#061 「凄く……大きいな」
昨晩の料理――グラタンというらしい――については謎が残ったが、まぁ些細な問題だ。
翌朝、俺はエリーカとスピカ、それとタウリシアンのティエンの三人を連れてフェリーネ達の元へと訪れた。
「よう、邪魔するぞ」
「あ、顔にゃしのだんにゃ」
「後ろのがお嫁さん達かにゃ?」
「いや、ティエン――タウリシアンは違うが、こっちの二人はそうだ」
「そうなのかにゃ? でも……」
代表のフェリーネが首を傾げたところでティエンが俺の後ろで咳払いをした。そのティエンに視線を向けたと思しきフェリーネの尻尾がブワっと膨らんでいるんだが、怖い顔でもしてたのか?
「そそ、それよりも今日はどうしたにゃ? うち達をここに住まわせてくれるのかにゃ?」
「ああ、そのつもりで来た。その前に、条件の確認だ。俺達はお前達を仲間として、家族として迎え入れる。衣食住に不自由はさせないし、安全もできるかぎり保証するが、保護するわけじゃない。互いに手を取り合い、助け合う。これが基本だ」
「勿論にゃ。うち達もただ食っちゃ寝するつもりはないにゃ。あ、でも少しくらいは休みとか欲しいにゃ」
「それは勿論だ。朝から晩まで、寝る時と飯食う時以外は働け、なんてことは言わない。うちの方針は健やかに楽しく、のんびりとだ。働くために生きるような生活は俺だって御免だからな」
「素晴らしい考えだと思うにゃ!」
俺の考えに感銘を受けたのか、フェリーネ達がピンと尻尾を立てたり、肉球のついた手でぽふぽふと拍手をしたりする。
「ただ、良いことばかりじゃないぞ。まず、キャラバンの商品として持っている物資は全部共同倉庫に入れてもらう。タラーもだ。ただ、私物まで全部没収しようって話じゃないがな。あと、今のところうちでは給料ってものを支給してない。尤も、もし給料を出したとしても使えるような場所も無いんだがな。欲しいものはなんでも用意する、とは言えんが希望があったら俺に言うように。妥当性があれば可能な限り対応する。直接言いにくいなら俺の嫁の誰かに言ってくれれば伝わるだろう」
「あいにゃ、ボス」
「ボス? まぁ顔にゃしよりは良いか。お前達、名前は?」
「うちはアルシャにゃ」
「ボクはストリにゃ」
「グロアスにゃ」
「コイトっていうにゃ」
「アブソル、にゃ」
それぞれ黒白、白黒、サビ、キジトラ、サバ白柄の体毛が特徴であった。忘れないうちにネームタグを振っておく。
「わかった。アルシャ、ストリ、グロアス、コイト、アブソルだな。お前達用の宿舎を作る。家具もお前達の身体の大きさや好みに合わせて作るから、
「「「はいにゃ」」」
フェリーネ達が揃って返事をする。うむ、素直で結構。
「ただ、まぁウチの中でタラーが全く回ってないのも不健全だよな?」
「それはまぁ、そうですね」
「すまんが、商売の得意な連中で話し合ってその辺なんとか上手く回せるように調整してくれんか? 基本的に住人の衣食住はうちで面倒を見る。嗜好品も食事の範囲内のものはそれなりに支給する。酒とか甘味とかな。ただ、それとは別に個人的な晩酌とか楽しみとしてそういった物が欲しいだとか、私物の装備が欲しいだとか、そういった要望もあるだろう。そういった要望を満たせるような給金の支給システムだとか、農場内経済システムの構築だな」
「大仕事になりそうですね。ライラ姉さんや他の皆とも相談してみます」
「頼んだ。エリーカはまず軽く畑の方でも案内してやってくれ。俺は宿舎の建設場所の選定に入る。スピカはフィアとも相談してフェリーネ達の服を作る用意を進めてくれ。人手は使えるだけ使って構わん」
「了解」
とりあえずはこんなところか。
「じゃあ、よろしくな。ようこそ、グレン農場へ」
しゃがみ込んでフェリーネ達と目線を合わせてそう言うと、彼らはにゃーと返事をした。
☆★☆
「それでぇ、私が居ない間にフェリーネ達を受け入れちゃったんですかぁ?」
フェリーネ達を受け入れたその更に翌日。うちを訪れていたキャラバン達も殆どがグレン農場を後にし、残すところあのローデンティアンのお姫様率いる調査団だけになってから帰ってきたライラが、彼女が居ない間に起きたことを聞いて唇を尖らせた。
「異存があるなら聞かないこともないが、今更追い出す気は無いぞ」
