第三部マリクとミシェル
第23話 三年後
三年が経ち、ミシェルは十一歳、マリクは十三歳になった。
ミシェルとマリクは背が伸び顔つきも大人へと近づいている。
ミシェルは習い事の絵と音楽を今でも続けていて、習い事以外では文化や歴史の勉強を増やしたようだ。
マリクも領主としての勉強に力を入れていて頑張っている。
魔法は二人とも上達していた。
今も二人は魔法の練習をしている。
メリッサは午後から予定があるが、それまでまだ時間があるので二人の様子を見に行った。
二人は向かい合って立っている。
マリクがミシェルへ炎魔法を出す。ミシェルは防御魔法を展開し炎を防ぐ。
そのままミシェルは氷魔法の詠唱をし、氷のつぶてを放った。マリクは雷魔法で氷を砕く。
パリンと綺麗な音が響き、破片が散った。それらはきらきらと光を反射し、マリクとミシェルを輝かせる。
ミシェルは炎魔法を出す。手のひらから炎が出て、投げるように腕を振れば炎は
マリクへ向かう。
炎がくる直前、下から勢いよく水柱が上がった。メリッサのもとに涼しげな風が届き髪が揺れた。
トラップ魔法の一種だ。魔法陣の射程圏内に入ると作動する。
水と炎はぶつかり、消えていった。
二人は止まった。顔が見る見るうちに赤く、口角が上がっていく。
「「やったー!」」
「魔法を上手く打てた!」
「トラップ魔法、上手くいったよ!」
二人は大きな声で叫んで、早足で駆け寄りハイタッチをする。
お互い魔法が上手くいったようで、興奮気味にはしゃいでいる。背が伸びて少し大人っぽくなってもまだ子供らしくてほほえましい。
「だいぶ上達したな」
エドアルドがぬっと後ろから顔を出した。
「あら、エドアルド」
「アネーリオ夫人が来たから呼びにきた」
「ありがとう。すぐ行くわ」
「ごきげんようカテリーナ!」
カテリーナ・アネーリオはエドアルドの友人の妻だ。
目は大きくぱっちりとし、眉は太く強気な印象を受ける。彼女の黒いウェーブがかった髪がつやつやと輝く。その美しさにメリッサは会うたびに見惚れる。
今までは体が弱く、あまり交友を持てなかったが、この三年間でメリッサも交友関係を広げた。その一人がカテリーナだった。
エドアルドの友人なので社交界のマナーに少々不安があるメリッサでも気負わず話せる。
「フロリアーノがね、また骨董品を買ってきたのよ」
「この前も買っていたわよね?」
フロリアーノはカテリーナの夫だ。美しいものが好きで美術品や骨とう品を集めているのだが、収集ペースが速い。
カテリーナは三日前もこのセリフを言っている……また買ったの……?
「そうなのよ。でも一緒に私へのプレゼントも買ってくるの。私好みのを買ってくるし、あの人目利きの腕は確かだから品質も良くて……怒れなくなってしまうの」
なんだかんだ言って仲がいいのだ。
「あら、このケーキ初めて見るわね。苺のケーキ?」
「ふふふ、ショートケーキと言って、マリクが作りましたの」
マリクは今もたまにお菓子を作っていて、作ったお菓子は「お茶会で食べてください!」と分けてくれる。
カテリーナは初めてみるショートケーキに目を丸くする。
フォークで一口大に切り、食べた。
「美味しい! 初めて食べる味だわ」
「そうでしょう!」
メリッサは自慢げに笑う。
「またお菓子作りの腕が上がったのでは?」
カテリーナがびっくりした顔で言う。
マリクは腕を上げ続け、プロかと間違うほどになった。
ほのぼのとお茶会は続いた。
☆
絵画の授業はもくもくと手を動かせるから好きだ。デッサンも始めたころより上達し、写真のようにモチーフに忠実に描けるようになった。
ミシェルが今描いているのは家の庭だ。大きなキャンバスに絵具をのせていく。
メリッサは小さなキャンバスにバラの花を描いている。
休憩をとる。夢中になって同じ姿勢が続くのは良くない。ミシェルは伸びをした。
ラミが言った。
「今描いている絵ですが、展示をしてみませんか?」
「「えっ!」」
「私のアトリエで他の生徒も含めて、作品を展示しようと思っているんです。皆さんの素晴らしい作品を見てもらいたいんですよ」
「いいんですか? ぜひ出させてください!」
「すごいじゃない!ミシェル!」
「あなたもですよ? メリッサ様」
「ええっ」
「あなたも私の生徒ですからね」
メリッサの作品は自由でのびのびとした作風だ。見てると楽しい気持ちになる。
「他の人の作品を見るのも刺激になっていいですよ。彫刻やユニークな立体作品もあって楽しめますよ」
「まぁ素敵。飾ってもらえるなんて初めて。嬉しいわ」
こうして二人の作品はラミのアトリエにて飾られることになった。
☆
マリクはミシェルに誘われ、喜んで展示会場へ行った。
絵画や水彩画、デッサン、彫刻、立体作品が飾られている。
作品はどれも制作者の想いが詰まっている。マリクはそんな作品が素敵だと思う。
自分には作れないものだ。
ミシェルの作品を見つけた。大きなキャンバスには家の庭が描かれている。明暗がはっきりとし、鮮やかに描かれている。
まるで画家のように立派な絵だ。
ぞくり。
背筋が冷える。
なぜだろう。何か、怖い。
「兄さん、どうしたの? 怖い顔してる……」
ミシェルが心配してくれる。
「大丈夫だよ。その、ミシェルの絵があまりにもすごくて、驚いただけだよ」
「そう? ならよかった!」
ミシェルは嬉しそうにしている。
そうだ。この気持ちはミシェルの絵に圧倒されただけだ。
マリクは深く考えることをやめ、ミシェルに笑顔を向けた。
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