大人を信じてはダメと言う気管支喘息さん

小学5年生のころだった。ある深夜、不快感と痛さで目が覚めた。ぼんやりとした視界に、ベッドの脇に一人の男の子が立っていた。彼は青いストライプのパジャマを着ており、私の股間を強く押しながら、自分の股間を触っていた。その瞬間、彼の瞳と合った時の恐怖は今でも鮮明に覚えている。


男の子は直ぐに病室から逃げ出し、しばらくしてからこっそりと廊下から覗いているのが見えた。最後にナースステーションの方を確認すると、静かに自分の部屋へと戻っていった。


その男の子は、同じ病棟に入院していた中学生だった。彼が病室に現れた夜、私は恐怖に包まれ目を閉じることができなかった。暗闇の中で、彼の影が現れるのではないかとずっと廊下を見つめていた。その夜は一睡もできなかった。


その朝、偶然にも担当の看護師が夜勤をしていた。彼女が見回りに来たとき、私は「体調が悪いから、ベッドにいたい」と訴えた。しかし、看護師は「また残りが増えて大変になるから、頑張りなよ」と言った。夜中の出来事を伝えたかったのだが、心の中で言うべきかどうか、何度も自問自答を繰り返した。けれども、彼女のその返答を聞いたら、なぜか彼女がその夜の出来事を信じることはないだろうと確信してしまった。結局、私はそのことを口にはしなかった。


その後、近くの病室に入院していた女の子が看護師に「夜中に男の子が歩き回り、病室を覗いてくる」と訴えた。その一件が大事になり、看護師から「何か見た?」と聞かれた私は、深夜に起きた出来事をついに話すことにした。すると、話はあっという間に病棟内に広まり、他の患者たちはまるで腫物に触れるような対応をし始めた。

その後、女子患者と医師、看護師だけで中学生の男の子についての「裁判」が開かれた。男の子は事実を認め、私に「ごめんなさい」と謝罪したことで話し合いは終了した。しかし、強制退院も警察への通報もなく、病棟内の生活は何事もなかったかのように続いていった。


まだ小学5年生だった私は、この結果に対してどうしても許せなかった。あの日の夜から、眠ることがどれほど怖かったかは計り知れない。毛布をベッドの柵に押し込んで、毛布が取れないようにして寝るのが毎晩の儀式となり、夜中に毛布が外れていると恐怖に襲われ、さらに強固に柵に押し込んで眠ることを繰り返した。恐怖の中で過ごす日々が続く一方で、周囲の大人たちは何事もなかったかのように平然と過ごしていた。大人たちは皆狂っていると感じ、伝えても伝えなくても何も変わらないことが分かった。いや、あの看護師の一言で分かっていたのかもしれない。


あの恐怖と無力感が心に深く刻まれ、どんな出来事に対しても冷静さを保つことが、私の防衛本能として根付いてしまったのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る