「それはそうでしょうけどぉ……」
ぶー、というライラの膨らんだ頬を指先で突きながら考える。まぁ、不満げにしているが、これはポーズだろうな。こうすることで何かしらの利益誘導を試みているのだろう。
「わかったわかった、この件に関しては夜にでも話し合おう。じっくりとな。だから今はとりあえず機嫌を直してくれ」
「んもー、約束ですよぉ?」
仕方がないなぁとでも言いたげな表情をわざとらしく作ってライラが引き下がる。彼女の表情を見るに、俺のこの言葉を引き出したかったのだろう。素直に甘えれば良いものを。
「それで、今回の交易の成果はどうだったんだ?」
俺と嫁さん達専用の宿舎、そのリビングにある三人掛けのソファに二人で座ったままライラに今回の交易の成果を聞くことにする。三人掛けのソファなんだが、俺とライラが二人で座ると丁度良い感じなんだよな。
「今回は東側にある三つの集落を回ってきましたぁ。そのうちの一つは私達タウリシアンの集落ですねぇ」
「ほう、何か面白いものは手に入ったか?」
「タウリシアンの戦士が使っている武器を入手できましたよぉ」
「あのデカいコイルガンか?」
以前、ライラの兄貴二人が北で幅を利かせていたイトゥルップ共同体の連中をしばき倒しに行く前にうちに寄ったことがあって、その時に彼らは身体の大きい俺でも抱えて持ち運ぶような大きさの大型コイルガンを武器としていたのだ。確かにあれはそこそこ以上に火力がありそうだったが、俺以外で使えるようなのはタウリシアン達くらいだと思うが。ああ、固定銃座に据え付けて使うことは可能かもしれんな。
「いえぇ、違いますよぉ。倉庫に運んでおいたんですけどぉ、今から見に行きますぅ?」
「良いね」
ニヤニヤしているライラと一緒に物品の保管倉庫へと向かう。この集落にはいくつかの倉庫が別々に建てられていて、今から向かうのは『通常品』を保管しておく倉庫だ。つまり、この惑星上で普通に流通している物品を保管する倉庫だな。ライラの雑貨店とくっついて建てられている倉庫でもある。
主な品目は実弾銃やその弾薬、交易品となる布や精錬した金属類、単純な工具類や、旅などに役立つツール類、保存の効く食料品などになる。まぁ、基本的に外部販売用の物品を保管する倉庫だな。
その他に作業場の地下には各種素材や資材を保管する倉庫が、大食堂には食料保存用の冷蔵倉庫と冷凍倉庫が、診療所や避難場所としての機能を持つ教会施設には医療資材や緊急時用の保存食を保管している倉庫が、そしてジェネレーター付近には上から持ち込んだ高度テクノロジー資材や装備を保管しているセキュリテイが厳重な秘匿倉庫が存在する。その倉庫からはザブトンを駐機している地下ハンガーにも繋がっている。
で、ライラとその他にはどんなものを買ってきたとかどれがよく売れたとか話しながらタウリシアンの武器とやらを倉庫に見に来たのだが。
「凄く……大きいな」
「グレンさんなら振るえるかと思いましてぇ」
「振るえないことはないと思うが……使う状況があるか?」
なんというか、それは鉄塊であった。いや、鉄塊と称するのは流石に失礼か。分厚く、幅広で、切っ先も刃も鋭く研ぎ澄まされたそれは剣なのだろう。俺の知っている剣と比べると随分とまぁデカくて重そうだが。
「前にプレデターズを素手で潰しましたよねぇ?」
「あれは一種のデモンストレーション……いや、でも自律型駆逐兵器を丁寧に壊すのには丁度良いか?」
エネルギーキャパシターなどの重要な部品を壊さないように慎重に壊すとなると、近接武器を使うのはアリと言えばアリなんだよな。ただ、プラズマナイフがあるからなぁ……とはいえ、俺のために買ってきてくれたものだし、使うだけ使ってみるか。
「使いこなせるかどうかはわからんが、ありがたく貰っておく」
「はいぃ」
タウリシアンの戦士の剣を手にした俺を見て、ライラは満足げな笑みを浮かべてみせるのだった。
以下後書き
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原稿期間に入るのでしばらくお休みします! ゆるしてね!!_(:3」∠)_
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