第27話 恋バナとは楽しいものです
思いがけず盛沢山になった王都訪問が無事に終わり、私たちは再び辺境伯領……いや、ウィンザー公爵領への帰途についた。
帰り道ではリアムの溺愛ぶりが爆発し、テッドとエマが顔を赤らめる場面が数多くあった。
「……リアム様があんな風になるなんて驚きです」
馬車の中で二人きりになるとエマがしみじみと言った。
「あんな風って……その、甘すぎるってこと?」
「そうです! ミラ様を見る目の甘いこと! それに顔が緩みっぱなしというか、まさかリアム様のあんな顔を拝めるようになるなんて思いませんでした」
「緩んでるかな? 甘いと感じたことはあるんだけど、昔はそうじゃなかったの?」
「全然ですわ! リアム様はいつもクールというか、女性に対して関心を寄せることがほとんどなかったんですよ。貴族の令嬢だけでなくて、地元の有力者のお嬢さんとか、とにかくモテモテだったんですが……。一応の礼儀は尽くすものの全く関心がなさそうで。恋人を連れて来られた時も、やっぱり受け身な感じでしたもの。あんなに積極的にグイグイ行くリアム様は見たことがありません。よっぽどミラ様に夢中なんですわ。私たち使用人一同の悲願を達成して下さったミラ様には感謝してもしきれません。本当にありがとうございます。どうかリアム様を宜しくお願い申し上げます」
エマに深々と頭を下げられて、私は戸惑った。
「え、いえ、そんな……私こそ……ヨロシクオネガシマス」
神妙にお辞儀をするとお互いの顔を見合わせてふふっと笑った。
「ありがとう、エマ。でも、人前ではもっと抑えるようにするね。あまりべたべたし過ぎると目のやり場に困るだろうし、不快に思わせてしまうもんね」
「いえ! 不快なんてことは決してありませんわ! むしろ眼福……いえ、どうか私のことはお気になさらず。公の場では少しお気をつけになった方が宜しいかもしれませんが、リアム様もそこは加減していらっしゃるように思います」
「そうかな? テッドは呆れてたみたいだったけど……」
「テッドのことは気になさる必要ありませんわ。まったく、あいつは情緒を解さないんだから……」
独り言のように呟くエマの口調を聞いて、私は何気なく質問した。
「テッドとは随分親しいのね?」
言った瞬間にエマの顔が完熟トマトさながらに真っ赤に色づいた。
え!?
「……ぜ、ぜんぜん……親しいなんて……その……あの」
おやおや~?
これまで見たことのないエマの表情に、私はニンマリした。自分自身の恋愛経験は少ないけれど、私は昔から恋バナが大好物だ。
なんでも、今回の旅の打ち合わせなどで一緒に過ごす時間が多く、短期間で仲良くなったらしい。王都でも休憩時間が合った時に二人で王都観光に出かけたそうだ。
「……その、私は王都が初めてだったので、騎士訓練で王都に滞在したことのあるテッドが案内してくれたんです」
そして、その時に告白されたんだって! きゃ~!
根ほり葉ほり聞き出した私はニヤニヤが止まらない。
「テッドはいい人よ。ジャガイモを剥くのがとても上手だったわ! きっと料理上手な旦那さんになるわよ!」
それを聞いてエマがクスクス笑った。
「そうですね。性格は良いと思いますし……」
「それにイケメンの騎士よ。カッコイイと思わない?」
私の質問にエマが分かりやすく照れた。
「それで!? 付き合うんでしょ?」
興奮しすぎてしまって、つい遠慮もなく聞いてしまったが、彼女は恥ずかしそうにコクリと頷いた。
乙女~~~!!!
ああ、興奮で息が荒くなる。エマはなんて可愛いのだろう! 若いイケメン騎士のテッドとお似合いだ。私が知らない間にそんなロマンスが生まれていただなんて!
「あの、でもまだ人には言わないようにしようと思っていますので、ミラ様も内密にしてください……。リアム様にはお伝え下さって構いませんので」
「もちろんよ! リアム以外の誰にも言わないわ! リアムにもちゃんと口止めするから。おめでとう! とってもお似合いの素敵なカップルになるわ!」
私の言葉にエマがぽっと頬を赤らめた。
恋する乙女はとにかく最強に可愛い!
私は思わずエマをぎゅ~っと抱きしめた。
*****
ウィンザー公爵領に戻ってからも、私たちは毎日忙しかった。
特に復興事業はこれまでのところ大成功で、甘藷スイーツやワンピはリマの街だけでなく、他領でも飛ぶように売れる人気商品になった。更には外国からも問い合わせが来ていると聞いて驚いた。予想よりも大幅に利益が伸びたので、人々に支払えるお給料も増えて嬉しい。このまま甘藷とワンピの仕事をしたいと希望する人が多く、公営事業として継続することも決まった。
また、復興事業の主要な柱の一つである住宅建設がほぼ完成したとの報告を受けた。難民キャンプに居た人々は全員自分の家を手に入れられる。
ほとんどの人が元々住んでいた町に戻ることを希望しており、徐々に人々が難民キャンプから新しい家へと引っ越していく。テオとリタが上手に調整してくれたおかげで、引っ越した後も甘藷スイーツや綿製品の製造がしやすい環境になっているらしい。甘藷調理、紡績、染色、織物などをそれぞれグループに分かれて作業しやすいように新居も配置したという。凄腕の二人だ。
「甘藷スイーツとワンピは、将来的にもうちの領地の主力商品になるだろうな。経済が回れば人々の生活も豊かになる。しかも、女性が主力となる仕事だ。働きたい女性により多くの働ける場を提供することが出来る。全部ミラのアイデアのおかげだ。ありがとう」
リアムに褒められると飛び上がるくらい嬉しい。最近の私はリアムに褒められたくて生きていると言っても過言ではない。
尻尾をぶんぶん振って飼い主に懐く犬のような気分だ。尻尾はないけど。
「テオやリタや難民キャンプの人達のおかげだよ。私はほとんど何もしてないし。でも、少しでもリアムの役に立てば嬉しい。私、もっと頑張るね!」
私が言うと、リアムは甘く微笑んだ。
「無理しないでいいよ。ミラは居てくれるだけでいいんだ。君がいるだけで俺は幸せだから」
蕩けるような眼差しで私に軽く口づけする。
最近、自分たちがイチャイチャし過ぎるバカップルになってきているようで不安を感じるが、城の使用人はいつでも微笑ましそうに私たちを見守ってくれるので、結局「ま、いっか」になってしまうのだ。
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