10.


10.


「ふぁ~~~……」


昨日入ってきた入口とはまた違う出入り口から領都を少し離れた場所。

嘗ての村ひとつ分位を囲ってしまえる、手入れされた草原の片隅。


「普段より随分眠そうにしてるな……?」

「枕が全然違ったから……」


少し待っていろ、と言われて直ぐ側に設けられた建物の方へと消えていった隊長を見送り。

何をするでもなく、隣り合って座り込みながらの雑談中。


口に手を当てながら、普段は余り見かけない大きな欠伸を一つ。

目の端に涙を浮かべつつ、指で目を擦って明らかに眠気を表している少女が一人ミモザ


「睡眠時間は普段より長かっただろ?」

「寝始めるまでが遅かったんだよ~」


まあ、実際長かったかどうかまでは分からないけれど。

それでも体感的に、今まで夜に行っていた狩りの準備が無くなった分早く眠ったのは事実。


だからこその発言に、ある程度頷ける反論。

自覚は無いのだろうけど、一応この辺りで一番偉い立場になったというのに何も変わらない。

変わってほしくない、と思う自分もいるから……これはこれで良かったと思うべきなんだろうか。


「って言っても、小屋とか道中に寝る時は大体直ぐ寝てただろうに」

「小屋はほら、慣れてるのもあるし……」


ちらりちらりと向けられる目線。

僅かに恥ずかしさが混じった、頬に僅かな朱が混じった顔色。

今更何を告げようとも、ほぼ全て受け入れるのだから……気にしないのに。


「ずーっといた場所、ってのもあるから」

「まぁ、それはそれで分かるけどな……。

 正直、俺も寝た気がしないってのには同意するし」

「だったら私と同じじゃん」


眠気の有無の差……は、朝早く起きる習慣が身についているかどうか、なんだろうか。

それとも純粋に体質の差なんだろうか。

割と昔から良く寝る奴だった、というのは知っているけれど。

此処まで引き摺るようなことも余り無かったというのに。


「でも俺は眠気があるわけでもねーからなぁ」

「ぶー」

「そんな顔するんじゃねーよ」


頬を膨らませ、あからさまに不機嫌さを表すミモザ。

自分とは違う、と言ったからなのか。

本来の真月歳よりも幼く見える態度に溜息を一つ。


片手で両頬を抑え、握るように口内の空気を外へと逃がせば。

ぶぶぶ、と奇妙な音を立てつつも普段の顔へと戻っていく。


「一人だけ大人ぶって~!」


その機嫌までもが戻るわけではないが。


「別に大人ぶってるつもりも何も無いですよ、お姫様?」

「……ごめん、それはやめて?」


少しだけ距離を取って、それっぽい真似をして彼女に対すれば。

ぶるり、と体を震わせながら顔も細かく素早く左右に振り出した。


「似合わなくて……なんだろ、気持ち悪い?」

「おう、言ってくれたな……?」


ぴきり、と苛立ちをこめかみへ。

先程の頬への圧が足りなかったらしい少女へ、もう一度手を伸ばす。


ひぃ、と小さく声を上げ。

逃げんな、と同じく声を荒げる。


座った状態で出来る限り身体を逸らすミモザと。

同じく出来る限り近付き、腕を伸ばす俺。

互いに身体を震わせながら、もう少しで届くか届かないか。

そんな決着が付く……と言う状況下。


「……何してんだオメーら?」


呆れた言葉が背中から届き。


「な、何でもないですよ~?」

「少しふざけ合いが加熱しただけで……」


焦りを隠すこと無く、身体を声のする側へと向ける。


「……いやまぁ、今は俺だけだから良いけどな。

 ザンカやら他の《騎士》の見てる前ではやんなよ。

 名目上、罰を与えないわけにもいかなくなるし」


言葉と表情、そして雰囲気。

そのどれもが同じ態度あきれを示す隊長。


肩には刃先の付いた長い棒や剣、小剣を担ぎ上げたまま。

そしてその後ろに、同じ程度の体格を持った真っ黒な何かが両手剣などを背負って追従していた。


