16
奈緒は激怒した。
この散々たる光景に。
「ユアン? ねぇユアン、これは一体どういうことかしら?」
「どういうことって、日夜開発に勤しんでいるので、忙しいんてすよぉ」
前に開発局に訪れてから、そこまで時間は経っていないはずだった。
だというのに、目の前にせまるのは何かの山、山、山。短い日数の間によく築いたものだと逆に感心しかけた奈緒は慌てて頭を横に振った。
とにかくこの山達をどうにか片付けなければ。何せ今日はそのために来たと言っても過言ではないのだから。
さてどこから手を付けようかと考えると、ユアンはふと何かを思い出したかのように声を上げた。
「ああ、そういえば」
「何?」
「これについて、聞きたくはないですかぁ?」
一瞬、逃げるために話題をそらそうとしたのかと奈緒は目を三角にしながらユアンの手元を見て、すぐに目を丸くした。
その手の中には、見覚えのある虫の形をした魔具があったのだ。
「話、聞きたいでしょう?」
ね、と小首をかしげながらユアンは妖艶にほほ笑んだ。
静がこの場にいたら、奈緒は迷いなくこの顔面の殴り方をこの場で聞いただろう。
「……ええ、そうね。それが先ね」
落ち着かせる為に深く息を吐きだせば、さらにユアンの笑みが深くなり、耐えるためにぐっと拳を強く握った。
その奈緒の後ろにいるのは真咲達だ。もちろんいつものようにレオナ、アリッサもいる。そして正式に二人の護衛となった騎士達も勢ぞろいしていた。
奈緒には、深紅からギルバート。漆黒からオリヴィアが付くことになった。聞けば二人は顔見知り、というよりも深い仲であるらしいが友人ではないという。二人はもちろん、周囲も詳しいことを話したがらない為、奈緒達は無理に聞くことはしていない。
真咲には流れるように深紅からカルロス。そして昔馴染みだという漆黒からイーサンが選ばれた。カルロスが即時決定した時、真咲は他よりは気が楽だということでとくに不満は無く、むしろ漆黒のイーサンと話がずいぶんと合うようだった。
そしてこの場にはいないが、伊織には深紅からクラウス。漆黒からアイヴィが付いた。クラウスからは何も言わなかったが、今後神殿と多く関わることもある為、エドヴィンが複雑そうな表情を見せていたのが少々印象的であったのを奈緒はしっかりと見てた。
元より誰もが顔を知っていたり、個人主義というわけではないこともあり、関係性については今のところ比較的良好と言えた。
「なぁカルロス、あれは?」
「報告にはあげていただろ。魔具を用いて、こちらの動きを盗み見ていた奴がいる、と」
「……ああ、あれか」
「僕がまとめた報告書だね。分かりにくかったのならごめんね」
前の時はいなかったイーサンがカルロスに問いかけたのが背中から聞こえた。
あの時の事はどうやらギルバートが報告をまとめていたらしい。確かに報告、連絡、相談は何事においても重要だ。そして分かりやすいものであれば尚良い。
硬い表現等々をしていたのかと思っていたら、どうも違うようだった。
「ああ、違う違う。すげぇ読みやすい印象しか残ってなかったんだよ。深紅の中でも時々、そういうのが来るとやっぱ内容よりも書き方のほうが記憶に残るからさぁ」
「うれしいことを言ってくれるね。ありがとう」
比較的ではなく、とても良好の間違いだったようだ。
後ろから聞こえる会話を盗み聞きしていたおかげで苛立ちがようやく収まった奈緒は、余裕ある笑みを浮かべてみせた。ユアンはまたつまらなそうに大きく肩をすくめ、くるりと青いローブをひるがえし近くの椅子にどかりと座った。
「まぁ、別に貴方方が来るのを待たずとも局長に報告を上げれば済む話ではあったんですけどねぇ」
「それならそうすれば良かったんじゃない? それとも掃除する時間を減らしたかったのかしら?」
「勝手にどこかに持っていくのが悪いんですよぉ」
図星だったらしいが、ユアンは全く悪びれる様子は無かった。
「ああ、でも局長からは、僕の判断に任せてもらっているので。だから報告にはあげていないんですよぉ」
