#050 「もう駄目だ! 逃げろ!」

 偵察ドローンを使ってコルディア教会の実行部隊と護衛されているシスター達に急いで防壁の北東側から農場に入るように伝え、そのまま北東の門へと向かわせる。

 そして俺はレーザーライフルを手にフォルミカン達と一緒に第一防壁の南側へと展開する――のだが、その前に偵察ドローンを使って南東側から接近してきている純血主義者と平和的な接触を試みることにする。


「こちらはグレン農場、そして俺は農場主のグレンだ。お前達は既にこちらの防衛圏に踏み込んでいる。所属と来訪の目的を明らかにしろ。返答なき場合は目的を侵略行為と断定し攻撃を加える。繰り返す、所属と来訪の目的を明らかにせよ」


 偵察ドローン越しにそう伝えると、連中の足が止まった。そうして集団の中で何度か情報のやり取りが行われた後に、他よりも少し装備が豪華――兜飾りとか――な奴が集団の前へと進み出てきた。


『我々は純血人類同盟の監察部隊だ。来訪の目的は新たに出現した勢力の監察である。大人しく門を開き、我々を受け入れてもらおう』


 代表者の物言いに頭が痛くなる。上下関係が確立されているわけでもない初見の勢力にそんなことを要求されて「はい喜んで!」と受け入れる馬鹿がどこにいるというんだ?


「こちらにはお前達の要求に従う理由が何一つないのに、受け入れることが当たり前のように宣うのはあまりに交渉が下手過ぎるとは思わんか? それともそちらの戦力に屈服して唯々諾々と相手が従う、という事態しか想定していないのか? どちらにせよ話にならん。もっとまともに会話ができるやつを出すか、そうでないならそのまま回れ右して帰れ。一度だけなら見逃してやる」

『従わない、ということか?』

「従う従わない以前の問題だ。初めて接触する勢力に交渉能力の欠片もない無能を寄越すような勢力とは付き合う気にもなれんよ。もう一度言うぞ? まともに交渉ができるやつを連れてくるか、今すぐ回れ右して帰れ。これが最後の警告だ」


 俺の警告を受け、再び集団内で情報のやり取りが行われたように見えた。集団の中ほどに存在している荷車ではなく、客車の中の人物にお伺いを立てているような雰囲気だ。奴らの数は凡そ五〇人ほどで、全部で六台の荷車と一台の客車を駄載動物に牽かせているのだが……指揮官はこの状況で客車の中から出てこないのか?


『……従わないならば、敵性勢力と見做す』

「そうか。なら死ね」


 面倒事は御免だからな。一人も生きては返さん。一人も逃さずに死体も装備も全て処分してしまえば、リアルタイムで通信でもしていない限りしらばっくれるのも不可能ではあるまい。今のところ、俺のセンサーでは奴らから強力な通信波の類は感知出来ていないからその線も無さそうだしな。


「旦那、作戦はどうするんだ?」

「スピカ達は敵の最後尾がキルゾーンに入ったら第一防壁上から交戦を開始しろ。同時にタレットも射撃開始だ。できるな?」

「勿論。旦那はどうするんだ?」

「俺は敵の側面に回り込んで側撃を加える。戦闘ボット達も逆サイドから回り込ませて退路を絶たせる。一人も逃すな」

「了解、死人に口なしってことだね」

「そういうこった」


 文字通り一人残らず全滅させてしまえば純血人類同盟とかいう勢力とうちが接触し、戦闘を行ったという事実そのものが隠蔽されることになる。死体はともかく、鹵獲した装備や物資をどうするかが問題だな。そういったものも分解してしまうのが安全なんだが、分解して素材化するのも若干惜しいな……特に、装備はともかく食料の類はな。上手いこと利用できないか考えよう。

