無慈悲な気管支喘息さん

朝が来ると私の願いは無情にも届かず、父親に「吐くならトイレで吐けよ!これ片付けろ!」とまた怒鳴られた。苦しい中で嘔吐物の後片付けをした。分院へ向かう車の中では、父親が煙草を美味しそうに吸っている。その煙が本当に辛かった。


高速道路から見える、ビルの「コカ・コーラ」のロゴが見えると何故か一気に安心する。きっと「家」に帰れるからだろう。


こんな日常が続く内に、私はこんな場所にいたくないと思った。だから退院が近づくと、自分で喘息発作を引き起こして退院を延期させる技を身につけていた。

だが、分院が天国というわけでは決してなかった。保育士や看護師からは何度も叩かれ、身に覚えのない罪で無視されることもあった。左の手首を彫刻刀で切ってしまった時は「そんな傷、手首を曲げていれば治る」と看護師に言われたときには、「あぁ…無駄だ」と感じた。それでも、あの偽物の「家」に居るよりはマシだと思ったからこその技だった。


きっとこの時には、私は大人に何を言っても理解してもらえないし無駄だと思い、心を完全に閉ざしたのだろう。

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