第4話
DPの生産スピードは、俺が想像していたよりずっと早かった。
生まれたDPを使ってDP炉を増やすという永久機関のようなことをやり続けることで、現在DP炉の数は15を超え、増えるDPはとうとう一分間で2を上回るようになった。
少し余裕を見て、現在は一時間に一つずつ新たなDP炉を増やしている。
ちなみにダンジョンは入り口から入って右側に拡張し続けていた。
魔法をチクチク当てるには、距離はできるだけ長く取っておいた方がいいからな。
あとついでに、この世界での拡張限界を知っておくという狙いも兼ねていたりする。
ダンモンではゲームの容量の関係上、拡張できるエリアには制限があった。
だがリアルである今は、どこまで伸ばすことができるのかまったくの未知数だ。
流石に無限に拡げられるなんてことはないだろうが……今後どこかで壁にぶち当たったら、ダンジョンにできるエリアの広さにもおおよその見当がつけられるはずだ。
とまあそんなことを考えているうちにDP炉の数はどんどんと増え100を超え、更に一日二日と時間が経っていき……
「なぁラビリス」
「なんでしょうか、マスター」
「勇者……来ないな」
「ですねぇ」
気付けば、一週間以上の月日が流れていた。
ここまで勇者が来ないのは、流石に想定外だ。
外で何か異常でも起こっているんだろうか?
気にはなるが……外へ偵察を出すには不安が残る。
下手に有力者に目をつけられて勇者の率いる軍隊を派遣されたりすれば、今のダンジョンではなすすべもなくやられてしまうだろう。
ゲームとは違い、一度負ければコンティニューなんてもんはない。
外へ偵察を出すためには、最低限勇者や軍隊と戦えるだけの戦力が必要になるわけだ。
とにかく我が陣営の戦力が足りない。
なのでDP炉の拡張と併行して、ダンジョン内の戦力を揃えていくことにした。
余っているDPをじゃんじゃかぶち込み続けたおかげで増産ペースは順調なので、DPには余裕がある。
今や一分間で得られるDPも15を超えているからな。
そろそろDP炉作りにも飽きてきたし、ちょうど頃合いだろう。
それに……ちょっと試してみたいこともあるしな。
「というわけで、さっそく戦力増強をしていくぞ」
「おおっ、ようやくドラゴンを召喚するんですね!」
元気よく拍手をするラビリス。
お前、ドラゴン好きだな……。
どうやら彼女の脳内では、強力な魔物=ドラゴンという図式が既にできあがっているらしい。
だが残念なことに、今回召喚する魔物もドラゴンではない。
「『モンスター召喚』!」
前回スライムが出てきた時とは異なる魔法陣が浮かび上がり、橙色の光を発し始める。
魔法陣が消えると、代わりに一体の魔物が現れた。
「今回召喚するのは――アースウィッチだ」
現れたのは、茶色いとんがり帽子を被った女の子だ。
クラスで三番目くらいにかわいい子くらいの、なんだか俺でも手が届くかも……と思うタイプの見た目をしている。
ちょっと気のある態度を取られたら、学生時代の俺ならすぐに好きになってしまっていたことだろう。
「お呼びですか、マスター」
『ダンジョン&モンスターズ』で召喚できる魔物は非常に多岐にわたっている。
アースウィッチはその中で、魔女種と呼ばれる人型の魔物の一種だ。
土魔法の才能を持っており、中距離での魔法攻撃を得意とする魔物だ。
HPは少ないがMPは高く、知能も高いためある程度高度な命令も聞くことができる。
そのため召喚に必要なDPも高く、一体出すだけで200必要になってくる。
まあDP炉をここまで作れるようになった今では、そこまで痛い出費ってわけでもないんだが。
俺が元々召喚しようとしていたのはより遠距離から攻撃できるウィンドウィッチだったのだが、今回はとある検証がしたく土属性のアースウィッチにさせてもらった。
「とりあえずお前には掘削作業をしてもらいたいんだが、可能か?」
「はい、お任せください、マスター」
ダンモンではアースウィッチは火力ではファイアウィッチに劣り射程ではウィンドウィッチに劣るため、ほとんど使われることのないモンスターだった。
「だいちそうさ!」
アースウィッチに壁面に魔法を使ってもらうと、腹の底に響くような音を出しながら、むき出しになっていた壁が掘削されていく。
それを見て頷く俺と、再び驚いているラビリス。なぜか魔法を使っているアースウィッチまで驚いていた。
「DPを使わずにダンジョンを拡張できてる……?」
「ああ、予想通り過ぎて怖くなってくる」
本来であれば早い段階で訪れるはずの拡張限界が未だ訪れていないことや、コタローの襲撃が一週間以上ないことなどから考えると、この世界が『ダンジョン&モンスターズ』に完全にリンクしているとは考えづらい。
ということはゲームの仕様上できなかったが、リアルになったからこそ可能な抜け道もあるんじゃないかと予測を立てたら、それが見事に当たったわけだ。
これからはダンジョン拡張をアースウィッチにやらせることで、大いにDPを節約できそうである。
「でも……はぁ、ドラゴンじゃないのかぁ……」
掘削をし始めたアースウィッチと、数が増えてより密集しているスライムを見ているラビリスは、そういって嘆きの声を上げる。
ドラゴンは召喚するだけで2000近いDPを必要とする。
また維持するために必要なDPもべらぼうに高いため、コスパだけで言えば他の魔物を進化させた方がいいので、直近で召喚する予定はない。
(正直に言ってすねられても嫌だし……とりあえず機嫌でも取っておくか)
妖精種は基本的に移り気で気まぐれだ。
助けた恩があるとはいえ、彼女の協力を今後も得るためには好かれておいて損はない。
権能の一つ、『アイテム生成』を発動させる。
妖精は甘いものが好きなので、昆虫種の栄養補給に使えるハチミツでもあげて……とそこまで考えて、思考がフリーズする。
「……マジかよ」
初期状態では考えられないほどに大量のアイテム群が、生成可能アイテムとして表示されている。
終盤で使えるような強力な装備や回復アイテムまで出ているのも気になるが、俺の視線はそこから更に下……現代日本で俺が使っていた家電や食っていた料理へと完全に固定されていた。
俺の経験に準拠してるってことなのか……飯以外にも高級ベッドやゲーム機なんかもある。
どうやらDPさえあれば、前世と遜色のない暮らしも可能そうだ。
……って、当初の目的を忘れちゃいかん。
ラビリスのご機嫌取りをしなくっちゃな。
アイテムを生成し、ラビリスに手渡す。
「マスター、なんですかこれ?」
「いわゆる高級アイスだな」
ご丁寧についている木製のスプーンを使い、ラビリスが某高級アイスを口に含む。
彼女は身長が五十センチほどしかないので、小さめのアイスでも小脇に抱えるほどに大きく見える。
「あ、あまーいっ!! すっごく美味しいです、マスター!」
目の前のアイスに夢中になったラビリスは、ドラゴンのことなど頭から追い出してしまったようで、一心不乱にアイスを頬張り始める。
なんだか美味しそうだったので、俺も同じものを生成して食べることにした。
ラビリスはバニラ味で、俺はクッキー&クリーム味だ。
ダンジョンマスターになったことで、俺は食事を摂らなくても生きていけるようになった。
別に腹が減らないってわけじゃないんだが、ダンジョンの中で暮らしているだけで、不思議と食わなくても平気な身体になったのだ。
だがせっかく『アイテム生成』で好きなものが食えるようになったんなら、話は別だ。
DPにちょっと余裕も出てきたし、これからはラビリスと一緒に三食ご飯を食べることにしようかな。
ずっとダンジョン拡張ばっかりしているのにもちょっと飽きてきてたし、良い気分転換になるだろ。
(しっかし……ダンモンによく似た世界、か……)
基本的にダンモンのセオリーが通用することはわかっているが、たった一週間でこれほど差異や異変が出てきている。
きっと俺が知らないイレギュラーは、まだまだ多いはずだ。
一体どこで足下を掬われるかわかったもんじゃない。
一度のミスが命取りになる可能性も考えれば……気は抜けないな。
決意を新たに、俺はダンジョンを拡張していくことになった。
一月が経ち、二月が経ち……ラビリスが大好きなドラゴンが余裕で召喚できるようになると、わざわざコタローの襲撃に備える必要はなくなった。
それでも手は止めず、俺とラビリスは時間を忘れてダンジョン強化に没頭し続ける。
そして全てのナンバリングでラストバトルに耐えられるほどの難攻不落のダンジョンを作り上げた時には……俺達がこの世界にやってきてから、五年もの時間が経過していた。
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