第19話 お出かけ1

注意

今回は戦闘シーン、流血描写があります。苦手な方はお気を付けください。


ーーーー


「ねぇエドアルド、私街に行きたいの」

 メリッサは先日農家へ出かけた際、馬車から見えた街に行きたかった。

 というか異世界の街に行きたい。散策したい。


「そう、だな。体も問題なさそうだし、いいだろう。念のため医師は連れていくぞ」

「わぁい! ありがとう!」

「何か欲しいものはあるのか?」


 具体的に欲しいものはない。

 ウィンドウショッピングがしたいのだ。


「特には……。ただ街が素敵だったから行ってみたくて……」

「そうか。それなら美しい菓子屋を知っている。そこに行こうか」


 あら? エドアルドも来るってことよね。

 これって、デートってこと?


「久しぶりだな。二人で出かけるのは」

 やっぱりデートだわ!


 プレゼントをもらった際、あんな大胆なことを言われたから意識してしまう。

 

 週末に出かけることになり、メリッサは出かける日まで街へ行けることへのわくわくと、エドアルドとのデートにドキドキする羽目になった。


 当日、馬車に揺られながら景色を眺める。

 外を見るのは楽しいから、というのともう一つ、エドアルドに顔を向けられないからだ。


 隣に座るエドアルドの手はメリッサの手の上に重ねられている。

 ドキドキして、彼の顔を見ると言葉が出なくなってしまう。

 それゆえ、つい外を見てしまうのだ。


「メリッサ、酔ったりしていないか」

「ええ、大丈夫」

 話しかけられたら彼の方を向かざるを得ない。


「ペンダント、着けてくれてるのだな」

 エドアルドはいつも通りの調子だが、その表情は普段よりも柔らかい。


 このペンダントはいつも着けている。

 アクセサリーは他にも持っているが、エドアルドから貰ったこのペンダントが一番気に入っている。

 宝石が綺麗でデザインも気に入っていて、ペンダントを見るたびにプレゼントしてくれた時の嬉しくなった気持ちを思い出す。「愛してる」と言われたことも思い出してしまうが。


