#063 『ファーwww』
相変わらずポツポツと他勢力のキャラバンが商売に来たり、偵察に来たりしているが、対応はすべてライラやティエン、それにアルシャ達に任せた。俺も傭兵として長くやってきたから交渉に関しては素人ってわけでもないのだが、より適した人材がいるならそちらに任せるのが効率が良い。当たり前の話だな。何でもかんでも自分でやるのが冴えたやり方とは限らない。
とりあえず、商売に関してはライラをリーダーとして任せる方針としている。俺はライラから報告を受けて、大まかな方針の決定を行うわけだ。
「タラーを溜め込んでも仕方がないのでぇ、何か買うか投資するかした方が良いのではないかと思いますよぉ」
「そうなると『上』でエネルに換えられそうな製品を買い集めるのが良さそうだが……」
「それってどういったものになりますかねぇ?」
「質の良い自然食品――つまり肉や野菜類の他となると、皮革製品や木工美術品になるだろうな……酒も売れるだろう」
「それでは、その辺りの品を買い取るってことにしましょうかぁ。でも、結局のところそういったものを溜め込んでも仕方がないですからぁ、そろそろどんなものが売れてどんなものが求められているのか、調査が必要だと思いますよぉ」
「そうだな……そろそろ一度『上』に上がるか」
「その時は是非私も一緒に連れて行って下さいねぇ」
そう言ってにこぉ、とライラが笑みを浮かべる。が、そこに待ったがかかった。
「ライラ姉さん、それはズルいと思うわ」
「そうにゃ。うちだって上に行ってみたいにゃ」
「でもぉ、グレンさんのことですから最初はエリーカさんと私、スピカとミューゼンちゃんと、それとフィアちゃんを連れて行くことになると思うんですよねぇ」
「……」
実際のところ、図星だったので何も言えない。とはいえ、ザブトンはさして大きな船でもないし、その人数でも結構キツいくらいだ。荷物も積むとなると、俺含めて六人で既に定員オーバー気味である。スピカとフィアが小さいからなんとかギリギリってところだな。
「……お前達は次の機会にな」
「約束ですよ」
「言質は取ったにゃ。忘れないで欲しいにゃ」
ティエンとアルシャが念を押してきたので、頷いておいた。俺は約束を守る男だ。次の機会には二人を連れて行ってやるとしよう。とはいえ、アイツの船に寄るだけだから、そんなに面白いことはないと思うがな。
☆★☆
「これはいい得物だにゃ!」
「ちょっと重いけど、急所を狙えば一撃にゃのが良い、にゃ」
フェリーネ達の中でも特に狩りが得意だというグロアスとアブソルが専用の得物を手に小躍りしている。彼らの後ろでは獲物を捌くのが得意なフォルミカン達が四頭のヘキサディアの処理をしていた。あの四頭全てを二人で仕留めたらしい。
「本当にそれで良いのか?」
「十分にゃ。静かだし、威力は十分だし、少し重い意外は言う事無しにゃ」
そう言って彼らが手にしているのはフェリーネ達用に調整した単発式のコイルガンだ。磁性体の重い弾丸を小型のエネルギーキャパシターに蓄えられたエネルギーを使って亜音速で撃ち出すもので、連射性などは皆無だがとにかく静粛性に優れる。フェリーネ達の体力を考慮してできるだけ軽量化したのだが、弾丸そのものが重くてあまり多くの弾丸を持ち歩けないので継戦能力に欠ける上、重量弾を亜音速で撃ち出すという特性上射程もさほど長くない。
正直戦闘にはあまり向かない品なのだが、気配を消して獲物に忍び寄るのが得意なフェリーネにとっては狩猟用の銃として非常に使いやすい武器であるようだ。
「フィアの策が大当たりだな」
「たまたまです。それに、旦那様にも手伝ってもらいましたし」
そう言ってフィアが顔を赤くしながら謙遜する。
フェリーネ達に狩りを任せるという話になった時に問題になったのが得物だ。彼らが最初に使おうとしていたのは粗末で原始的な飛び道具――所謂クロスボウ――と槍だった。
いやいや流石にそれはないだろうと色々とうちで保管している銃器の類を試させたのだが、レーザーガンやレーザーガンカービンですら体格の問題で扱うのが難しく、火薬式の武器に至っては殆ど全てが人類基準のサイズなのでやはり体格的に扱うのが難しい。しかも火薬式の武器は音がやかましい上に反動やマズルフラッシュ、火薬臭がキツいらしく大変に不評だった。