すいません、ごめんなさい。

二人並んで頭を下げ、それを受け入れられるという儀式の後。


「えーっと……シャガさん、聞いても良い?」

「何でもどーぞ。ってーか、少なくとも六鐘むつかねまでは姫サン主体になると思ってたしな」


がたがた、と音を立てながら武具を地面へと降ろしていく。

隊長の動きに続き、背後の黒い何かも同じように降ろした物品。

木製の柄であったり、総金属製であったり。

彼方此方が少しずつ違う、若干錆が浮いていたりもする武具の数々。


けれど、ミモザの目線が向いていたのは武具に関してではなく。


「その後ろの黒いのって……天恵?」


手足もきちんと二本ずつ。

全身が黒く、表情などが分からない事以外はほぼ隊長と瓜二つ。

腰の辺りの膨らみや、身に付けているような気がする装備一式も纏ったような「一体」。


「あー……そうだなぁ、ちゃんとは説明してなかったか」


俺達の事情、其の物は来る道中で簡単には説明してある。

けれど逆に、二人が持つ天恵であったり細かい手札、技術などを知るわけもない。


何でも聞いてくれて構わない、と言われていたのも有り。

こうした時に物怖じを殆どしない、けれど見知らぬ人へは必要以上に警戒を挟む。

人に慣れたんだか慣れてないんだか良く分からない小動物のような態度を示す彼女の言葉の先。

問われた隊長は、知り得ているものだと思っていたようで頭を軽く搔き毟りながらも言葉にする。


「姫サンの言う通り、こいつは俺の得た天恵……外部型の特殊種、ってやつだな」


俺達も、自分で得られなかったモノではあるけれど最低限の知識くらいは持っている。

だからこそ、その見知らぬ分類に二人並んで首を傾げた。


俺達が知っているのは、外に出す能力のことを天恵と呼ぶこと。

大別して二種類あること。

幾つかの細かい情報。

そして、天恵其の物は家系で引き継がれやすい、ということ。


『お前達の家系は代々落ち零れなんだ』。

そんな意味合いを込めながら。

自慢気に、そして侮蔑的に説明してくれやがった村長のバカ息子を思い出し。

けれど、もう生きてはいないことも次いで思い出し。

関係ないことだと小さく首を振る。


「あー……隊長、天恵の名前は?」


どこから聞いて良いのか分からず。

今の実例としての一つから聞いてしまおうと言葉にし。


「『暗影』。 意味は良く分かってねーけど、なんつーかしっくり来る名前なんだよな」


返った答えと、付け加えられた言葉に自然と身体が反応した。


横目で見つめる先に『暗影』。

隊長の真横まで進む動きは、どうにも無意識というか昆虫のような冷たさで。

そして隊長の動きを真似する訳でもなく、どうにも独立して存在しているような……そうでないような。

俺の持つ知識分類の何方にも当て嵌まらないような曖昧さを漂わせている。


「……分かってない?」


そして、もう一つ。

俺達からすれば常識、当然の事。

天恵への名付けは自分で行うものではないのか、という疑問。


初めて使用できた時のことを思い浮かべながら自分なりに定める。

名付けられた名前を起動鍵として、自分の内側から汲み出しやすくする。

当たり前に行われていたことだから、似た現象の発生であっても別の名前であるのは当たり前のこと。

親から名前を引き継ぐ……という事をしていた相手のことが思い浮かばない程度には雑多のモノだった。


だからこそ、疑問に思うことがどんどん積み重なっていく。

何から聞いて良いのやら、それさえも分からずに自然と口も重くなる。


「あん? いや、当たり前のことだろ?」


浮かべるのは怪訝そうな顔。

何当たり前のことを聞いているのだ、と戸惑い……そして片手で頭を覆う。

その一呼吸の間に、隊長の中では何かが理解できたこと、ということ?


