第28話 マリクの症状

「兄さん!」


 ミシェルはクラスメイトの叫ぶ声が聞こえ、その方向を見た。

 マリクが倒れる瞬間だった。マリクの体が床に倒れ、反動で少し跳ねる。


 慌てて駆け寄った。


「兄さん、大丈夫? ねえ……!」


 呼吸はある。だが反応がない。


 目の下にクマ、元気がないと心配の言葉をかけたが「生徒会が忙しい」としか言わなかった。

 その後、保健室へ連れていかれ、家へと運ばれた。

 家中大混乱だ。


「ティナ、ミシェルは大丈夫なの?」


「体に問題はありません。少々お時間を頂いてもよろしいですか? これは珍しい事例かもしれません。数日は大丈夫かと思われますので……」


「わかった。マリクを頼む」


 メリッサもエドアルドも真っ青な顔をしている。

 ミシェルも例外ではない。


「お母様、きっと大丈夫です。マリクは目を覚ましますよ」

「そうだ、マリクは強い子だ。きっと……目を見ます」

 二人で青白い顔色で黙りこくっているメリッサを元気づけるが、彼女の肩は震えている。


「わ、私のせい?」

「違う! メリッサのせいじゃない」


 ぼたぼたと涙をこぼすメリッサをエドアルドは抱きしめた。


「メリッサ様のせいではありません」

 ティナが言う。


「まだ何とも言えませんが、これは体の病気ではないです。ですから安心してください」




 翌日からミシェルは空いた時間があれば学園の図書館へ行き、マリクを救う手掛かりを探した。

 本職であるティナに任せる方がいいと思うが、いてもたってもいられなかった。


 手がかりはティナの言った体の病気ではないということ。となると精神性のもの、もしくは……魔法にかけられた? それならエドアルドが気づく。そもそもマリクがかかるはずない。


 マリクの知り合いに話を聞くが何も得られない。


「おい」

 後ろから声をかけられ振り返る。

「何でしょうか」

 ミシェルは体が固くなる。

 そこには大柄な青年、マルコが立っている。


「マリク様が倒れたんだって?」

「ええ……」


 自分の悪口を言っていた先輩だ。ひるんでしまう。それでも何か知っているかもしれない。

「何か、知りませんか?」


 意外にも嫌な顔をせずマルコは答えた。

「マリク様は先生方やご友人には明るい顔をされていたが、一人の時は思いつめたような顔をされていた。実習で同じグループになったが魔法をかけられている様子もなかった」


 マルコとて貴族だ。

 性格が多少悪くとも魔法の実力はある。


「これが参考になるだろ」

 トスッと本を押しつけられる。魔力についての本だ。


「難しいが頭が良くて努力家のミシェルなら読めるだろ」

 マルコは挑戦的な笑みを浮かべていた。


「ありがとうございます!」

 ミシェルは本を強く握りしめた。

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