「理由を聞いても良いかしら」
「あそこは今、分断が起きてるんですよぉ」
「……あそこ?」
「王城の方ですよぉ。ここは王立なもんだから、全てはあそこに集められますのも当たり前の話ではありますけどねぇ」
ユアンは優雅に足を組み、口元に手を当てる。その姿は絵画に描かれる肖像になってもおかしくはないほどに、どこか目が惹かれてしまう。これで口を開かなければ、なんて奈緒は頭の片隅でひどく残念がった。
「これでも貴族の端くれですから、ある程度は把握してますけど。なかなかひどいもんですよぉ? もしかして存じ上げていない、と?」
「ええ、そうね。なにぶん、大神殿の奥の方にいるものだから」
「大事に囲われていますねぇ」
「ええ、おかげさまで。人気者は困るわ」
「……つまらないですねぇ」
「あら、そう。それで、その分断っていうのは? それと、そのことも教えて欲しいのだけど」
常に喧嘩を売らなければ生きていけないのかと思うほどに、ユアンは相手を煽ろうとする物言いをする。しかし奈緒は一切それに相手にせずに、するりと流した。
書店員として働いていた時、なかなかに独特なお客様の相手をしていた時というのはもちろんあった。それに比べたらユアンのこれは奈緒にとってみればかわいいもので、存外にやりやすい相手でもあった。
ユアンは分かりやすく不満だと口角を下げながらも、物を教えるのは好んでいるのかすぐにまた人を食ったような笑みを浮かべた。
「ええ、良いですぉ」
「あっさり教えてくれるのね」
「何言っているんですかぁ? 代わりにそちらの目的なりを教えてもらえるならに決まってるじゃないですかぁ」
とはいえ、素直に教えるつもりはなかったらしい。しかしながら、奈緒にしてみればこれは想定内だった。
「真咲、良いわよね」
「あたしに聞かなくても言うつもりでしょ。ここに来る前にヴィンセントにだって確認していたじゃない」
「いろいろと想定しておかないとだもの」
朝、この開発局に訪れる前の事だ。
わざわざヴィンセントが疲れた顔をしたまま送り出そうとしてくれた時に、念のため確認をしたのだ。
そして必要であれば構わないとすぐさまに即答され、逆に驚いてしまったのは記憶に新しい。が、おかげでこうしてカードが切れるのだから確認をしておいて良かったと、奈緒はその時の自分の判断に拍手を送った。
「ふふっ……もちろん、沈黙を守ることを誓います。聖女様方」
恭しく片膝をおり、胸元に手を添えながらユアンは奈緒を見上げ微笑んだ。
口を開かなければ絶世の美形だというのに、本当になんて惜しいのか。否、だからこの性格なのかと奈緒は納得し、彼ら騎士達が共通して把握している事実を奈緒は語ることにした。
やはり噂の事は把握していたようだったから、奈緒はそこからその噂による影響がどのようになっているから話始め、順に自分達がそれによりどのような影響が出ているのか。とくにユフィアータ、静がどのような状況下にあるか。天の神、アルカポルスが眠っていうという最悪の状態ということと、そして最後にこの動物達が愛娘であることをなるべく簡潔に伝えた。
説明を省きすぎたかと思ったが、ユアンは何度も頷き、そして奈緒の足元にいる黒猫、真咲の肩にいる空色の鳥を見つめ、ほう、と息をついた。
「……まさか、こうして拝顔叶うとは思いませんでした」
「……貴方、ちゃんと驚くのね」
「僕を何だと思っているんです? こぉんなに我らが神、そして愛娘達に祈りを捧げる慎み深い信徒ですよぉ?」
「慎み深い、ねぇ?」
言動、行動からつい疑りの視線を向けてしまうが、足元に体を寄せてきたメルが奈緒を見上げて言った。
『これは嘘ではないわねぇ』
「……分かったわ。それで、教えてくれるんでしょう?」
本当かはさておき、メルがそう断言したのならば十分だ。奈緒はユアンに話すよう促せば、何が面白いのかさらに胡散臭そうな笑みを深めていた。
「今、王城内では二つに分かれているんですねぇ」
「二つ?」
「はい。実はですねぇ、ランスロット殿下の他にも、王位継承を持つ方がいらっしゃるんですよぉ」