「あー…………そりゃそうか、そういう常識も違うわな。

 すまん、それに関しては俺の間違いだった」

「えーっと……つまり?」


理解が及ばず、ついには直接に聞いてしまう。


常識。

今、そう言った。

要するに……あの村の中での天恵の基準其の物も独自に変化している、ということなのだろうか。

少なくとも近隣の村や都市まで出向いている大人がそれなりに存在したはずなのに。

俺達の知る知識は不足している――――それを再度突きつけられた形。


「本来だったら天恵との相性だとかを考えて武具を選ぶもんなんだが……。

 先に知識を詰めておかねーと変なボロが出てくる危険もあるわな。

 どうせだ、学者センセーみてーな細かい部分とまではいかねーが。少し教えておいてやる」


良いか、と一本指を立て。

『暗影』と呼ばれたそれは何をするでもなく、周りを見ているような形で。

唐突に、晴天の下での授業は開始される。


「お前達のとこはそもそも教会がなかった訳だが……。

 本来の天恵の判別ってのは、教会に所属してる特殊な天恵持ちのやることなんだわ」


隊長が順序だって説明し、飲み込めたのは以下の通り。


それを取得していることが分かれば、どんな立場の人間であっても教会にも所属することになる。

《騎士》や《領主》なんかの役割を担う特殊な例もあるから、教会にというわけではなく。

汎用性や有用性を呑んだ上で、必然的に殆どが所属することになる……秘匿性が求められる天恵。


その名を『裁定』。

ほぼ全ての天恵の名を判断し、その能力を推定し、過去の履歴から教導する月光神の慈悲の一端。

自分で判断するのではなく。

能力に導かれると言う、生きながらにして月夜の果てに繋がるような天恵。


聞こうと思えば、どんな身分であっても判別して貰えるという教会の持つ役割の一つ。


「だから、本来ならお前等も一度は見て貰うべきではあるんだが……今はちょっと無理なんだよなぁ」

「え、なんで?」


そこまでを話し終え。

はぁあ、と大きく溜息を漏らし、厄介事だらけだとばかりに疲労を示す。


そして、最後に付け加えられた一言があったからこそ。

疑問は幾倍にも膨れ上がり、首を左右に振り始めるミモザ。

分からないことが多すぎる時に取る悪癖。

幼い頃に指摘し、最近では全く見なくなっていた行為。


誰でも、というのなら金銭的な都合でもないだろうし。

厄介事、とまで言うのなら手出し口出ししても無駄というところなんだろうけど。


「……姫サン、大丈夫か?」

「昔の癖が再発してるだけですね……おい、ミモザ」


がくがくがくがく。

左右に振れ続けているが、こうしている時は一切考えていないのは知っている。

首の動きに合わせて肩を揺らしてやれば、首に負担が掛かってその内自動で止まる。

ゆっくりと速度が落ち、此方を睨み付けているけれど無視して話を続ける。


「それで隊長、今無理な理由とか聞けますか?」

「あー、単純な話。 『裁定』持ちが今イラリエにいねーんだわ。

 多分王都……から戻って来る途中なんだろーが、今向こうで面倒事が起こっててな」


《魔》が湧いてる関係で向こうで大分足止めされてるらしい、と。

目線の奥に怒りにも似た熱を湛えながら呟いた言葉は、俺達が聞いて良いものなのか。

本来であれば、即座に潰されて然るべき存在である筈なのに。

足止めされる程度に強く、何か厄介な特性でも秘めているのか。

口にするには、どうにも苦さが残って言葉にならない。


「話を戻すぞ」

「ふぁい」


笑顔で両頬を引っ張り始めたお姫様のことを無視し。

冷や汗を浮かべる隊長へと続きを頼めば、両指へと掛かる力は更に増す。

別に俺はどう思われようと良いんだが、こいつ自体はどうなんだろう。

そんなどうでもいいことを痛みの中に覚えながら。


「で……まず先に確認しておきてーんだが。

 お前等の中での天恵ってどういうものって認識してる?」


ヒリヒリとした痛みが大きくなり始めた頃になって漸く手を離してくれたが……多分暫く痛みは引き摺ると思う。