 エドアルドに言葉を返そうとするが出てきたのは小さな悲鳴だった。

「キャッ」

 馬車が急停止し、大きく揺れたのだ。エドアルドに体を支えられる。


「メリッサ、大丈夫か? 何事だ」

 エドアルドが外を確認する。


「……!」

 エドアルドの顔が強張った。

「どうしたの……?」


 メリッサは窓から外を見る。


「金目の物を出しな!」

 野太い声が聞こえてきた


 強盗だ。馬車の前に十数人立っていた。


「皆は出るな」


 エドアルドは降り、強盗の首領の男の前に立った。


「ユービール国、ナグラート領領主、エドアルド・ティローネと知っての狼藉か!」


 エドアルドの声は大きく、威厳があった。


「貴族か。そりゃあいい! 金目の物を奪ってやれ!」


 一斉に手下がエドアルドに襲い掛かる。


 「エドアルド!」

 メリッサが悲鳴を上げると同時に、エドアルドの前から火球が走った。


 それに当たって強盗が数人はじき飛ばされ、燃える。


 エドアルドが魔法を放ったのだ。

 盗賊があっけにとられている間にエドアルドは身に着けていた細身の剣を素早く抜き、近くの敵を鮮やかな剣さばきで倒す。


 前から来る敵を斬りつけ、素早く回転し後ろから迫る敵を左手で殴る。

 遠くから弓で狙う者には、氷魔法で生成したつぶてを飛ばし、戦闘不能にした。


 その中で強盗の一人がメリッサの乗る馬車へ向かって来た。

 額から血が流れ、目を見開き、恐ろしい顔をしている。


「ひっ」

 メリッサの体が震え、後ろへ下がるがすぐに壁に当たる。

「メリッサ様!」

 医者と従者がメリッサの前に来て庇うが、狭い馬車の中だ。開けられたらひとたまりもない。


 メリッサの呼吸が粗くなっていく。


「私のメリッサに触れるな!」


 エドアルドが叫んだ。今まで聞いたことのない、怒りを含んだ声。

 エドアルドは眉間にシワが寄り、鬼のような顔で、馬車へと走ってくる。が、間に合わない。


 強盗はドアの取っ手に手をかける。


 手が取っ手に触れた利那、まばゆい光が強盗を襲った。

 メリッサたちもまぶしさに思わず目を細める。


 強盗はひるみ後ずさる。


 そこにエドアルドが左下から剣を降る。強盗の右脇腹から心臓の位置まで一気に斬り抜いた。

 さらに回し蹴りで追撃する。風魔法で速さを上げた重い一撃で強盗は吹き飛んでいった。


「ひいい」

 周りの強盗から悲鳴が上がる。


「逃げるな! まだ数はこっちの方が有利だ!」

 首領が怒鳴った。


 メリッサは生きた心地がしなかった。

 扉の窓越しにエドアルドと目が合う。メリッサは扉の方へ急いで寄った。


「大丈夫だ。もう少し待っていろ」

 とエドアルドが声をかけてきた。


 窓越しに二人の掌が合わさる。

 その声に、もう大丈夫だとメリッサは思った。


 エドアルドは残りの盗賊に向かって行った。


 魔法を打ち、一人を仕留めた。その奥からもう一人が飛び出し、短剣を振りかざす。

 それを剣で受ける。はじいて腹を蹴った。横から来た敵を斬る。その勢いのまま回り、左手から流れるように雷魔法を放つ。バチバチと音が鳴り、腹を蹴った男にとどめを刺し、周りにいた男二人も倒した。


 エドアルドは残った敵を一掃していく。その姿をメリッサは見ていた。

 

 なんて綺麗な動きなのだろう。メリッサは息を吞む。


 残るは首領の男のみ。

 エドアルドは首領に向き合う。首領の男は剣を抜いた。


 エドアルドと首領の視線が交差する。


「良い剣だな。それは盗品か?」

 エドアルドは余裕そうに言う。


 男の足元が光る。

 男は慌ててその場から離れた。


 直後、一瞬で火柱が上がる。

 直径一メートルの魔法陣から勢いよく出て轟轟と音をたてた。


 エドアルドは男が魔法陣から離れた時には動いていた。

 地面を蹴り首領の元へ迫っている。


 剣を上から降り下ろす。男はそれを受ける。エドアルドが蹴りを入れる。男に直撃したがすぐ態勢を立て直し、エドアルドへ剣を振るった。エドアルドは全てを捌いていく。


「剣は一級品でも使い手はそうではないようだな」

「くっ!」


 男は青筋を立てて、エドアルドに突進し、剣を振る。


 エドアルドは受けようとしない。そのまま男へ斬りかかる。

 しかし、男の剣の方が先に到達すると思われた。実際速かった。


 エドアルドの顔面に剣が届く。


 ぶつかる寸前、エドアルドの頭上に防御魔法が展開され、薄い水色の防御壁が剣とぶつかりガンッと音を立てた。


 男の攻撃は届かず、迫るエドアルドの剣を防ぐことも間に合わない。


 エドアルドは一気に男を斬り伏せた。

 男は血を流し倒れる。


 戦いは決着した。


 圧倒的な強さ、顔色一つ変えず敵を倒していくエドアルドの姿にメリッサは目を離せなかった。


 かっこいい。


 胸がドキドキと音をたてる。


 エドアルドは剣を振り、血を落とし刀身を鞘に収めた。

 そして強盗たちを拘束魔法で逃げられないようにした。


 馬車の扉が開く。


「無事か? メリッサ」


 エドアルドの髪は乱れ、毛束が顔にかかっている。顔には血がついていて、服も赤く染まっている。


 メリッサは知っている。エドアルドは敵から一太刀も食らっていない。彼についている血

は全て返り血だ。


「私は大丈夫。エド……は……」

 エドアルドは? と聞く前に、安心して涙が出た。


「私は平気だ。怖かっただろう。もう大丈夫だ」


 エドアルドは手袋を外した。その手がメリッサの頬に触れる。


 血の匂いがして、エドアルドが戦いに身を投じ、彼に守られたことを実感する。

 エドアルドの顔がメリッサに近づく。


 これは……まさか、キス?


 メリッサの鼓動が速くなる。戸惑ったものの止めようとは少しも思わなかった。


 もう少しで唇が触れそうなところで止まり、エドアルドはぽすっとメリッサの肩に顔をうずめた。

「無事で良かった。本当に……」


 優しい声色。


 メリッサはエドアルドの背に腕をまわして抱きしめた。




 馬車は再び街へと出発する。

「すまない、街へ着いたら強盗を引き渡さなければならない」

 街はもう近いのでそのまま強盗たちを引き連れ街に向かった。

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