第15話

 話し合いは比較的上首尾で終わった。

 ギルドマスターのバリスさんは終始ビビっている感じだったが、問題なくこなせたといって差し支えないはずだ。


 俺達は今後、マサラダの街を経由するような形で人間達と関わり合いを持って行くことになる。

 彼らと組んでダンジョンをやっていくにあたって、色々と気をつけなければいけないことがある。


 良好な関係を保つためには、ダンジョン内にいくつか変更を加えることも必要だろう。


 幸い、このダンジョンの情報を明らかにし一般公開がされるまでに、何日か時間をもらえることになった。

 なのでしばらくはラビリスと一緒に、そのための準備をする時間に充てるつもりだ。


「マスター、今日は一体何をするんですか?」


「ざっくり言うとダンジョン内の改装工事だな。とりあえず第一から第十階層までを初心者向けに整えていく」


 今後ダンジョンのお客さんとなってくれるであろうマサラダの冒険者達のレベルはその、なんというか……お世辞にもあまり高いとは言えない。


 なので彼らがダンジョンに慣れるための階層として、第一から第十階層までを大幅に改築するつもりだ。


 少なくとも第一階層から軍団長を置くようなことはことは、今後は止めようと思う。

 最序盤でラスボス級が出てくるとか、どんなクソゲーだって話だしな。

 まああれは俺がやったんじゃなくて、ファスティア独自の判断だったわけだが……。


「とりあえず第一階層はそのままで良いとして……第二階層以降は一度作り直しだな」


「ええっ、そんな! 一生懸命作ったのにもったいないですよ!」


「しょうがないだろ……殺意が高すぎるんだから」


 一応俺としては、第一階層はお試しエリアのつもりで作っていた。

 以前まだ初期のDP炉を作っていた時に頑張ってもらっていたスライム達を配置したり、中身ショボめな宝箱なんかも設置したり、以前のダンジョンを偲ぶようなスペースにしていたのだ。


 だが第二階層以降は、一切の容赦がない。

 普通にやってくる軍隊を皆殺しにできるようにダンジョンを作っていた。


 第一から第十まではファスティアのスライム軍団の管轄するエリアなので、スライムの特色を活かした構成にしている。


 とりあえず第十一階層までに徴兵された雑兵を皆殺しにするというのを一つの目標に設定していたので、全体的に殺意がマシマシなのだ。


 物理ダメージを受けづらいスライムの特性を活かすため常に即死系の罠が発動し続ける中でスライムだけ動き続けられる全面罠エリアとか、スリップダメージがあるマグマや氷山でスライムだけ一方的に攻撃ができるエリアとかだな。