片手で右頬を撫でつつに、問われた言葉へ返そうとした矢先にミモザが返す。


「え~っと……何かをこう、外に出す力、かなぁ?」

「スイ、お前もか?」


小さく頷いて答える。

自慢気に聞かされた、所持者と非所持者を別けるモノとして。

他の誰もが持ち得るモノを持てなかった、分かりやすい項目としての差別。

それは、隊長が行っているように『何かを外へ出す力』であるという認識だった。


「村の……知り合いが言うには『生成型』と『発動型』がいるってのは聞いてました。

 俺達は一切傾向も切っ掛けも無かったですし、外に出るのも許されてなかったのでそれ以上は何も」


物体を生み出し、発動を取り止めた後でも残る「生成」。

現象を発生させ、発動を取り止めることで消すことが出来る「発動」。

基本的に後に残らない、その場限りの方が発生する効果其の物は強い傾向にあること。


俺達が知る全員は、この何方かに必ず該当していた。

だからこそ、目に見える現象を発生させられなかった俺達は打ち捨てられていたのだから。


晩年、母が寝台の上で刻んでいた小さな刻印。

部屋の壁に掛けるか未だに悩む、花飾りを模したような壁飾り。

記憶の中に残る何かを題材とし、写し出したそれを見て憧れた嘗ての傷が僅かに疼く。


「まーた大分昔の判断基準だなぁおい」

「へ?」

「教会ではちゃんと教えてる筈なんだが……意図して情報を制限してたんかね」


何度目になるのか分からない溜息。

短剣の鞘を枝の代わりにしつつ、がりがりと地面に描き始めたのは。


「たいちょ~さん。 これって?」

「シャガ、って呼び捨てにして欲しいとこですが……まぁ其処は追々。

 一応俺達は姫サンの為の騎士団、ってことになってるんで。

 んで、これが分類と内訳ってやつです」


これが今現在、教会で扱っている基準だと付け加えながら。


「覚える必要はねーけど、多分嫌でも覚えちまうことだと思うんで傾向だけは頭に入れとくよーに」


その言葉が向けられていたのは多分俺。

只々頷きながら、書かれた地面を二人並んで上から見下ろす。

の影が伸び、陽光が遮られ。

隊長のそれが消えていることに気付いたのは、そんな瞬間だった。


「一番多くて、俺やザンカが該当すんのが此処。 お前等が知ってる『外部型』ってやつだ」


一番上に描かれた部分。

其処から右に三つほど線が伸び、それぞれ『生成』『発動』『複合』と書かれている。


「これは要するに外に出力する天恵を一纏めにした分類でな。

 生成、発動は分かってるだろーから省略するが……特殊ってのはだ。

 このどっちもの特性を持ってるか、完全に当て嵌まらないようなのが属するだ」


だから、発動型とか言わねーで発動種と呼べ、と。

特にその部分を何度も叩きながら、視覚と脳裏とで教え込んでくれる。


「だとするなら、隊長は……えーと、どっちにも該当する、ですか?」

「多分気付いてるとは思うが、俺の場合は文字通りの『影』を利用して動かしてんだよ」


無いだろ、と指差し。

ほんとだ~なんて惚けているミモザを他所に。


「物体を産み出してる訳でもないし、現象を起こしてるわけでもない。

 ある物を媒介にして、どっちとも付かないモノを作り出しているから……と?」

「ンな感じだろうな。ま、だから同僚もそーだが《魔》の能力分類だけでも分かれば楽になるわけだ」


基本的に同じ理論で纏めているから、みたいな話なんだろうか。

そもそもその判断材料だって、その『裁定』持ちがいなければ分からないんじゃないか。

ぽろぽろ零れる見知らぬ話を脳裏に記述しつつ、その次の文字へと指を滑らせ色々と聞いていく。


「では……次のこの『内部型』っていうのは?」


その文字を見て、不思議と気になっていたモノ。

俺達が見知らぬ分類が存在するのなら、ひょっとするなら今まで気付けていなかっただけではないのか。

僅かな期待を秘めながら、少しだけ跳ねそうになる声色を抑えながらに問い。


