第17話 プレゼントとショートケーキ
メリッサはエドアルドに誘われ庭のバラのエリアでお茶を飲んでいた。
テーブルの上には紅茶、メリッサはミルクラィー、エドアルドは少し砂糖を入れた。
今日はエドアルドから今日は習い事を入れるなと念を押されている。
そんなことを言われたのは初めてだ。
はて。何かあったかしら?
心当たりがない。
「今日は渡すものがあるんだ」
「渡すもの?」
何かしら。
エドアルドは上品な細長い箱を取り出し、メリッサに手渡した。
「? 開けても?」
「ああ」
蓋を開けるとそこにはペンダントが入っている。
小さなイエローの宝石とホワイトゴールドの装飾がついたペンダントトップがついている。
「わぁ……!」
美しい装飾、綺麗にカットされキラキラと光を反射する宝石に、メリッサの顔は輝く。
こういったアクセサリーは大人になっても心をときめかせる。
前世の幼少期、おもちゃのアクセサリーを集めていたことを思い出すが、これは本物だ。
「いいの? こんなに高そうなもの……今度何かお返ししますね!」
「え?」
エドアルドが素っ頓狂な声を出した。
「へ?」
エドアルドはそのまま困った顔をしていた。
「これは私からの誕生日プレゼントだ。だから返さなくていいし、身に着けてくれればそれでいい」
メリッサの体に転生した身ではあるが、メリッサの誕生日は他人の誕生日、という感覚でいた。
それゆえメリッサの誕生日は気にしたことがなかった。
「あっ、誕生日! 忘れてました!」
エドアルドはぽかんとした顔をして、一気に相好を崩した。
「ははは! 言わない方が良かったかもな」
白い歯を見せて笑った。
「?」
エドアルドは笑ったあと、急に表情をキリッと変えた。
メリッサの手を取り、その彼女の手の甲に口づけを落とす。
「えっ! え?」
メリッサは急なエドアルトの行動に驚く。
エドアルドが顔を上げ、メリッサと目が合う。
「私はメリッサのことを愛している」
ギラリと、エドアルドの黄色い瞳が光った。
「今まで私は気もちを伝えることをしなかった。これからは伝えていく。私ともう一度
愛し合って欲しい」
エドアルドの愛の言葉にかーっと顔が熱くなる。
照れた顔が可愛いし、良い人で仲良くなれたと思う。けれど、まさか、こんな風に口説かれるとは思っていなかった。
どうしたらいいかわからないわ。
エドアルドはメリッサの手を両手で包み込み、
「今まで私は冷たい対応をしてきてしまった。私への想いは冷めているかもしれない。私はそれだけのことをしてしまったのだから……。少しづつでいい、もう一度チャンスが欲しい」
真っすぐに伝えられた思い。
「あ……」
真っすぐな好意を向けられて、自分の気持ちも、言葉も見つからない。
「あっ、ミシェル! ど、どうしたの?」
ミシェルが来たから、そちらに避難した。
顔が赤く慌てるメリッサにミシェルが心配そうな顔をした。
「お母様、大丈夫? お父様に何かされたの?」
エドアルドは複雑な顔をしている。
そう思われるなんて心外な……いや確かに仕掛けたが……
「だ、大丈夫よ、オホホホホ」
「? それならいいのですが。夕食が用意できましたよ!」
「じゃあ行くか。な、メリッサ」
エドアルドはギラついていた顔からいつものエドアルドに戻っていた。
「え、ええ」
夕食の部屋に入り、目の前に広がったのは、綺麗な花や豪華な食事。
「僕が花を生けました!」
ミシェルの芸術のセンスが発揮され、色とりどりの花がうまく調和し部屋を飾る。
マリクも合流し、夕食が始まる。
普段より豪華で美味しい。さらにデザートもあるらしい。
マリクが持ってくる間にミシェルが渡すものがあるという。
渡されたのは、水彩絵の具で描かれたメリッサの似顔絵だ。
「わぁ! これ私? 嬉しいわ!」
特徴を上手く捉えていて、綺麗に塗られている。
ミシェルからのプレゼントに、胸がいっぱいになった。
「ありがとう、ミシェル」
「喜んでくれて嬉しいです」
感激しているとマリクが戻ってきた。
「母上! 誕生日おめでとうございます!」
マリクが運んできたのは……
ショートケーキ!
「えっ、ショートケーキ?」
この世界に日本のショートケーキはないらしい。もともと、ショートケーキは日本で作られたものだそうだし、そりゃそうか! と諦めていた。
「そうです。 母上の食べたいものになっているかは分かりませんが……美味しく出来たと思います!」
「う、嬉しいわ! ありがとう! みんな私のために準備してくれるのよね? みんなありがとう」
嬉しくて涙が出そうだ。
ペンダントをくれたエドアルド、似顔絵を描いてくれたミシェル、ケーキを作ってくれたマリク、料理を作ってくれた料理人に使用人たち。
感謝が止まらない。
「改めて、メリッサ……誕生日おめでとう」
「「誕生日おめでとうございます」」
エドアルドに続き、ミシェルとマリクが一斉にお祝いをしてくれる。
使用人たちも拍手をくれた。
顔が熱いわ。
「さ、食べてください」
皿に取り分けられたショートケーキは綺麗に生クリームが絞られ、大きくてつやつやした苺が乗せてある。
すっとフォークを刺し、わくわくしながら口へ運ぶ
「美味しい……」
日本のと少し違う味わい。けれど、どこか懐かしい味がして、まぎれもなくショートケーキだ。
知らない世界で、慣れ親しんだ味に出会えるなんて。
涙が本格的に止まらなくなった。
「メリッサ、大丈夫か?」
みんなが慌てる。戸惑わせてしまった。
「大丈夫。嬉しすぎて……本当にありがとう」
メリッサを含め全員が笑っている。
自分のために、ここまでしてくれる人たちがいる。
最初はどうして異世界に、と思っていたが、ここに来られて良かったと、今なら思える。
「最高の誕生日だわ!」
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