「……それは、いてもおかしくはないけども」
「水面下で今、それを争いをしておりましてねぇ? それがとても面倒なことになっていまして」
王位継承権を持つ者が二人。なんとも泥沼化になっていそうな話だろうか。
関わらない方が良い話だったが、そこそこの頻度でランスロットが大神殿へとやってきているのだ。そのうちに巻き込まれそうだと奈緒はなんとなしにそう予感してしまった。
「神殿寄りのランスロット殿下側につくか。それともより強国へと目指すあちら側につくか。そういう話です」
「……ねぇ、この国の王はどうしているの?」
「おや、存じなかったのですか? この季節は
聞いたことのない名前だった。後ろの方で話を聞いている真咲に振り返り見れば、真咲も知らないようで首を横に振っていた。
「静寂の山って?」
「おや、これも知らないと。全くあちらは何をしているのか」
あちら、とは大神殿のことだろうか。
おそらく奈緒の言動等で本当に何も知らないのをユアンは理解しているのだろう。だからこそ教える立場の大神殿に対し、僅かに呆れたような態度をしたのだ。
「我らが国が誇る、魔鉱石の鉱山ですよぉ。ここからさらに北上した場所にあるんですねぇ……っと、こちらが地図です」
ユアンが本や、神の束が積み上げられた場所に躊躇なく手を入れ、引き抜いた。途端崩れる山に奈緒は盛大に顔を歪めたが、ユアンはそんなのお構いなしだ。
「ここが王都。その上に静寂の山があります」
それはロトアロフ全体の地図だった。所々染みがあるが、この山の中にあったと考えれば比較的には綺麗な状態だと言える。
ユアンが指さした場所には、アシュノルド、と地名の名。他の地名よりも大きく書かれていることから、それがこの王都の名前だと言うのが見て取れた。そして骨ばった指が北上し、静寂の山と書かれている山脈を指す。その近くにはノーザイン、という名前の地名があった。
その他、様々な地名が記されているが今、覚える必要があるのはこの二つのみだろう。
奈緒はすぐにそれを記憶した後、視線を南下させ、トロアロフの国境付近の線に紫の瞳を細めた。
「……三つも、国が隣にあるのね」
「ええ。中々でしょう? 今でこそ同盟を組んだり、協定を結んだりしたおかげで戦争等は収まりましたが、それでもなかなかどうしてか不安定な国なんですよぉ」
ユアンの指がすぅっと南下し、そのうちの一つの国を指した。
「とくにこの国からは、商人が多くやってくるんですよぉ。それが問題になり始めそうになった時、国境付近の領地を治めている貴族が見事な手腕で問題を収めましてね? 元々侯爵の位を持ち、このロトアロフの要となる場所を代々守ってきたこともあって、またの名を守護伯、なんて呼ばれるようになったんですよぉ」
「侯爵って……つまり、貴族の中でも一番上、よね?」
「はい。っと、話が逸れましたねぇ」
奈緒が改めてその国の名を見ようとする前に、ユアンはまた指を北上させた。
「それで静寂の山の麓。ここに城がありますが、もう一人の王位継承権を持つ者がここにいるんですねぇ」
「それって」
「ああ、勘違いなさらないでくださいねぇ。陛下は、雪がない時期に毎年、あちらへ移って過ごされているんですよぉ。王妃様がご存命だった時からの慣習のようなものですねぇ。何せ、ここが王妃様がお生まれになった場所でしたから」
ご存命だった、という過去形。つまり今はもう、崩御なされたと言うことだ。
「……そうだったの」
「ええ、ですからあまり深く考えなくても良いと思いますよぉ? おそらくですが」
「……そうね。そうするわ」
国王からしてみれば、そこは思い出の地であるはずだ。昔を慈しみながら過ごされているのだろうと、奈緒はユアンの言葉を聞きながらも、つい疑ってしまった自分を恥じた。
「それはそれとして、ですけど。やはり周囲はそうは見ませんし、何より派閥のあれこれはお気づきになられているのは確実。ですが何も仰られないというのが余計に面倒なことになっていると言いますかぁ……」