 城壁の上をスピカに任せ、次はエリーカ――というかエリーカの傍にいるポチへと通信を繋げる。


「エリーカ、聞こえているか?」

『はい、グレンさん。コルディア教会の皆さんはもう少しで到着しそうです。門は既に開けてあります』

「わかった、その調子で収容を進めてくれ。純血人類同盟とかいう連中とは戦闘になりそうだから、決して南側に来ないように。客人もな」

『わかりました……あの、グレンさん。お気をつけて』

「ああ」


 返事をして第一防壁から飛び降りつつ、熱光学迷彩マントを起動する。さぁ、狩りの時間だ。


 ☆★☆


 南側の第二防壁はまだ未完成、というか未着手で、第二防壁は今のところ北側と東西の半分ほどまで完成していない。まぁ、中途半端に作っても仕方がないからな。なので、射線に関しても南側に関しては第一防壁上からは問題なく南側へと通っている状態だ。


『旦那、もうすぐ最後尾がキルゾーンに入るよ』

『了解、そちらのタイミングで撃ち始めろ』


 スピカからの通信に無声通信で応えつつ、純血人類同盟の側面へと回り込む。皆揃いの革鎧と銃器で装備を統一しているのはなかなか凄いな。揃いの装備を整えられるだけの生産力を有しているというのは、今までに遭遇した現地勢力の中ではコルディア教会に迫る力を持っていることの証左だ。ああいや、タウリシアンの戦士団もそうと言えばそうか。いずれにせよ、純血人類同盟という相手を過小評価はしない方が良いという指標としては十分なものだ。少なくとも、イトゥルップ共同体よりも勢力としての力は強いと考えた方が良い。

 だからこそ、確実に殺す。


『射撃を開始するよ、旦那』

『ああ、こちらも攻撃を開始する』


 肩に負ったレーザーライフルではなく、腰元から丸い金属球を手に取り、二つあるボタンを押す。信管はこの両方のボタンを離してから五秒後に作動する。

 フォンッ、という鈍い風切り音を鳴らして球体が空中を飛翔し、狙い違わず目標の客車の直ぐ側に転がった。よし、狙い通りだ。

 直後、ズドォン! という音と共に緑色の爆光が発生し、加害範囲内にあるほぼ全ての物質を灰も残さずに焼滅させる。俺が投げ込んだのはプラズマグレネード。俺の顔を焼き落とした、俺にとってはかなり因縁のある兵器だ。まぁ、そんなもの無視して俺は使うんだがな。

 突然自分達の最上位者が緑色の爆風に巻き込まれて跡形も無く消し飛んだ敵兵達は慌てふためき、ロクに反撃もできぬままに第一防壁のコイルガンタレットとスピカ達の射撃で打ち倒されていく。スピカめ、あの様子だと真っ先に前線指揮官を撃ち殺したな。純血人類同盟の連中が右往左往してとんでもないことになってるぞ。スピカ達に向かって撃ち返してる連中もいるが、殆どはより目立つコイルガンタレットに攻撃してるな。

 俺は俺で補給物資を積んでいる荷車を御している兵を狙い撃ちにしていく。まさか連中も側面から俺に回り込まれているとは思っていないようで、俺の存在に気付く様子が全く無い。軍用対人レーザーライフルの軌跡は特殊な条件下か、専用の可視化ゴーグルでも装備しない限り見えんからな。

 もっとも、熱光学迷彩マントを起動して微妙に射撃位置を変えている俺の位置を何の機器にも頼らずに肉眼で特定するのはかなり難しいだろうが。相手が無能なのではなく、こちらがテクノロジーで圧倒しているだけである。気の毒だが、戦場というのはフェアゲームではないんだよな。


「どこかから撃たれてるぞ!」

「もう駄目だ! 逃げろ!」

『スピカ、連中逃げ始めるぞ』

『もうか? どうする旦那、レーザータレットも使うか?』

『そうしろ。スピカ達は奥の方から狙え』

『了解』


 逃げ始めた純血人類同盟の連中を片っ端から血祭りに上げていく。既に逃げ始めてる連中も出始めているが、逃げた先には足の早い軽戦闘ボットを回り込ませてある。通常クラスの戦闘ボット達は間に合わないから、側撃させよう。これで奴らの前面にはタレットとスピカ達、左側面に戦闘ボット、右側面に俺、そして背面には回り込んだ軽戦闘ボットという包囲殲滅陣が出来上がった形になる。今回も逃さんぞ。誰一人としてな。

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