第22話 プレゼント2
メリッサは医者であるティナとお茶をする約束をしていた。まだ彼女は来ない。メリッサは胸元に下がったペンダントトップを掬い眺める。
ティナがやって来た。
「お待たせしました」
「いいえ大丈夫よ」
紅茶を二人分注ぐ。医者の前なので、すこーし砂糖は控えめだ。
「最近エドアルドを見るとドキドキするのよ。胸がきゅってなるの。何かの病気かしら?」
「この前の検査では異状はありませんでしたよ。何か心当たりはありませんか?」
「恋……じゃないかしら。出かけた日からエドアルドのことが気になって仕方がないの」
原因は分かっている。
エドアルドが戦う姿を見て、惚れてしまったのだ。
そこからはもう、強くて逞しい姿、可愛らしい笑顔、まっすぐさ、彼のすべてが愛おしく思える。
エドアルドのことを思うだけで、胸が高鳴るのだ。
ティナに出かけた日に気づいた気持ちを初めて口にする。
「自覚があるようで安心しました。おそらく恋ですよ、それは」
「安心って……気づいてたの?」
恥ずかしさに顔が熱くなる。
「気づきますよ、さすがに! あれだけ目の前でラブラブされたら! むしろまだ想いを伝えてないんですか?」
「だってぇ……」
だって今まで恋したことなんてなかったんだもの!
やっぱり、病気じゃないのね……。
これが恋なんだ。
うすうす気づいてはいたのだ。好きだと。
メリッサはやっと認めた。初めての恋だ。
「それで、この先どうしたらいいのかしら……」
顔を手で覆い、弱弱しい声で尋ねる。
「エドアルド様はメリッサ様のことを愛してらっしゃるのですから、なにも問題ないです。素直に気持ちを伝えれば良いのです」
素直なのはメリッサ様の良いところですから、とティナは付け加えた。
「あれもまだ渡してないでしょう? 渡す前にハーブティーを入れてさしあげますから。少しは落ち着きますよ」
ティナは優しくほほえんだ。
「先ほどペンダントを眺めていた時の顔、とても幸せそうな表情をされていました。頑張ってください」
休日、メリッサはエドアルドをお茶に誘った。ティナにハーブティーを入れてもらって少しは落ち着いている。
エドアルドが来た。
休日なのでエドアルドはシャツを着ていて、前のボタンが空いている。
普通にシャツを着ているだけなのに、びしっとかっこよく決まっていて、ドキドキする。もはや何気ない事にもときめいてしまうのだ。
「エドアルド、渡すものがあるの」
そう言ってメリッサはそっと七センチ四方の箱を出す。
「お返しは要らないと言ったが」
「違うの。私が渡したいの。エドアルドのことが好きだから」
気持ちは伝えないと伝わらない、と言ったのは自分だ。勇気を出して伝える。
「なっ!」
エドアルドの顔がぼんっと一気に赤くなる。彼の大きな手が自身の口元を覆った。
かっこいい、けれどこういう可愛らしい反応をするのも好きだ。
「ありがとう、メリッサ」
赤くなりながらも、優しく笑った。
エドアルドは小さな箱を開ける。
「これは……」
箱に入っていたのは、薄い水色をした宝石のブローチ。宝石はひし形のダイヤカットで台座は金色。クラバットにつけるものだ。
街に行ったとき、目がとまった店。それはアクセサリーの店だった。
そのブローチを見つけた時はどうして買うべきなのかわからなかったが、今ならわかる。
エドアルドに似合うと思ったから。着けてほしいと思ったから。何かを贈りたいと思ったから。
「綺麗だ……」
エドアルドは大事そうに眺めた後、シャツのボタンを留め、早速ブローチを着けた。
淡く、透明感のある宝石がエドアルドを照らす。
「どうかな?」
「素敵よ」
「嬉しい。大事にするよ。本当に……ありがとう」
エドアルドは椅子から立ち上がり、メリッサの頬にふれた。エドアルドの大きな手、その体温が伝わる。
温かく、優しい。
メリッサは顔を少し上へ向ける。
エドアルドのトパーズのような瞳。二人の目がばちっと合う。
二人の距離が近づき、今度はちゃんと二人の唇が重なった。
☆
メリッサとエドアルドがお互いの愛を受け入れた瞬間、
「やったぁぁぁぁー!」
「やっと想いをお伝えに……!」
こっそりと、二人の行く末を見守っていた使用人たちは沸き立っていた。
二人の関係にやきもきしていた彼らは感動し、見届けられなかった使用人たちにも伝わり、屋敷中が二人を祝ったのであった。
☆
「なんだか屋敷が明るいな……」
「ねぇ……」
屋敷に戻るとなんだか屋敷の空気が普段より明るい。
使用人はにこにこした笑顔を向けてくる。
「何があったんだ?」
「さぁ……?」
二人は不思議に思うのだった。
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