第18話 領地の経営
きっかけは、メリッサの一言だった。
お菓子作りの時オーブンでカップケーキを焼きあげている間、料理長がいろんな話を話してくれた。
「小麦粉の種類や粗さで仕上がりが変わるんですよ。用途によって使い分けるんです」
「へー!」
「面白いな」
マリクとミシェルは興味深く聞いていた。そこにメリッサが言った。
「そうだわ! 小麦農家に行ってみましょう」
「「えっ」」
メリッサのその発言により今、マリクはミシェルとメリッサ、護衛とともに馬車で揺られていた。
メリッサは久々の外出にそわそわして外を眺めている。その姿は子供のようだった。
彼女の今日の服装は動きやすいようパンツスタイルだ。普段のドレスのふわっとしたシルエットから、しゅっとしたものになり、かっこよくて新鮮に感じる。
メリッサに外出の許可を出すかエドアルドは悩んでいたが、定期的な診察で毎回健康だと診断され、医師の「大丈夫だろう」との一言で許可を出した。
医者と護衛をつけるのが条件だった。
マリクもメリッサとミシェルとの外出にわくわくしていた。
農家に着くと中年の夫婦が出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました」
「今日はよろしくお願いしますね」
「「よろしくお願いします」」
収穫は終わっているので今日は種まきの体験をするらしい。
「息子が案内しますね」
たくましい体つきの青年に案内され種まきが始まった。広大な畑の小さな一角を借り、作業をさせてもらう。
普段土に触れることのないマリクは新鮮な気持ちで種まきをした。
土に穴をあけ種を入れ、土をかぶせていく。自然に触れて落ち着くような、心地よい気持ちになる。
種まきの後は、土を耕す体験もした。鍬をもち土を耕す。
鍬は重く、剣とは違った難しさがあり、苦戦する。
青年は上手だと褒めてくれたが、その道のプロにはやはり敵わない。
一通り、一連の流れを体験し終えて、重労働で体は疲れきった。
「お疲れ様です。疲れたでしょう」
夫婦がパンをふるまってくれる。
焼きたてでほかほかで頑張った分、より美味しく感じる。
農家の話も聞くことができた。
生活はできるものの、貢納が厳しく、余裕があるとは言えない。
天気に左右され、収穫量が少ないときもあるらしい。
そうしているうちに帰る時間になった。
「「「今日はありがとうござしました」」」
帰りの馬車の中、マリクは農家の言葉を反芻していた。
小麦は日々の食事に必要なものなのに、それを供給する人たちの生活が厳しいなんて。
自分の国の税金って何に使われるのだろう? きちんと使われているのだろうか。
「国のために使われてるんだよね?」
ミシェルに話せば、そう言った。
「そうだけど、具体的には何に使われるのかな」
自分はまだ国の仕組みについて何も知らない。
「父上、税金や貢納は何に使われているのですか?」
マリクはミシェルと共にエドアルドに農家の見学で見聞きしたことを話した。
「ふむ。貢納は倉庫で保管されている。もし不作で麦が育たなかった場合、食料が無くなってしまうから、そういう時に備蓄していたものを出し、領民の生活を守るためだ。税金も領内の維持に使われる。具体的には道路の整備、まだ開拓されてない部分の開発費、水道のメンテナンス費だな」
水道は数百年前に、より暮らしやすくするためライフラインの整備が一気に進んだ時期があった。それは生活の質を一気に引き上げ、各国で取り入れられたのだ。歴史の授業で重要な項目である。
その整備費も税金で賄われているということだ。
「それだけじゃない。騎士団の維持、騎士の訓練費にも使われる。もし、この領内が襲撃された時に国を守れるようにだ。今は平和だが、国同士の戦争が始まった場合、各領地から兵士を募るし、私も行かなければならなくなる。いつ何が起こるかわからないから訓練は欠かせないんだ」
そうだ。領主は領を守らないといけない。
「今は平和でも昔は不作や内紛も多かったですもんね」
ミシェルが言った。
「そうだ。とまあ、こういった領民や領内のために使われている。しかし、まだ生活が厳しい、というのは問題だな……。一度見直すか……」
領主は守るだけじゃなく、さらに領内の整備等いろんな事に気を配らないといけないのか。
「領地の運営って難かしいんだなぁ……」
「すごいや……」
マリクとミシェルは感心した表情で互いの顔を見た。
エドアルドはそんな二人を見て、顎に手をあて考えこむ。
「そろそろ領地の運営について学ぶか?」
「「え」」
二人は目を丸くし、同じ顔でエドアルドを見た。
「そのうち学ぶことになるが、興味があるなら予定を早めて学んでみても良いと思ってな。どうだ?」
マリクとミシェルの結論は決まっていた。
「「やります!」」
☆
「そんなことがあったのね」
メリッサはエドアルドとお茶会ついでに近況報告をしていた。
領主って大変なのね。
告白をされた日から数日が経つが「少しづつでいい」と言っていたとおり、エドアルドは普段通り接してくれている。そのおかげで一応メリッサも一応以前のように話せている。
「そのうち学ばなければならない事だが、興味を持った今がいいかと思ってな。もしかして、そういう考えがあっての農家見学だったのか?」
「いえ全然」
メリッサとしては単純にこの世界の農家ってどんな感じなんだろう? という興味だった。前世では現代っ子だったので、この体験はメリッサにとっても新鮮であった。
「ふはは。メリッサらしいな」
「ミシェルやマリクの方がしっかりしてるわね」
エドアルドはよく笑顔を見せるようになった。
最初の頃からは考えられない。
エドアルドは優しく笑って言った。
「二人の興味をできる限り伸ばしてやりたいな」
「そうね」
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