#049 「すごい、思想だけでグレンにダメージを与えている」
さて、楽しみにしていた二度目のキャラバンだが、これもまた成功裏に完了した。今回は南西の山の麓にあるという小柄な人型種族――土着のドワーフ――の集落へと交易に行ってもらったのだが、彼らはこちらのキャラバンが使用している高機動車に大層興味を示していたそうだ。
しかし、ドワーフか。俺が今回このリボースⅢに持ち込んだ装備のうち、ジェネレーターやザブトンなどの大掛かりなテクノロジー製品を調達してくれたのもドワーフのおっさんだ。ドワーフという種族は宇宙にかなり広く分布している――なんでも銀河の遥か彼方にあるという帝国にもコミュニティがあるとか――らしいが、まさかリボースⅢにも土着化した連中がいるとはな。
「あそこの人達、集落には入れてくれないんですよねぇ」
そう言ってライラが頬に手を当て、溜息を吐く。今回はライラがタウリシアンのキャラバンリーダーとしてキャラバンを率いて交易に出ていた。
「そうなのか?」
「そうなんですよぉ。地上の集落の入口に壁に囲まれた来訪者用のスペースがあるんですけどぉ、集落の主要部分は地下というか掘り進んだ山の中にあるそうなんですよねぇ」
「ふむ……なるほど」
つまり山岳をそのまま要塞化しているというわけか。それはなかなか素敵だな。この農場のように全方位から攻められるような恐れがないのが特に良い。ただ、プラズマ榴弾砲や大型の電磁加速砲をバカスカ撃ち込まれたら落盤とか怖いかもしれんなぁ。それならちゃんとシールド発生装置や対空迎撃兵器を用意した陣地……要塞――いや、農場の方が安全かもしれん。対空迎撃兵器はともかくとして、山一つをシールドで覆うわけにもいかんだろうからな。
「で、これが手に入れてきた品か」
「そうですねぇ」
ライラが今回買い付けてきた品々は主に金属製品――というかスクラップの類がメインで、その他には少数の銃火器、それと一つだけだが小型のエネルギーキャパシター。こちらが持っていった製品で喜ばれたのはセルロース系の再生・合成繊維類と生鮮の野菜類やレイクサイドとの交易で手に入れた魚などであったらしい。銃火器や弾薬類は少数しか売れず、塩の類は間に合っているという話だった。
「ふーむ……」
ドワーフの集落から買い取ってきたという銃火器や弾丸を検分する。銃火器の整備は完璧だな。各パーツがしっかりと噛み合っていてガタつきもないし、素材の質も良い。今まで見た現地産の銃火器の中では一番品質が良い。しかし、どうにも不自然だな。こいつは新品だ。恐らく今まで一度も使われていない。恐らくだが、こいつはドワーフの集落で作られたものだろう。
だが、この銃を作るには一定以上の精度を出せる工作機械が必要だ。それも大掛かりなものが。或いは、うちの作業場にあるような金属製品をプリントアウトできる高度機器が。しかし、ライラの話を聞く限りドワーフの防備はレイクサイドと大差のないものだという。
それと、この弾薬だ。この弾薬も素晴らしい出来だ。分解してみないとわからないが、少なくとも薬莢の寸法や造形は完璧に揃っている。ほぼ完璧な弾薬と言えるだろう。しかしそんな精度のものをここまで揃えられるとはな。恐らく、ドワーフの弾薬製造能力はうちで作るものと殆ど変わらない。量についてはわからんが、少なくとも品質面ではうちとそう変わらないと言える。
最後に極めつけなのがこのエネルギーキャパシターだ。これはまともなところで作られたものじゃない。メーカーのロゴも製造番号も見当たらないからな。上だったら所謂バルク品というか怪しい無印品として捨て値で売られたりするものなのだが、このリボースⅢでは話が別だ。
「これも新品のように見えるな」
「それ、結構吹っ掛けられたんですよねぇ……」
「そうか」
ドワーフ集落の技術レベルは表面上見えるものよりも遥かに高そうだ。そいつらの「真の戦力」がコイルガンなどの電磁投射兵器や対人レーザー兵器、それにパーソナルシールドなどを装備していても俺は驚かんね。
「高機動車に興味を示していた、か……」
その上で一つだけエネルギーキャパシターを交易品として渡してきた、というのには意図的なものを感じるな。ふむ……小型のバイクでも作って商品として送ってみるか。
「ライラ、次回のキャラバンなんだがな。もう一回そのドワーフの集落とやらに行ってくれ」
「えぇ? 良いですけどぉ、向こうもそう簡単には新しい交易品を用意できないと思いますよぉ?」
「気になることがあってな。無論、すぐに行けってことじゃない。俺の方も少し準備があるからな」
まずはこのエネルギーキャパシターの性能をよくチェックする必要がある。作りが甘くていきなり爆発とかしたら怖いからな。
☆★☆
キャラバンが入手してきたエネルギーキャパシターの安全性を調べるために作業場でスキャンをしていると、突如警報が鳴り響いた。二回連続で。
「なに?」
「東側に配置したドローンと南側に配置したドローンが同時に警報を発したようだ」
俺がエネルギーキャパシターを調べているのを横で眺めていたミューゼンの質問にそう答えながら、まずは東側のドローンからの映像をチェックする。
「東側のはコルディア教会だな。実行部隊と、護衛されているシスターだ。南側は……あー、なんだこりゃ」
それは武装集団であった。それも、なんともちぐはぐな。
メインウェポンは銃だ。突撃銃やライフルで武装している。腰にぶら下げているのは拳銃や手榴弾の類だろう。短剣のようなものまでぶら下げているのは妙だが武装はまぁ、わかる。しかし揃いの皮革製らしき鎧や兜を装備しているのは何なのだろうか。銃弾はそんなものでは防げないと思うのだが。
「馬車のようなものを連れた皮革製の鎧のようなものを着た集団が接近してきているな、南東から」
「見せて」
「ああ」
ミューゼンに渡しているホロ端末に映像を渡してやると、彼女は目を見開いた。
「コルディア教会の人達の収容を急がせて」
「あん? 危ない連中なのか?」
メッセンジャー役のドローンを両方に差し向けているところだったのだが、一応警戒度を上げておくか。南側の防壁はまだ作ってる途中なんだよな。北側を優先したから。
「あれは南東方面で幅を利かせている純血主義者達の部隊」
「純血主義者とは?」
「純粋な
「ああ、そう……また随分と古臭いというかなんというか……」
一体何千年前の思想だよ。下手すると万年クラスの化石みたいな思想だぞ。お前それ異星人ひしめく銀河法の下でも言えんの? って感じなんだが。
というか、完全にそれコルディア教会の敵対勢力じゃないか。明らかにタウリシアン達とも仲良くやれないだろう、そいつら。
「頭が痛くなりそうだ」
「すごい、思想だけでグレンにダメージを与えている」
「とにかく戦闘を想定して作業用ドローンは下げる。あと、コルディア教会の連中には北東の門に急ぐように伝える」
「うん」
スピカ達が居る時で良かったかもしれんな。警報が鳴った時点で即応体制になっている筈だから、南側の第一防壁上に展開するように通達しておこう。そういやフォルミカンの中にはレーザーピストルカービンよりもコイル・リピーターが好みって奴が何人かいたな。使わせてみるとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます