第2話
この世界は間違いなく、無印版『ダンジョン&モンスターズ』の世界だ。
ダンモン検定一級を持つ俺にはそれが一発でわかっていた。
迷宮妖精であるラビリスを助けることで、彼女を負ってきた見習い勇者にダンジョンの存在が露見し、戦いになる。
そのパートこそがステージ1であり、無印版『ダンジョン&モンスターズ』における実質的なチュートリアルとなっているからである。
ちなみに移植版では評判があまり良くなかったためここの部分が丸々専用のチュートリアルモードに変わっている。
そして2以降では、ラビリスは最初から仲間としてダンジョンマスターの側にいる。
無印と移植版を両方ともやりこんでおいて良かった。
ダンジョンマスターミツルは違いのわかる男である。
「『ダンジョンステータス』は初期値のまま……」
ストーリーモードのステージ1でラビリスを追ってくるのは、見習い勇者のコタロー。
こいつは初見殺しとして名高い敵で、体験版でこいつにやられてクソゲー扱いしたユーザーは後を絶たない。
――ここを、このキツささえ乗り越えれば『ダンジョン&モンスターズ』は神ゲーなんだけどなぁっ!!
ぶっちゃけると次のステージ2でやってくる勇者イオガンテより強敵だ。
何が厄介なのかと言えば……こいつはゲームスタートからダンジョンの中に入ってくるまでがとにかく早いのである。
こちらが何をやれば良いかわからずあたふたしているうちにダンジョンに侵入されてしまい、地上に引きずられてゲームオーバー……というのがダンモン初心者が陥る負けパターンの一つだ。
「とすると――時間との勝負だな」
コタローが来る前に最低限の迎撃態勢を整える必要がある。
ゆっくりとダンモンの世界に浸っているだけの余裕はない。
コタローが来るまでの時間は果たしてどれくらいなのかは推測するしかない。ゲーム内では時間経過の概念がなかったからな。
だがラビリスを追って来るわけだから、そこまで時間はかからないだろう。
常識的に考えても、数日以内にここまで辿り着くはずだ。
「まずはちゃっちゃと『ダンジョン拡張』をしていくぞ」
「『ダンジョン拡張』は、DPを使ってダンジョンを広げることのできる権能です! 新たな階層を追加したり、ダンジョンを横に拡げていくことができます!」
「わざわざ説明ありがとう、ラビリス」
チュートリアルのためにしっかりと説明をしてくれるラビリスの説明を、確認のために耳に入れていく。
もしかするとゲームとこの世界の間では齟齬があるかもしれないからな。
現在俺が支配しているダンジョンエリアは、入り口と入ってからすぐのところにあるこの小さな洞窟しかない。
ここから初期値である1000DP(ダンジョンポイント)を使い、勇者コタローを迎撃できるだけのダンジョンを築き上げる必要がある。
「ちなみにDPは、他の権能である『モンスター召喚』や『アイテム生成』においても使用します! 勇者達が来てから痛い目を見ることがないよう、DPは大切に使いましょう!」
説明を聞き終えて違いがないことを確認してから、ダンジョンマスターの権能の一つである『ダンジョン拡張』を発動させる。
拡張に必要なDPはあらかじめ決まっている。
新たな階層を作る場合に1000DP、そして階層を広げていく場合は各ブロックごと1DPだ。
実際に使ってみたところ、どうやらゲームにおける1ブロックがおよそ2立方メートルの立方体ほどの大きさらしい。
とにかくまずはダンジョンを横に広げていく。
『ダンジョン拡張』の権能を使えば、自分の意のままにダンジョンエリアを広げていくことが可能だ。
「――流石に間隔空けバグは使えないか」
『ダンジョン&モンスターズ』において、ダンジョンは一続きにしておく必要がある。
ダンジョンと直接繋がっていない場所を間を開けてダンジョンエリアにする、というズルができないようになっている。
これはダンジョンマスターである俺を、掘り進めないとたどり着けないような安全な場所に避難させることができなくするためのゲーム上の仕様だ。
乱数調整でこれを可能にして勇者相手に持久戦ができるようになる壁抜けバグも存在するのだが、流石にズルはできないようだ。
それなら正攻法でやらせてもらうしかない。
まあ正攻法と言っても――ダンモン界隈での正攻法だけどな!
「マスター……なんか変な形じゃないですか?」
俺が絶賛広げているダンジョンを見たラビリスが、しきりに首を傾げている。
たしかに彼女の言う通り、俺の広げ方は世間一般がイメージするダンジョンとは若干意匠が異なっていた。
一般的にダンジョンと言えばとにかく迷路のような形に枝分かれさせて、入ってきた者達を引っかけるための罠なんかが設置されているものを想像するだろう。
だが俺が作っているダンジョンエリアに分岐路はほぼなく、罠の設置に関しては驚きのゼロである。
入り口から入ってみると目の前には四角い空間が広がっており、その中央にブロックが一つだけ放置されている。
そしてそんな空間が右側に、数珠つなぎになって八つほど続いている。
ほぼ一本道で、罠もゼロ。
これをダンジョンと言っていいのか、判断に悩むところだろう。
だがダンモンにおいては――これが最適解なのだ。
「よし、それじゃあ次に『モンスター召喚』をしていくぞ」
「『モンスター召喚』ですか――はっ、なるほど! ラビリスにはわかっちゃいました! 左右の空間に大量に魔法の使える魔物を配置して、中央に火力を集めて倒すんですね!」
「残念ながら不正解だ。俺が呼び出すのは――」
『モンスター召喚』を発動させる。
エリア作りに使ったDPはおよそ200。
残DPは800、一体ならある程度強力な魔物も召喚できる量だ。
地面に浮かび上がった魔法陣が、強い輝きを放ち始める。
光が収まった時、そこには――ぷるぷると全身を震わせる、一体の魔物の姿があった。
「最弱にして最強の魔物、スライムだ!」
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