第26話 パーティー2

 ミシェルはパーティーを楽しんでいた。

 フロリアーノの所有する品はどれも価値が高いものだ。きっと高額になるだろう。ミシェルの手持ちでは手は出せないが、貴重な品を近くで見られるのはありがたい。


 オークションまでもう少し時間があるため、音楽を聴きながらミシェルは食事を楽しむ。

 フロリアーノは様々な国の料理を揃えていた。本で見たことがあったそれを実際に食べることが出来るのも嬉しい。


 音楽が変わる。その曲に聞き覚えがあった。

「これはグレイスの曲……」


 グレイスはディアネット国の音楽家。この曲は晩年に作られた世間ではあまり知られていない曲だ。こうしてパーティーに流れるのは珍しい。フロリアーノのセンスの良さがうかがえる。


「わかりますか? 名曲ですよね」

 青年が話しかけてきた。マリクより少し上の年齢に見える。

 優しく目を細め、落ち着いた風を装っているが、声の調子は明るく、仲間を見つけたかのようなきらきらした表情が隠しきれていない。


 あぁ、この人は音楽が好きな人だ。ミシェルは答える。


「ええ。音楽を習う際に教えていただきました。晩年の曲が評価されていないのはもったいないですよね」

「えぇ、全くです。晩年こそ名作が多いというのに。どの時代の曲も良いのですが。あなたは普楽の教養がおありで?」

「ええ、少しですが。ピアノ、ヴァイオリン、大体は弾きますよ」

「それはすごいですね! あぁ、私は美術を中心に商人をしております。ブライアン・アーキンと申します」

「ミシェル・ティローネです。よろしくお願いします」

 そこからは音楽談義がはずみ、人も集まってきた。




「二人とも、何飲んでるの?」

「白ワインだ」

「僕は赤ワイン」

 メリッサがバルコニーに行くとエドアルドとフロリアーノがいた。

「メリッサ、楽しめているか?」

「ええ!」

 メリッサは頬を赤くしながら元気に言う。



「楽しんでくれてうれしいよ。いろんな友人に声をかけたから新たな出会いもあるんじゃないかい?」

 食事も楽しめたが、フロリアーノの言う通り、他の貴族とも話せて楽しい時間を過ごせた。


 三人の間になごやかな雰囲気が流れる。


「あ、お父様、お母様」

 ミシェルがやってきた。


「今度アーキン氏と、お茶会をすることになりました」

「アーキン氏と?」

「ええ、音楽の話で盛り上がりまして」


「え、すごいじゃないか。彼、ディアネットの有名な美術商だろ?」

「彼と交友を持てるなんて……」

フロリアーノもエドアルドも驚いた様子だ。


「僕も驚きました。まさかお母様としていたことがこういう縁になるとは」


「好きなことで交友が増えるのは良いことだわ」


 彼のすごさはメリッサには分からないが、趣味が高じてミシェルの世界が広がっていくのは喜ばしい。



 マリクはパーティー会場を歩き、知り合いとの交流を深めていた。


 バルコ二ーに家族みんな集まっている。


「アーキン氏とお茶会をすることになりまして」

「すごいじゃないか」


 聞こえてきたのはミシェルと大人たちの声。

 ミシェルがディアネットの大商人と仲良くなったと……

 有名な人物とつながりができるのは我が家にも、国にも有益だ。


 ずきんっ


 マリクの胸が急に締め付けられたように苦しくなる。

 ミシェルの絵の展示で感じた恐怖。その正体。


 嫉妬だ。


 ミシェルが羨ましいんだ。

 外部から注目を浴びているのが羨ましい。


 ミシェルがこちらを見て、手を振った。

 怒りに似た感情を胸にしまったまま、気づかないふりをしてその場を去った。

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