第5話 ウリンソン連邦
見渡す限り草原が続く平野。
オレたちはあっという間にセントールたちに囲まれてしまった。背が高いから威圧感があるなぁ。
「貴殿らは何者だ?」
一際大きなセントールが一歩前に出て問いかけてくる。
ここはフェリシエンヌのお手並み拝見といこうかな。その方がゲーム通りに話が進むだろうし。
エステルが一歩前に出た。
「私たちはマルブランシェ王国からの使者です。通行の許可を求めます」
「使者? たった三人でか?」
「正確には使者は私たち二人で、そちらのお方はランゲンバッハ帝国からの亡命者です」
「ふむ……」
大きなセントールが考え込むように腕を組んだ。
その時、フェリシエンヌが一歩前に出る。
「お久しぶりです、アダン族長。フェリシエンヌ・マルブランシェです」
フェリシエンヌが名乗ると、セントールたちが軽く身じろぎした。
「フェリシエンヌ? その名はたしか……。おぉ! 御身はマルブランシェ王国の姫であったか! まっこと久しいな、見違えるほど大きくなった! 息災であったか?」
「はい。祖国が戦時故、このような格好で失礼いたします」
「なんのなんの。それで、マルブランシェの姫がわざわざウリンソン連邦へ何の用かな?」
「先ほども申し上げましたが、わたくしたちは使者として参りました。ウリンソン連邦首都への通行許可を求めます」
「なるほど、なるほど。であれば、我らが道中の護衛を引き受けよう」
「よろしいのですか?」
「ああ。任せてくれ」
どうやら上手くまとまったようだな。これでウリンソン連邦に入れる。
と、思ったのだが……。
「して、貴殿は何用でウリンソン連邦に参った?」
セントールたちの視線がオレに映った。その顔は無表情というより怪訝そうだ。
ひょっとして、怪しまれてる?
フェリシエンヌたちもオレに手を貸してくれることはないみたいだ。
「我が名はバルタザール・ランゲンバッハ。ランゲンバッハ帝国の第七皇子だ。貴国、ウリンソン連邦に亡命を希望する」
「そのぼうめいというのがよくわからん。貴殿は我が国に具体的には何を望む?」
「匿ってほしいで伝わるか? ランゲンバッハ帝国の使者が私の所在を訊いてきても、知らぬ存ぜぬを貫いてもらいたい」
「ふーむ……。我一人では判断できんな。皆に知恵を借りよう。ひとまずは、首都に来てもらおうか」
「ああ」
なんとか首都までいけることになったな。まだ安心はできないが。
その後、セントールたちに先導されて草原を抜け、森を行くこと三日。オレたちはウリンソン連邦の首都、ウリンソンにたどり着いた。
とても大きな巨木が並ぶ森の中、まるで空中都市のように樹上に作られた大都市。それが連邦の首都ウリンソンだった。
「こっちだ」
アダンが木に備え付けられた階段を器用に登っていく。その後にフェリシエンヌとエステルが続き、オレが登る。
階段を登りきると一気に視界が開け、まるでブロッコリーのようになった木々が並んでいた。木材で作られた床が張られ、その上を耳の尖ったエルフや、ケモミミの獣人など、さまざまな種族が闊歩している。
「おぉー!」
ケモミミ好きのオレからすれば、まるでパラダイスのような場所だな! ゲームで見たとおりだ! やはり、ウリンソン連邦こそオレの心のオワシス!
「どうした、奇声をあげて? こっちに行くぞ」
「ああ」
アダンに先導されてたどり着いたのは、一際大きな木の内部をくり貫いて作られたホールのような場所だった。そこはまるで役所のような場所なのか、カウンター席に座ったエルフたちに獣人たちが並んでいる。
「ちょっと通してくれ、客人だ。エルフの族長を呼んでくれ。マルブランシェの姫と亡命者という奴が来ている」
アダンはのっそのっそと列を割るようにカウンター席に着くと、エルフの受付嬢に言った。
「かしこまりました、アダン様。すぐにお部屋をご用意するので、そちらでおくつろぎください」
「うむ、助かる」
その後すぐにエルフの係員に案内されたのは、木をくり貫かれて造られたそこそこ広めの部屋だった。布や金属で飾られ、なんとなく貴賓室であることが察せられる。
「我にできるのはここまでだ。姫の上首尾を願っているぞ」
「ありがとうございます、アダン族長」
「うむ。そっちの亡命者よ、貴殿も息災でな」
「ああ、世話になったな」
貴賓室の前でアダンと別れ、フェリシエンヌたちと部屋の中で待機となった。
「はぁー、さすがに疲れたわね……。早くシャワーでも浴びたいわ」
「お疲れ様でございます、姫様」
そう言ってソファーに座ったフェリシエンヌと、すぐにその後ろに控えるエステル。城塞都市からここまで八日の旅路で、フェリシエンヌの顔には疲労の色は濃い。エステルにも少し疲れの色が見えた。
馬での旅とはいえ、馬に乗るのも疲れるからな。オレは平気だったが。
しかし、ゲームのシナリオ通り、フェリシエンヌたちへの待遇はいいな。これまでマルブランシェ王国が亜人たちと融和政策を取ってきた賜物だろう。
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