第10話
この五年間、俺はただひたすらにじっとダンジョン経営に心血を注ぎ続けた。
おかげで既にダンジョンは第百階層まで拡張が済んでおり、階層もダンジョンに適した形へと組み直し、DPもむちゃくちゃな使い方をしても使い切れないくらいには溜まっている。
魔物達の中に最終進化系まで辿り着いた者達も増え、彼らには種族ごとの軍団を持たせ、各階層ごとに軍団を置いて種族同士の連帯を強めさせることにも成功した。
これだけやれば、たとえ世界連合相手でも一方的な戦いができるだろう。
そう自信を持って言えるだけの戦力を揃えた段階で、俺は偵察用にかねてから用意していた向けた魔物――アイズ系魔物の最終進化形である、ケイオスバルパーイビルアイのアイに周囲の状況を探ってくるように命じた。
人に見られた段階で防衛体制を整えて勇者を迎え撃ち、問題なく倒すことができたのは良かったんだが……
「――誰だよ、勇者ゴルブル兄弟って!?」
肝心の倒した勇者の名は、俺が今まで一度として聞いたことのないものだった。
それだけ時間をかければ来るのがコタローじゃないかもくらいには思っていたが、まさかまったく知らないやつらが来るなんて思ってないって!
リメイク版からDLCまで全部やりこんだ俺が見たことないんだから、あの二人は間違いなく『ダンジョン&モンスターズ』のキャラじゃない。
ダンモンにも変わったキャラはいたけど、非戦闘要員を暴行しながら連れてきて、見張りをさせるような鬼畜な勇者はいなかったしな。
「となるとここは、ダンモンでもなんでもない普通の異世界って事になるわけだ……」
いや、そう考えるのは流石に早計か?
アースウィッチを使ってダンジョン拡張ができたり、地球の現代技術を使ったアイテムが生成できたりと違和感はあるが、ひょっとするとダンモン世界の数百年後とかいうパターンの可能性もゼロじゃない。
ダンジョンと外だと時間の流れが違ったり、あるいは俺が転移する時に時空の歪みが発生してたりした……なんて可能性も十分考えられる。
「とにかく情報が必要だな……」
ファスティアの戦闘を見ていた感じ、配下の魔物達は勇者相手でも十分戦えそうな様子ではある。
あいつらでも全体の平均より上になるらしいから、国を相手取っての戦争も問題なくこなせるだろう。
宝箱から出た初級のアイテムであれだけ喜んでたんだから、技術格差もあると考えるべきか?
だとすれば戦いもより優位に進められるはず。
できればこの世界の英雄クラスの実力を知って安心しておきたいところだが……
「マスター、シンディさんを応接室に通しておきましたよ!」
リノリウムを敷き詰め、その上に真っ赤な絨毯をした俺の執務室に、迷宮妖精のラビリスがピルピルと音を鳴らしながら入ってくる。
五年経って彼女もほんの少し……小さじの軽量スプーンの数分の一程度には落ち着いてくれた。……まあつまりは、ほとんど変わっていない。
俺が言いつけた通り、入り口で腕を縄で縛られ死んだような目をしながらアイテムを見つめていたシンディを連れてきてくれたようだ。
監視用の魔物であるイビルアイを使って見てみると、用意している応接室に入ってきた彼女はビクビクとしながら、しきりに周囲を窺っていた。
ここは俺が行くべきだろうな。
俺が手ずから育て上げた魔物達は、純粋な戦闘能力は高いが色々と癖が強い奴らも多い。
そしてほとんどの個体が、普通の人間相手の情報収集には向いていない。
それに彼女は俺にとって、初めてコンタクトをすることになる第一村人だ。
せっかくなら会って、色々と話を聞いてみたい。
「ラビリス、護衛としてベルナデットを呼んできてくれ。話は俺がする」
「了解しました!」
「それと……ダンジョン内にいる全ての軍団長に通達を。情報収集が終わり次第、今後のダンジョンの経営方針について一度話し合いの場を設けるぞ」
「――はいっ、わかりました!」
勢いよく飛び回りながら、執務室を後にするラビリス。
地面に敷いている赤いラグの上に、彼女が無意識のうちにまき散らした鱗粉が輝いていた。
パチリと指を鳴らせば、ウィンドウィッチが開発してくれた風魔法式掃除結界が、妖精の鱗粉を吸い取ってくれる。
ゴミと鱗粉をしっかりと分け鱗粉だけを溜め込んでくれるため、いちいち分別をする手間はかからない。
「しっかし……これからどうするべきなのか……」
俺は世界にとって、どのような立場を取るべきなのか。
ダンモンと同じく、人類にとって共通の敵である魔王になるのか。
それとも人にとっての良き隣人となり、人と共存をしていくのか。
この五年間、何度もシミュレーションを行ってきたが、未だに答えは出ていない。
ただ、前世の人としての考え方が残っていることもあり、やっぱりできれば人類の敵にはなりたくないなぁとは思っている。
ダンジョン作りや迎撃が好きで、それができるくらい配下達が揃っているからと言って、延々とやってくる人間相手に戦い続けたいわけじゃないのだ。
だって今や俺にとってダンジョンはかつてのようなゲームの中のものではなく……紛れもない現実(リアル)なのだから。
「……まあ、出たとこ勝負で行ってみるしかないか」
五年考えても答えは出なかったのだ。
最終決定をするのは一度現地人と話をして、その上で皆の考えを聞いてからでも遅くはないだろう。
俺はゆっくりと歩き出す。
新たな世界でダンジョンマスターとして生きていく俺、ミツルとしての第一歩は、今ここから始まるのだ――。
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