刻まれる時の、重みを別つ

 時計の音っていいね。綺麗だから。


 君はくすっと笑ってそんなことを言った。



 ごめんね、私には訳が分からなかった。チクタクチクタク。人を苦しめるその音が綺麗だなんてさ、冗談もいい加減にしてくれってまで思った。


 でもね、君は笑うんだよ。体の横でチクタクチクタクと時を刻む時計の前で。私が苦しむその横で。


 チクタクチクタク、今日も一分一秒が刻まれて、それ自体は何にもおかしくないのにその音を聞きたくなくて。


 なんで?ってそんな寂しそうな顔で君は儚く笑う。


 確かに君には分からないかもね。生まれていないから。あの時を知らないから。


 でもね私には聞こえてきそうなの。


 チンっていう音が、終わりを告げる音が。聞こえるはずもない幻聴なのに。


 チクタクチクタク、そう。それは一分一秒時を進める音であって、一分一秒終わりに近づいていく音。


 あぁ、思い出しちゃうんだよ。この音で、この音のせいで。あの時を、あの黒くうねる怪物を。


 でももしね、君がその音が刻む時、そのをたった一瞬を慮ってくれるなら。想ってくれるなら、それは何よりも君にとって大切なことで、私にとってもとてもとても嬉しくて、ありがたいこと。


 ねぇ、そろそろ、時間だよ。


 今は午後2時46分10秒。あぁ、今年も蘇る。


 チク、タク、チク、タク。私はこの音が嫌い。


 チク、タク、チク、タク。でも今はあの時じゃない。


 サイレンが叫ぶとともにこうべを垂れて祈りを捧げる。


 地震により亡くなられた全ての方々に哀悼の意をこめて。


 そして、愛しい息子にあのような厄災が降りかかりませんように。

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