第二十七話 サトリの情報
茂鳶家正門で待っていた塵塚怪王と合流し、妖力がまともに使えず右往左往している茂鳶家の陰陽師の間を抜け、折笠たちは霊道の宿に堂々と凱旋する。
無傷どころかきっちりサトリの救出と迷い家の奪取までして帰ってきた折笠たちを宿の小鬼たちが拍手で出迎えた。
「すげぇ、陰陽師家ひとつ潰してきたぞ」
「半妖もやるもんだなぁ」
頼んでもいないのに宴の準備を始める小鬼たちに月ノ輪童子が礼を言って懐から何かを出して与えていた。
折笠の視線に気付いた月ノ輪童子がいたずらっぽく笑う。
「ちと、周りに聞かれたくない話を茂鳶家で仕入れた故、宴会場を貸し切りたいと心付けをな」
「サトリが拡散するって言ってた話かな」
「関連しておるじゃろ。宴会場に行こう。作戦会議じゃ」
作戦会議、サトリを取り戻して終わりではなかったのかと顔を曇らせる折笠の背中に黒蝶が手を当てた。
「暗い顔しちゃだめだよ。それに、一段落したのは間違いないもん。宴を中止にはしないんだからね。作戦会議はこれからのお話」
「そういうことじゃ。唐傘は心配性じゃな」
「ごめん、性分なんだ」
軽く笑い飛ばされて、折笠もつられて笑う。
宴会場は早くも小鬼たちが整えてくれていた。料理はいま作っているところで、出来上がったらまとめて持ってくるという。
料理が来るまでの間に作戦会議を終わらせてほしいのだろう。陰陽師家に喧嘩を売って勝ってきたのだから、小鬼たちも祝いたいらしい。小鬼に背中を押されて宴会場から退出させられる用心棒たちも、宴への参加を希望していた。
早めに作戦会議を終わらせないと宴会場を覗かれそうだ。
座布団を寄せて車座になると、サトリが最初に話し始めた。
「まずは、芳久に協力して俺様を救ってくれたことに感謝する。礼と言っては何だが、茂鳶家で得た情報を共有したい。だがその前に、芳久は本当にこいつらに協力する気なんだな? 完全にお尋ね者になるぜ?」
「いまさらじゃね?」
すでに茂鳶家を半妖や妖怪を伴って襲撃し、呪いまで掛けている。他家の陰陽師も大泥渡を敵とみなしているはずだ。
サトリが首を横に振る。
「親族同士の内輪もめで片付けることくらいできる。強力な監視はつくだろうが――」
「なら敵対するのと変わらない。それに、いまさらごめんなさいって頭を下げたところで誰も信じねぇよ。最低でもサトリと唐傘の首は要求される。それくらいなら襲ってくる陰陽師を全部返り討ちにする方がいい」
「腹くくっているなら構わねぇが……」
渋い顔をしたサトリが折笠たちを見回して頭を下げる。
「すまねぇ。芳久を味方に迎え入れてくれ。半妖でもねぇ只人だし、陰陽師だしで信用できねぇだろうが、この通りだ。いくら芳久と俺様が組んでも日本中の陰陽師と敵対したら一年と保たない。高天原参りに協力もする」
「まぁそういうことなら――」
折笠が大泥渡とサトリを受け入れようとした時、黒蝶がなんでもない調子で口を挟んだ。
「でも連携が取れないんじゃない?」
「さようでございます。それに、この者らが間者でないとも限りません」
黒蝶に続いて塵塚怪王も異を唱えた。
女性陣二人の慎重意見に、折笠は唸る。
黒蝶が心配する通り、連携を取れるかどうか怪しい。特に、塵塚怪王は大泥渡たちへの警戒を緩めていない。
ただ、折笠の見立てでは大泥渡たちは間者の類ではない。折笠たちの位置が特定できているのだから、戦力を整えてこの宿ごと叩き潰せたはずだ。
高天原参りについての情報がどこまで拡散しているのかを調べるためにサトリをつけたのだとしても、調伏されているわけでもないサトリが従うのは妙だ。それに、折笠たちを叩き潰す際に適当に宿の小鬼などを調伏して調査する方が手っ取り早い。
あれこれと考える折笠を眺めて片膝を立てた月ノ輪童子が声をかける。
「間者かどうか、連携が取れるかなぞ些事じゃろ。別のサトリを探してこ奴らを見せれば解決じゃ。解決法がある些事よりも、求める情報を得る方が先じゃろ?」
月ノ輪童子がサトリを見る。
「サトリ、おぬしも礼だというなら早う喋ってしまえ。有用性を示す単純明快な方法じゃ。他者の心が読める故に心理戦に持ち込むのはサトリ共の悪い癖じゃ」
「ぐぬぬっ……確かに」
言い負かされたのがプライドを刺激したのか、サトリは悔しそうな顔をしたものの月ノ輪童子の助言に従って、大泥渡の肩の上から飛び降りて一同の中心に立つ。
「まず、俺様が仕入れた情報を大別するぜ。一つ、高天原参りにおいて陰陽師連中が握っている最新情報。二つ、唐傘お化けの半妖が執拗に狙われる理由。三つ、高天原参りの儀式詳細だ」
高天原参りの儀式詳細。古い妖怪たちを訪ねても答えが得られなかった、折笠たちの目的の最大の障害。
折笠たちの心を読んだのか、サトリが続けた。
「どうやら、儀式詳細から話した方がよさそうだな。とはいえ、もとは大泥渡家の古文書に記載があったんだぜ。茂鳶の野郎が盗み出しやがったくらいだから、信憑性もあんだろ」
そう前置きして、サトリは高天原参りについて話し始めた。
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