#048 「これは良いものだぞ」

「それで内臓祭りってっわけか」

「そういうことだな」


 よく焼いたヘキサディアの心臓やら肝臓やらを盛り付けた皿をスピカに手渡しながら頷く。

 ミューゼンと一緒に行った狩りは大成功で、スピカ達も日が落ちる前には農場へと帰ってきた。交易の結果も上々だったようで、キャラバンは湖で取れた魚の加工品や余剰の銃器類、それにレイクサイドでは用途がないガラクタ類などを引き取ってきていた。

 もし本当にガラクタだとしても、二束三文で買い叩けるなら金属系のものなら引き取ってこいと言っておいたのだ。金属系のスクラップなら最悪本当にただのガラクタだとしても構成器で金属系元素としてリサイクルできるからな。

 そして、キャラバンはその対価として持っていった医薬品やうちではいくらでも作り放題な塩や布地などを向こうに置いてきたと。


「デニス殿は殆ど物々交換になってしまったので若干不満げでしたが」

「次回以降に期待だな」

「そうですね。医療物資の提供には感謝されていましたよ。デニス殿も、ナンナ殿も」

「そりゃ良かった。これでまた貸し一つだな」


 ナンナというのはレイクサイドの医者の名前だ。高度な医療資材の知識には欠けていたが、それでも簡単な説明である程度使いこなしていた。腕は悪くないんじゃないかな。


「旦那、暫くは狩猟を強化するのか?」

「そうだな。獲り過ぎないように気をつける必要があるだろうが、食う口が増えた分は獲らないといかんだろう」


 俺とエリーカ、それにライラとミューゼンの四人だったらヘキサディア一頭分の肉で軽く十日は食い繋げたのだが、そこにタウリシアン五人とフォルミカン十人が増えたのだから、消費量は五倍ほど――タウリシアンもフォルミカンも良く食うので――に跳ね上がったわけだ。つまり、十日に一頭狩れば良かったのが、凡そ二日に一頭狩らなければ需要を満たせなくなった。これはなかなか大変な話である。


「このペースで狩ったら周辺から獲物がいなくなりそうだ」

「場合によっては狩猟遠征などもしたほうが良いかもしれんな」

「すぐにということは無いと思いますけど、高機動車があれば獲物も運べますし、採取も一緒にできますよね」


 護衛型と輸送型を一両ずつ派遣すれば丁度良いかもしれんな。いずれ肉が必要になった時にはそういう形での狩猟というのも考えてみても良いだろう。


「明日以降のキャラバンはどうするんだ? 旦那」

「明日一日で使用した車両の整備をする。そうしたら今度は泊りがけでのキャラバンだな。メンバーはある程度入れ替えて、経験が偏らないように配慮してくれ」

「わかったよ、旦那」

「はぁい、わかりましたぁ」


 スピカとライラも俺の定めた方針に特に文句はないのか、素直に同意してくれた。徒歩のキャラバンなら熟達してるメンバーなんだろうが、高機動車を使ったキャラバンはまた勝手が違うだろうからな。明日は「こうした方が良いんじゃないか」というフィードバックが無いかもちゃんと聞いてみるとしよう。


 ☆★☆


 翌日、タウリシアンとフォルミカンの約半数、そしてミューゼンに俺というメンバーで高機動車のメンテナンスを行った。主に足回りのチェックと清掃だな。あとはセルフチェックをして終わりだが……今日は交換作業もやってしまうか。


「セルフチェックで問題がなければとりあえずは大丈夫なんだが、今日はどうせだから足回りの交換も実際にやってみようと思う」


 そう言ってメンテナンスモードを起動すると、六本の足のうち一本だけが地面から僅かに離れて固定された。


「この状態で足を外して新しいものに交換する。交換した足は分解して資材化し、作り直せば新品になるわけだ。リサイクル率はほぼ100%だから、とてもエコだな」

「あの、それなら予備の足を何本か積んでおいたら万が一の故障の時に安心じゃないですか?」

「そうだな……結構重量があるが、明日からはそういう形にしよう」


 護衛型と輸送型では足パーツに互換性が無いのがネックなんだよな。まぁ、各二本ずつ積んでおけばよいだろうか。高機動車のパーツの中で特に故障率が高いのは確かに足回りなのだが、数日に一回農場に帰ってきてしっかりメンテナンスをしておけばそうそう故障することも無いはずだし。