敢えて口を出さないようにしているのか。
それとも別の理由があってのことなのか。
完全に部外者である奈緒は余計な憶測をすることを止め、ユアンの話の続きに耳を傾けた。
「ああ、で。この話になるんですけどぉ。これ、仕掛けたのはおそらく、あちら側の人間ですねぇ」
奈緒はもちろん、誰もが耳を疑った。
「……あちらって、つまり。その、もう一人の方の?」
「ええ、そうです」
「一体どうやって」
「簡単ですよぉ。これで様子を見ていたということは、受け手側がいるということです。なので、受け手側を探知しただけです。ね、簡単でしょう?」
美しく微笑むユアンから視線を外し、ギルバートへと視線を向ける。ギルバートは笑顔だったが、口元がわずかにひきつっていた。
「涼しい顔して言ってますが、かなり高度な魔術を使っております」
「俺等が出来ると思うなよ」
「僕も無理」
「うわぁ、気持ち悪い」
カルロス、イーサンも無理だときっぱりと否定を口にし、最後のオリヴィアの言葉はただの悪口だった。だがユアンはむしろそれに面白さを感じたのか笑みを深めているので、少々の変態の気を持っている可能性を奈緒は感じた。
「弱み等々を掴もうしたんでしょうねぇ」
「弱み……?」
「殿下の弱みは神殿ですから」
いくつも、奈緒はすぐに思い至ることが出来た。
「大神官様が実弟ということもあって、元から神殿よりだったのは周知の事実ではありますが、近頃はよく神殿へと赴かれることが多いとお聞きしていますからねぇ」
奈緒もまだランスロットの人となりについて知っていることはほとんどないと言っても良い。
それでも分かるのは、周囲の目がなければ実弟であるヴィンセントにとても甘く、構いたがりになること。そしてとても気にかけているということ。王子としてではなく、どちらかと言えば兄としての顔を全面に見せている姿は間違いなく、ヴィンセントこそが弱みであることを物語っていた。
ただ、今も不思議で仕方がないのは何故自分なんぞに一目惚れなんてしたのかと言うことだ。まだ誰にも話はしていないが、あれ以来毎朝、花が届けられているのだ。レオナが他の侍女にうまく説明しているおかげで誰も何も聞かれないが、そろそろ伊織が気づくかもしれない、と内心焦ってしまいそうになる。
が、今はこれについて考える時間はない。
奈緒は力づくで思考を軌道修正させた。
「ああ、そうそう。ついでにこれを使っていろいろと調べたんですよぉ」
「……貴方、実はすごく有能なのね」
「はぁ? 今気づいたんですかぁ?」
広げたままの地図をそのままに、両手で虫を模した魔具を手遊びしている姿はどことなく幼く見える。と言うか、使い終わったものはすぐにしまわなければ、また山のどこかに埋まってしまうだろうに。
奈緒はついついそのままの地図に手を伸ばし、くるくると巻いいた後、先ほどユアンが崩した山の近くに立てかけた。
「まぁそこそこ虫唾が走る内容なんですけど」
「……どういった内容よ」
「蔓延っているあの噂あるじゃあないですかぁ」
ユフィアータのあの噂だ。
まさかあれ以上の噂が流れ始めているのか、と奈緒は無意識に掌に爪をたてながら強く握る。
「それならば、とユフィアータに罰を求める者が現れはじめているようで」
「……罰を求めるって。自分に?」
「まさか。自分にとって不都合の人間に、ですよぉ」
お与えください、と願っているのか。
罰を、死を、その者に与えよと。
足元にいるメルが初めて見るほどに苛立ちを隠せずに小さく唸りながら、何度も尾を床に叩きつけている。
『へぇ、そうなの』
真咲の肩にいるディーヴァは対し、ずいぶんと大人しい。が、その声はこの場によく響き渡った。
『ええ、ええ。分かるわよ、人間ってそういうところがあるの、あたし知っているわよ。それで何度裏切られたか、数えるのも嫌になるわ』
声から感じるのは、明確な怒りだった。
真咲が何かに耐えるように、顔を歪めたのが見えた。ああ真咲も同じなのか、と奈緒は自分のものではない強い感情に耐えるよう、強く唇を真横に結んだ。
