第27話 マリクの心
ミシェルは部屋で本を読む事が多い。自分も自室から出なければ顔を合わせる機会は少なくすむ。
それでも一度気づいてしまった感情は消えることはなく、マリクはもんもんとした毎日を過ごしている。
マリクはベッドに入ったまま、気持ちを落ち着かせようとする。しかし、ミシェルの事ばかり浮かんでくる。
ミシェルが注目をあびて、成果を出して、自分を越えていくのが許せない。
先に結果を出したミシェルが憎い。
ミシェルは美術商アーキン氏と交流を深めている。それは領主たちの間で話題になった。
絵の展示をきっかけに多くの人がミシェルの才能を知り、ティローネ家の多才さを示した。
ミシェルは利益をもたらし、結果を出した。
僕は?
マリクは自問自答する。
自分には能力がある。魔法や剣の技術など当主に必要な能力も持っている。領主に必要な勉強も頑張っている。学園での成績だってトップだ。しかしそれは結果で帰ってこない。ただの紙切れ上の評価だ。
魔法も剣も使う時は有事の時なので使う機会などない方がいい。
ミシェルと自分では才能も、できることも、好きなことも違う。それはわかっている。
それなのに、それでも自分は兄として、弟の上に立ちたいと思ってしまう。
部屋から出て、図書室へ向かう。今日ミシェルはアーキン氏と美術の展示を見に行くそうだ。
そのことを思い、マリクの上下の歯が強くかみ合わさる。
「マリク」
「父上」
エドアルドが話しかけてきた。このミシェルへの感情がばれないかヒヤリとする。
「最近顔色が良くないぞ。何かあったなら話を聞くが……」
「いえ、大丈夫です。少し学園の方が忙しいだけですから……」
「……そうか。メリッサも心配している。私でなくてもメリッサやティナ先生、誰でもいいから相談するように」
「はい」
マリクは落ち着いて笑顔を向ける。
感情を出してこちらの状況を悟らせてはいけない。
「無理はするなよ」
エドアルドは仕事に戻って行った。
ほっと息を吐く。
誰かに言えば楽になれる?
言って「見そこなった」と軽蔑の目を向けられたら? 呆れられたら? 嫌われたら?
家族の関係が悪くなったら?
言えない。関係を壊したくない。
学園にいる時は学年が違うのでミシェルに会わずにすむ。しかし、マリクの頭が整理されることはなかった。
日に日に負の感情は膨らみ、胸が苦しい。
ミシェルを守りたいのは優位に立ちたかったから。優越感を感じるから。
なんて、醜い感情だ。
マリクは自分へも負の感情を向け始める。
ミシェルが数メートル先にいる。気づかれる前に逃げなくちゃ。
マリクは来た道を足早に引き返す。
そのとき、すれ違った一年生の声が聞こえてしまった。
「ミシェル様、また小テスト一位なったらしいな。苦手と言いつつも魔法もお上手だしなぁ」
「文武両道ってミシェル様の事を言うのだろうな」
あ。
ガツンと頭を殴られたような衝撃がマリクに走った。
魔法まで上手くなっているのか。
僕に追いつかないで欲しい。
マリクの鼓動が早くなり、息が荒くなる。
頭はまともに働かず、視界がぐらつく。
目の前がまっ暗になり意識が遠のいた。
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