 あまり推奨されてはいないが、最悪四足でも走れなくは無いからな。積載可能量が減る上に安定性が落ちて転倒しやすくなるし、揺れも激しくなるから乗り心地も最悪になる。


「さぁ、交換作業をやってしまうぞ。手順だが――」


 と、手順を説明しながら実際に足を外してみせる。足回りの損耗が激しいというのはある意味で織り込み済みの設計というわけだな。トラブったら足というモジュールごと交換してしまえというわけだ。交換した足をほぼ100%でリサイクルできる構成器と、構成器で回収した素材から部品をプリントアウトできる高度な工作機械があるからできる運用だな。

 やってみせたあとは他の足を実際にタウリシアンやフォルミカン達に交換させる。実際に外したりつけたりした経験があればいざ故障した時にも冷静に対処できるだろう。

 ちなみに、このメンテナンス講習に参加していない面々はレイクサイドから引き取ってきたガラクタ類を運び出したり、分別したりしている。その他には農作業の監督や、買い付けてきた食料品の管理をしているエリーカの手伝いにも何人か行っている。

 これが終わったらそっちの方も確認しないとな。


 ☆★☆


「あ、グレンさぁん」


 メンテナンス講習を終えて調達した物資の確認に来た俺をライラが見つけ、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら手を振ってくる。うん、凄い。凄いなそれは。あんなに揺れて大丈夫なのだろうか?


「ああ。どんな調子だ?」

「目録はこれですぅ。こっちが私達でも判別できた有用なもので、あっちが間違いなくガラクタというもの、こっちにあるのは判別不能だったものですねぇ」


 そう言いながらライラが差し出してきたタブレット端末を受け取り、目録を確認する。ふむ、なるほど。古びた銃火器類の他には品質があまり良くない弾薬類、電子機器類のスクラップ、自律型駆逐兵器の残骸……この辺りは『使える』ガラクタ類だな。対してこっちは錆だらけの刀剣らしきものに、金属製の装甲板のようなもの、鎧のようなもの、よくわからん置物……うん、ガラクタだな。装甲板も普通の鋼鉄だ。高度な複合装甲なら使い途がああったかもしれんが、コレじゃ何の役にも立たん。

 そして判別不能のものは……殆どガラクタだが、破損の酷いパーソナルシールド発生器がいくつかあった。エネルギーキャパシターが生きているのが一つあるな。共食い修理をすれば一つくらいでっち上げられるかもしれん。このパーソナルシールド発生器は俺が装備しているのと同じようなやつだな。展開中に射撃系の武器は使えないが、実弾兵器には滅法強いし、レーザーガンやレーザーライフルの攻撃も何発かは耐えられる。

 ただ、反物質コアからエネルギーを供給できる俺と違って、エネルギーキャパシターに蓄えられたエネルギーが切れたらエネルギーパックを使うか、専用の施設でエネルギーを補充しないと再展開はできんな。そこは注意が必要だ。


「これは良いものだぞ」

「あ、そうなんですかぁ? 全部合わせて二〇タラーで買い叩いてきたみたいですよぉ」


 ライラはそう言ってにっこりと笑う。このパーソナルシールド発生器のジャンクがたったの二〇タラーか。これ、新品で買うと一五〇〇エネルくらいするんだぞ。タラーをエネル換算するのは難しいが、明らかに二束三文だ。まぁ、ジャンク品を集めてレストアしたからって新品と同じ値段になるわけじゃないが、レストア品でも半額くらいはする。七五〇エネルあれば余裕で二ヶ月分の食費を賄えるぞ。節約すれば三ヶ月食いつなげるかもしれん。


「これは大当たりだな。今後も同じように買い付けをするのが良さそうだ」

「レイクサイドのはもう根こそぎ買っちゃったみたいですから、次は無さそうですけどねぇ……他の集落でも同じように買い取りをしてみますねぇ」

「そうしてくれ。この調子だと色々と掘り出し物が手に入りそうだ」


 本当に思わぬ拾い物だったな。これは次のキャラバンが楽しみだ。

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