心の氷像を捧げて
「大丈夫」私はこの言葉が嫌い。だって、そんな薄っぺらな言葉で何ができるっていうの?
ねぇ、貴方。そうやって私を心配そうに見る貴方は何を打算しているの?
他の人たちは騙せるかもしれないけど、私は知ってるんだから。他人は信用しちゃいけないし、できるものでもないってことを。そして私以外は皆結局「他人」なことも。
貴方は何なの?そんなに眉を下げて、作り笑いをして。
不思議とその顔は嫌いじゃなかった。なんだかちょっぴり懐かしくて、優しくて。そして吐き気を催す顔。そう、お母さんに似てるんだ。私を残して消えちゃったお母さんに。
ぐちゃぐちゃな思いからすっとはぐれて飛び出たのはたった一言だった。
「こっち、見ないで。」
ぁ、違う。そう言おうとしたんじゃない。そんなんじゃなくて、どこかに行ってほしいかと言われれば決してそうじゃなくて。言い表せない複雑な気持ちが残って顔を上げると、貴方は変わらず同じ場所にいた。とても傷ついた、悲しそうな顔をして。
…あぁ、もう。嫌だ。そんな顔しないでよ。私だって分かってる。貴方が善意で動いてるってことぐらい。打算なんてないってことぐらい。
でもね、知ってても、わかってても私は貴方に近づけない。だってさ、私は氷像。暗くて冷たい場所に放置されている氷像。それに比べてあなたは太陽。他人に好かれてて、あったかい笑顔を振りまいてる太陽。
無理なの。あなたが近づいたら私は消えちゃう。でも、私が近づいても消えるのは私。
私だって貴方が全面的に大っ嫌いなわけじゃない。私だってそっちにいたい。こんな辛くて冷たい場所じゃなくて、あなたのいるあったかいところに。
うらやましい、羨やましい、妬ましいよ。それが強者の余裕って奴なの?
ふと左手に水気を感じた。ぽつぽつぽつって。あなたから見れば意味が分からないでしょうね。笑いなよ。こんな惨めでちっぽけな私を。
気づいた時には視界が暗転していた。「ぎゅっ」だなんていう優しい音が聞こえたような気がした。まず感じたのは暖かさ。だけど次に感じるのは恐れ。やめてよね、私が溶ける。私が消えちゃう。そう頭は拒絶しているのに体は動いてくれなかった。
ーあったかいなぁ。
気づけば目を曇らせる雲は晴れていて、陰鬱にさせる雨はやんでいた。
もう、なんだか無茶苦茶だ。結局、私の口から出てきたのはたった一言ぽっちだった。
「なんで…よ。」
そう問うと、貴方はまるで逆に疑問を持つように目を丸くして、笑った。
私の頭をぽんぽんって叩きながら。
あぁ、敵わないな。私の芯は貴方に溶かされちゃった。それも私が気付かないほどに優しく、静かに。
こんなのになっても意地だけ張って外見だけ保つなんて阿保らしい。
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