 ただこのままにしておいたらマサラダの冒険者が全滅する未来しか見えないので、とりあえず第二階層以降は全とっかえである。


 一応の目標としては……そうだな、第十一階層に辿り着く頃くらいには、全員がダンジョン探索のできる普通の冒険者になれるくらいのイメージでいくか。


 武器や防具、それにアイテム類なんかも一通り揃えられるようにするのがいいだろう。

 各階層ごとにポップするアイテムを分けて、一部の階層に長期間こもる必要があるように設定なにかをすれば、ダンジョン探索に幅を持たせたりもできそうだ。


「……っと、まずはその前に第一階層の改修からだな。出てくる魔物がスライムだけなのは良いとして……宝箱の中身は入れ替えなくちゃいけないか……」


 『うっは、夢が広がりんぐ状態!』だが、まずは地に足をつけて第一階層のマイナーチェンジから始めていこう。

 ゴルブル兄弟にほとんど全部開かれたし、宝箱を設置し直さなくちゃいけないからな。


「以前のままでいいのでは?」


「いや、それだとちょっとおいしすぎるんだよな……俺としてはガンガン奥深くに入ってもらいたいから」


 ティアマトには街での情報収集と併行して、基本的な物価なんかも調べてもらった。


 そこで判明したんだが……俺の第一階層でのポーション類や装備の放出は、世間一般のダンジョンからするといささかばら撒きすぎだったようだ。


 まあゴルブル兄弟が血眼になっていた時点で、なんとなく察してはいたんだが……。


 アイテムをばら撒いてここが良いダンジョンだということを喧伝するのは悪くない気もするんだが、そのせいで意欲がなくなるのは問題だ。

 上の方だけで十分な稼ぎになり、それ以上下に潜ろうとしない……みたいな状態になるのは一番避けたいからな。


 以前とは違い、一気に大量の人間達が来ても処理しきれないってこともないわけだし、出てくるものをある程度価値のあるものにすること自体は問題ない。


 出すものはとりあえず消え物のポーション類を多めにしておいて……たまーに装備が手に入る感じがいいだろうか。


「ラビリスはどんな中身にするのがいいと思う?」


「全部大当たりにしたらいいんじゃないでしょうか!?」


「だからそれをやるとだな……」


 俺はダンジョンに拡張や変更を加える時、なるべくラビリスと話をするようにしている。

 ダンジョンを自由に操れるとはいえ、俺自身は別に完璧な人間でもなんでもない。


 見落としているところをチェックしてもらったりするのにも役に立つし、彼女に話をしているうちに新たなアイデアが浮かんできたりもする。


 ラビリスは俺のダンジョン運営において、非常に良きパートナーなのである。

 ……人の話を聞かないことも多いし、非常にというのは取り消しておこう。


「当たり自体は入れる、でも数は少なく……それなら確率で装備が出る宝箱を出すのがいいんじゃないですか? くじと同じ発想です!」


「お、それはいいな」


 権能である『宝箱生成』を発動させると、視界の端に映っているホログラムを通して、第一階層の中に宝箱がぽこぽこと生成されていくのが見える。


 基本的に宝箱の中身は固定していたが、ロックマ○エグゼの青のミステリーデータよろしく、中身に確率を振ってランダムで変更したりすることもできる。


 これも大々的に伝えたりすれば、集客が見込めるかもな。

 ガチャに沼った経験があるので、当たるまで突っ張りたくなる気持ちもよく理解できるし。

「当たりの内容は……とりあえず金貨とかにしておくか」


 この世界の貨幣は金貨・銀貨・銅貨の三つで成り立っている。 

 貨幣に使われていることもあり、金はほとんど値崩れしない。

 宝飾店にでも持ち込めば、良い値段で引き取ってもらえるはずだ。


「よし、それなら次は第二階層を……」


「あのー……マスター、一ついいでしょうか?」


「ん、どうした?」


 ぐいぐいっと腕まくりをしながら第二階層に変更を加えようとしていると、ラビリスから待ったがかかる。

 彼女が真剣な表情をしている時は、きちんと話を聞いていた方がいいことが多い。


「第十階層までだけを改装するとなると、ファスティアさんがかわいそうじゃないですか?」


「……たしかに、そうかもしれないな」


 そして実際、聞いておいた方がいい話だった。

 第一から第十階層までは第十軍団の担当する領域。

 一応事前に変更を加えることは伝えて魔物達には非難してもらっているとはいえ、いきなり自分達のエリアが初心者向けに改装されたら嫌がるだろう。


 どうやらダンジョンに人を呼び込めるようになり、浮かれていたらしい。

 ファスティア達の気持ちをあまりにもないがしろにするようじゃ、ダンジョンマスター失格だ。

 少し考えれば、代替案を出すのは簡単だった。


「じゃあ……第二階層から第十階層をそれぞれの軍団長に弄ってもらう形にするか。こうすればファスティアのところだけ人間と戦えてずるい、という不満も抑えられるだろう。あいつらにも……メインディッシュの前の、良い気晴らしになるだろうし」


「さっすがマスターです!」


 そう言ってぴるぴるとあたりを飛び回るラビリス。

 前言撤回させてもらおう。

 やっぱり彼女は俺の――最高のパートナーだ。




 というわけで俺は第十階層までを更に下の階層のお試しエリアとして、均等に各軍団長に振り分けることにした。


 ダンジョンを弄る能力は俺にしかないので、その後は急ピッチで各軍団長とああでもないこうでもないと話をしながら、初心者向けの階層を一緒に作っていく。


 しっかりとコミュニケーションも取れたし、皆が考えていることもある程度理解できたので非常に有意義な時間だったことだけ伝えておこう。


 とにかく急いでやらなくちゃいけなかったから、高校の頃の文化祭みたいでなんだか楽しかったことも付け加えておこうかな。


 あっという間に時は経ち、俺達混沌迷宮の情報が正式に開示させる当日がやってくる。


 今回の製作に携わった者達全員で第百階層にあるモニタールームに集まり、俺がDPで取り寄せたお菓子を食べながら画面をのぞき込んでいると……とうとう冒険者パーティーが、ダンジョンの中へとやってきた!

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