第29話 マリクの症状2

 マリクはもう三日も眠り続けている。


「お父様、お母様!」

 マリクの部屋のドアを開くと、ティナとエドアルド、メリッサがいた。


「あぁ、すみません。いきなり……」

「いや、かまわん。どうした?」


「兄さんが眠っている原因を自分なりに調べてみたのです」

「ティナからもその件で話があると言われたんだ」


 原因が分かったのだという。それなら自分の出る幕はないと身を引こうとした。

「それならば大丈夫そうですね」


「いえ、ミシェル様、答えあわせをしましょう」

「え……」

「答えが同じなら、私たちに打つ手がないこともわかっているでしょう?」


「「えっ」」

 メリッサとエドアルドが固まる。


「そう、ですね。至らないところもありますが、発表させて頂きます」

 医者の前で意見を述べることに背筋が冷えるが、ミシェルは深呼吸をしてはっきりと自分の結論を告げた。


「僕はマリクが眠り続ける原因は魔力の暴走かと思います。

 魔法は精神状態に左右されやすく、強い不安やトラウマにより魔力が不安定になり魔法のコントロールを失うことがあります。


 それは魔法に現れるだけでなく、まれに、身体症状として現れることも確認されているそうです。


 兄さんは最近気分が落ち込んでいるようだったので、それが魔力の暴走として体に現れたのだと思います。兄さんが何を不安に思っていたのかはわかりませんでした」


 眠り続ける症状は見つけられなかったが、調べてみて近いのはこれだった。


「短い間で良く調べました。専門書は難しかったでしょう? ほぼ正解ですよ」


 ティナが言った。医者であるティナに自分の考えを言うのは緊張したが、的外れではなくて安堵する。同時にマリクが何を抱えていたのだろうかと心配になる。


「魔力障害ということか」

 エドアルドが簡潔にまとめた。メリッサは知らない様子でエドアルドを見ていた。魔力の暴走は一年で習う範囲ではないため、ミシェルも調べてみて初めて知ったことだった。


「魔力障害?」

「魔力に異常が出て魔法や生活に支障がでてしてしまうことです。魔力の暴走は魔法障害の一種です」


 ティナが解説し、マリクの症状の説明を始める。


「マリク様は魔力の暴走の分類の一つ、一過性魔力暴走の状態になっています。これは十代、特に学生に多く見られる一時的な魔力暴走です。


 十代は子供から大人になる過程で自分と向き合うことになり、人間関係や悩みも多くなります。


 その時、自分の気持ちや感情を整理できなかったりすると魔力が不安定になり、魔法が上手く扱えなくなることがあります。


 思い詰めてしまったり、不安が強いような、ひどいときは魔力が暴走し自身でコントロールが出来なくなることもあります。


 たまにその魔力の異常に対して防御反応で体の症状として出るケースも確認されています。しばらく気を失ってしまうのも……。


 おそらくマリク様は防御反応で眠り続けているのだと考えられます。こんなケースはごく稀ですが……」


「治す方法は?」


「気持ちの整理や感情を外に出すことで改善します。気を失った場合、一~二日で目が覚め一時的に不安が軽減されるのでその時に行います。医者に話してみたり、書き出してみるのが多いですね……。ただ起きるまでは声をかけるぐらいしかやることはないです」


「そんな……」


 メリッサがよろけ、エドアルドに倒れこんだ。

 そのエドアルドも血色が悪く、額に手を当て呻いた。


「私があの時ちゃんと話をできていれば、こんなことには……」

 エドアルドも気落ちし始める。


「ここまで眠り続けるのは聞いたことがないですが……この魔力暴走は一過性という言葉通り、一時的なもので今までの症例では必ず良くなっています。成長するうえでよく見かけるものなんです」


 ティナも苦しげな顔に変わっていく。


 ミシェルはベットで眠るマリクを見る。

 ミシェルはその光景に目を見開いた。


 マリクがぬっと上半身を起こしたからだ。

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