『そうね。とくにあの子は、人間がもっとも忌避する死に近い存在だものね。元より、そういう願いを向けられやすいものね。ええ、知っているわ。分かっているわ。けど、あの子はそういうために存在しているんじゃないのよ。役目を終えた魂を、守ることがあの子の役目なのに、それなのに……』
膨れ上がった怒りが急激にしぼみ、何もかもを諦めたように弱弱しい音となった。
『あたし達の中で一番、愚直に人間をひたすら愛しているのに、なんで人間はずっと、何も分かってくれないのかしら』
真咲が肩にいるディーヴァの身体に手を添え、頭を寄せた。
『真咲ぃ』
「うん、だからあたし達がいるんでしょ? って言っても、あたしまだ何もしてないけど」
『してるわよ? おかげであたしの調子はだいぶ良いもの。リディ姉さんやメル姉さんに比べたらまだまだだけども』
真咲だって何もしていないわけではない。持前の計算ではない親しみやすさで気づけば人の懐の中に入り込み、とくに子供達からよく慕われているのは事実だった。
『そうよぉ。真咲はちゃぁんとやっているわぁ。もちろん奈緒もだけど……、もうちょっともう少しゆっくりしたら良いとは思うのよねぇ』
「人間、働かないと駄目ね。やっぱり」
元より奈緒は自覚のある働き者だ。とくに体を動かしていないと働いた気になれず、だから書店で働くことを選んだと言っても過言ではない。正直言えば、清掃員でも良かったと心の底から考えていた時期もあったし、何なら今は半分清掃員と言われてもおかしくはない状況だ。
願っても無いこの環境は奈緒にとってとても最適な環境で、だからこそもっと頑張らなければと気持ちだけが焦ってくるのだ。
静のあのような状況を、なるべく早くに解決しなければならない。何でも良い、とにかく静を、ユフィアータを助ける為には情報が何よりも必要だった。
「把握したわ。それで、他には何かあるのかしら?」
「他ですかぁ。そうですねぇ……」
ユアンは少し考えるように、口元に指先を添え、茶色の瞳を斜め上へと向ける。
相変わらずどのような仕草をしても絵画の出てくるような光景に見えてしまうのはいい加減に慣れたいところだ。
と、上を向いていた茶色の瞳がくるりと真正面に向けられた。
「にしても、青藍で、この開発局に閉じこもっているの僕でさえここまで調べられるのですから、漆黒はそれはもう僕より素晴らしい情報をお持ちではないてしょうかねぇ」
誰が見ても分かる挑発だ。だが事実、ユアンが持つ情報網は侮れるものではないだろう。
漆黒という騎士達の実力を奈緒は知らないが、わざとユアンが挑発する程度には相当の実力を持っていることは間違いないだろうと、奈緒は結論づけた。
何か語るだろうか、とオリヴィアとイーサンの二人を見るが、全く持って何一つ変わらなかった。
「なぁ、オリヴィア。なんかある?」
「残念ながら話せることは、今のところ何も無いのだけど。イーサンもでしょ」
「未確定の情報が多いから話せないことが多いんだよなぁ。どうせお前さ、僕達を怒らせて情報聞こうとしたんだろ?」
さすがは諜報、情報を取り扱っている漆黒と言う事だろうか。
ユアンの調子の軽い言動に対し、一切まともに相手をせず、冷静に対処をしていた。ように見えた。
「そんな、まさかぁ。我らが国が誇る漆黒に対し、そのような無礼なんぞは。ええ」
情報を得られないと分かるや否や、ユアンは先ほどと打って変わり何とも調子の良いことを言う始末だ。
イーサンは茶色の瞳を細め、オリヴィアは笑顔を浮かべた。
「まぁ、けど。腹立ったのは変わらないんだけども」
「縛る?」
「良いわね」
「しばっ?! 暴力反対ですぅ!」
どうやら少々苛立っていたらしい。イーサンの提案に笑顔で頷くオリヴィア。そして二人の手にはいつの間にか、件の魔力で編まれた糸、というより縄。
ユアンが慌てて椅子から立ち上がり逃げようとするよりも早く、二人はユアンのすぐそばにまで迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます