていたのは兄だから上に立ちたかったから。僕は……ミシェルを下に見てたんだ!」
泣きながら叫ぶマリクにミシェルはきゅっと心が痛む。下に見られたからでなく、マリクの苦悩の表情があまりにも辛そうだったから。
マリクの顔がぐしゃぐしゃになっていく。
「ミシェルの成功を喜べない……ミシェルの事が憎い……そんな醜い感情を持つ自分が嫌いだ!」
今までで一番の叫び。
大粒の涙がマリクの淡い水色の瞳からこぼれて、風で上がり弾けて消えていく。
マリクの本音。
憎しみはミシェルだけじゃなくマリク自身にも向けられていた。
それを一人で抱え続けていたのだ。
優しくてひたむきに努力し続ける兄さんらしい。
ひとしきり叫んで涙を流した後、マリクは剣を抜いた。
ミシェルの苦手な剣術。
確実にミシェルに勝てる手だ。
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