そこで、彼ら用に新しくコイルガン式の武器を設計することになったのだが、その設計をフィアがやりたいと言ったので任せてみたのだ。フィアはフェリーネ達から丁寧に聞き取りを行なって必要な仕様を決め、銃器の全体的なデザインに関しては俺から助言を受けつつ、ほんの数日で二丁の新型コイルガンを作り出した。
最大射程は四〇〇メートル程と銃器として見れば非常に短いものとなったが、大口径重量弾のストッピングパワーは非常に高く、バイタルに命中すればヘキサディアも一撃で仕留められるほどの威力を獲得することができた。その代わり、構造的に一発撃つごとに弾を込めなければならないので、連射は全くできない。そこは改善点だと思うんだがなぁ……ただ、そうすることによって信頼性が高まり、銃全体の重量も軽減できているので、悪いことばかりではないんだよな。
「俺が設計すると性能を重視しすぎてあれもこれもと付け加えた結果、取り回しが悪くなってしまったりするからな。こういう設計に関してはフィアに任せるのが良さそうだ」
「そう言って貰えるのは光栄ですけれど……その」
「任せっきりにしたりはしないさ。今回みたいに俺も手伝う」
「……はい!」
俺も手伝うと約束したのが良かったのか、不安げに曇っていたフィアの顔色がパッと明るくなった。フィアとはテクノロジー関係の話題が弾むからな。俺も話していて楽しいんだよな。俺とは違う視点を持ってるし。
「そういえば、近く『上』に飛ぶ予定だからな。長期滞在するわけでもないから特別な準備はいらないけど、そのつもりでな」
「はい、楽しみにしています。あの、今度隠してあるという船をじっくり見ても良いですか?」
「……分解とかしないなら良いぞ」
俺がそう言うと、フィアはこれ以上無いほどに躍り上がって喜んだ。喜んでくれて何よりだよ。
それじゃあ連絡を取るとするか。軌道近くに居てくれればいいんだが、どうかな。
☆★☆
『こちら武装商船アルデオティス、うちの通信コードを知ってるなんて何者だい?』
「よう、久しぶりだな。俺だよ、俺俺」
『アンタみたいな義体化メルヒェン野郎は知らないねぇ……』
「わかってんじゃねぇか。俺だよ、グレンだ」
通信機の向こうから聞こえてくる女の声になんとなくだが懐かしさを感じる。リボースⅢに降りてきてからまだそんなに時間は経ってないが、生活は激変したからな。
通信機の設定を変えてホロウィンドウを立ち上げると、ブリッジらしき場所で気だるげな表情をしている女の顔が映った。その目がこちらを向き、驚いたような表情を浮かべて身を乗り出してくる。
『ちょ、おい。アンタ、後ろの女の子達はなんだよそれ』
「嫁だが?」
「妻です」
「妻ですよぉ」
「妻だよ」
「妻」
「フィアも旦那様の妻です」
『ファーwww』
俺と妻達の返事を聞いた女船長が奇声を発したかと思うと、腹を抱えて笑い出した。
『早すぎるだろ! しかも全員タイプの違う美人じゃないか!』
「色々あったんだよ……それより商売の話だ。こっちで手に入れた諸々を持って行くから、引き取ってくれ」
『そりゃ良いけど、もうか? ちゃんと質の良い作物じゃないと高値はつけられないよ?』
「作物以外にも果物やら肉とか魚とかその加工品とか皮革とか色々な。とりあえず価値のありそうなものを色々と持っていくから、どれが売れそうか見てくれ」
『そういうことね。オーケー、しばらく軌道で待機するから上がってきな。ランデブーコードを送信しとくよ』
女船長がそう言って軌道上で接触するための軌道計算に必要なデータを送ってくる。シャトルにこのデータを入力すれば、後は自動であっちの船と合流できるというわけだな。
『折角だから、嫁さん達を連れてきなよ。色々と聞かせてもらわないとね』
「それは良いが、有料だぞ」
『あーはいはい、がめつい野郎だね。モノの買取金額に上乗せしてやるよ』
待ってるから早く来な、とそう言い残して女船長は通信を切った。通信を始める前に既に小型シャトル――ザブトンには荷を積み込んである。あとは出発するだけだ。
「それじゃあ行くか。軌道上までひとっ飛びするとしよう」
振り返ってそう言うと、うちの嫁さん達は揃って緊張した様子で頷いた。そんなに緊張するようなことじゃないんだがな。まぁ初めてならそんなものか。帰りは少しだけ遊覧飛行をしてから帰るとするかね。
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