第6話 音楽の授業
習い事を始めてから二週間が過ぎた。ミシェルは習い事をしている間、魔法と剣の授業のことを忘れられ、気持ちが軽くなった。
今日は音楽の授業だ。
音楽の先生である、サンドラは青味がかった銀色で肩につくぐらいの長さの髪を持つ女性の教師だ。
ミシェルは音楽の授業が好きだった。
今はピアノを習っているが、以前弾いていたことがあり理解がしやすかった。そのおかげで今は難しい曲にも挑戦している。
メリッサは苦戦しているらしい。音が綺麗に出ず、演奏を途中で止めては楽譜とにらめっこしている。
しかし、それでも楽しそうだった。
少し弾けたら笑顔になって、弾けなければへこんでまた弾いて、曲が形になれば笑って。
楽しんで弾くその姿は技術が上の自分よりも輝いて見えるのだ。
回数を重ねるごとにメリッサは少しづつ上手くなっていき、全て弾けるようになった。音も初めた頃より安定し良くなっている。
「メリッサ様! 弾けましたね!すごいです」
サンドラがメリッサを褒める。
「お母様、すごいです!」
ミシェルもメリッサを祝った。
「ありがとう」
とメリッサは満足げに笑っていた。
そうか、ラミが「描き続ければ必ず上手くなります」と言っていたがそれはこういうことか。
なかなか上手くならなかったが、諦めずに続けた結果、メリッサはこうして弾けるようになった。
僕も、もしかして……
「メリッサ様、ミシェル様、もしよろしければ演奏会を開いてみませんか?」
サンドラが言った。
「わ、私が?」
「演奏会ですか?」
「ええ、使用人やご家族だけの小さな演奏会です。上手くなられたのですから、発表してみてはどうかなと」
サンドラはいつものにこやかな顔で言った。
「わ、私にできるかしら? 今日弾けるようになったばかりよ?」
メリッサは珍しく弱気だ。
「僕には無理です!」
失敗したらどうしよう……とミシェルもためらう。
「失敗してもいいんですよ。その時は自分に何が足りなかったのか分かるだけです。それを直せばさらに成長します。自分の実力を知るいい機会ですよ」
「確かにそうよね。プロになるわけじゃないし、チャレンジするのもいいわね」
メリッサが言う。
失敗してもいい、か。
習い事を始めてからミシェルの気もちは前向きになりつつあった。
挑戦……してみようかな。
「僕も、やってみます!」
⭐︎
メリッサはバラを眺めつつ最近のミシェルのことを考えていた。
ミシェルは最初の頃より明るくなった。演奏会にも積極的な姿勢を見せ、メリッサは嬉しく思う。
そういえば魔法と剣以外の授業は大丈夫だろうか?
剣と魔法以外にも、歴史や語学、計算、読み書きなど学ぶことはたくさんある。
先生たちに聞いてみよう。
歴史、語学、計算、読み書き、どの教師もミシェルは「真面目に取り組み、成績も大変良い」と答えた。
歴史の教師、ベルは
「よく質問してきますし、物事をしっかり考えられています。図書室で本をよく読むらしく、授業以外の分野の本もどんどん読むと良いでしょうね。きっとミシェル様の力になりますよ」
と言っていた。
語学は覚えることが多く、手間取っているらしいが嫌いではないらしい。
すごい高評価じゃない! うちの子たち優秀すぎん? 魔法と剣の才能がないだけで落ち込むにはもったいないのでは?
これはミシェルに伝えなきゃ。どうやって伝えたらいいかしら? そういえば、前世にはそういうことにぴったりのものがあったわね……!
メリッサは早速あるものを作ることにした。ミシェルは喜んでくれるだろうか?
「ミシェル様は魔法の成績が良くないのですか?」
驚いた様子でラミが聞いてきた。
今はラミと魔法の教師から話を聞きつつお茶を飲んでいる。
「そうなんです。それで少し気を病んでいるようでして……だから少し離れて別のことをした方がいいと思い、あなたに来ていただいたのです」
「いやぁ、そうだったのですね。最初の時に何かあったのだろうなと思ったのですが、そんな事情があったとは。最初のデッサンは鬼気迫る様子でしたから」
ラミは紅茶を一口飲み、続けた。
「ミシェル様は観察眼も理解力も高いお方なので意外ですな」
魔法の教師が言う。
「そうなのです。ミシェル様は座学は優れてらっしゃるのですが実技がダメなのです! あぁもったいない! 学ぶのをやめてしまうなんて!」
これは剣の教師も言っていた。どうやらミシェルは実技が苦手みたいだった。
運動系の習い事はあまり進んでやりたい様子がなく、本人も楽しくはなさそうだ。
ミシェルは体より頭を使ったり、細かい作業の方が得意らしい。
「マリクはどうですか?」
魔法の教師に尋ねる。
「マリク様は魔力のコントロールが上手で、非常に優秀ですね。マリク様は体を使って覚えるタイプのように思います。ミシェル様とは反対で座学は少し退屈そうにされてますね」
「真反対ねぇ」
二人を足して二で割れば丁度良くなりそうだなぁ。
とはいえ人間とはそういうもので、完璧な人はいなくて、人には必ず得意なものと苦手なものがあるものだ。
「なるほど。わかりました」
メリッサはお茶請けのクッキーを口に放り込み、紙にメモを取った。
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