「それなぁ……」


なんとも言えなさそうな表情を浮かべた隊長を見て。

急に体温が下がったような、幻想を覚えた。


「文字通りに、その当人の何かが変わらないままに変わる、って天恵だから外から判別出来ねーんだ」


それでも。

もしかすれば、ミモザだけは何かが変わるのかもしれない。

故に、食い下がる。


「何かが?」

「例えば目覚める前と後で足の速さが倍になるとか、物を持ち上げられる量が倍になるとか。

 何かを介さないと当人も外も何もほぼ気付けねえし、例外を除けば絶対数が少ねえらしい」


例外。

自身の内面に作用するモノ。

浮かんだのは、昨日見かけた二人の男女。


それに。

更に付け加えられる言葉は、変な期待をさせない為のような前置きで。

僅かに浮かんでいた希望は。

結局のところ、夢想にしかならないのだと言われているようだった。


「んでー……一番最後、不明瞭って場合がある。

 多分。二人はこれか内部型かのどっちかではあるんだろうが」


余り期待はしない方が良い、と。

今この時に伝えてくれたのは、多分義父なりの慈悲に近い行動だったのだろう。


勝手に期待した分、その反動はそれなりに。

口に出すことはなく、身体は言葉へ反応する。


隠すことはずっとずっと続けてきたこと。

だから、今更どうということはないつもりではあるけれど。


「これ、どういうことなの? 裁定ってのは……名前が分かる、って天恵なんだよね?」


俺と同じ思いを抱えてきたミモザには分かってしまう。

互いが抱えた感情を理解できてしまうから、押し黙った俺の代わりに口を挟む。


「判断できる限界を超えてる、と判断してる部類になりますかね」

「限界」


ええ。

確かに小さく頷きながら。

たんたんたん、三度ほど地面を叩くと同時に立体化した影が少しだけ距離を取る。


「天恵にも出来る範囲、出来ない範囲があるわけですよ。

 ンで、《騎士》みてーな……影響を受けた奴等、強くなった騎士は出来る事が増えたりもします」


ちらりと、動き出した影へと目線を向けた。


「俺の『暗影』も、最初はあんなに自由に動かせなかったしもっと不器用でした。

 ついでに言えば、特に訓練もしてねえ『裁定』持ちだと今の俺の判断は出来ねー筈です」

「それって。最初から、似たような力を持ってるかもしれない……ってお話?」


ええ。

再び同じ言葉を口にして、確かに頷いた。


「もし名前を判断出来ない場合、自分で探さなけりゃいけないって欠点が重なるのも事実です。

 だから、二人にして貰いたいのは二つ」


指を二本立て。

声を潜めて、囁くように言葉を押し出す。


「一つは、それが分からなかったとしても戦えるだけの力を付けてください。

 浄化樹が与える力の拡大次第で、後天的に目覚める可能性があるかもしれない。

 そうでないにしろ、『隠し持っている』と思わせるだけで周りに対しての優位性を保てますんで」


一本、指を折って。


「もう一つは、昔憧れていたものを思い出してみて下さい」

「……憧れ?」

「ええ。 なんつーか、全体的な傾向……色んな奴に話を聞いた限りの話にはなるんですがね?

 子供の頃に思っていたことも得る天恵の方向性に関わるっぽいんですわ」


内緒のことですよ、と。

残った指を、唇に当てた。


「ンじゃ、改めて……姫サン、武具選びましょーかね。

 多分小回り効くのよりはある程度距離を取れて振り回せる方が合ってる気はするんで、そっからっすね」


そんな言葉を最後の区切りとし。

周囲に響かせるように、不自然な程に大きな声を出して。


「……昔の、こと」


ミモザのそんな言葉は。

隣に座っていた、俺にだけ――――聞こえたような気がした。


目的と、指摘と。

ほんの少しだけ残っていた『子供』という立場とを引き換えに。

行く先を示す、淡い導き星の光を残して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る