#047 「たくさん捕る」

 キャラバンの目的地第一号はレイクサイドを対象にすることが決まった。レイクサイドの物資倉庫は俺が一度中身を見ていて、持ち帰ってきたエネルギーパックのケースや陽電子頭脳の他にも自立型駆逐兵器の残骸などを確認していたからだ。エネルギーキャパシターは使えそうに無かったが、分解すれば有用なコンポーネントは回収できそうだった。前に行った時には持ち運べる重量にも限りがあったから持ってこられなかったが、輸送型高機動車があれば余裕を持って持ち帰ることができるだろう。

 それに、今のあの集落にはイトゥルップ共同体から鹵獲した銃器などがある筈だ。何せ奴らの人数分丸々だからな。余っているならある程度買い叩けるだろう。それに、レイクサイドにはうちではどうやっても入手できない湖由来の食料品もある。それらを仕入れてくるのも大いにアリだ。


「では、行ってまいります」

「行ってくるよ、旦那」

「ああ」


 ティエンをキャラバンリーダー、スピカを護衛のリーダーとしてタウリシアン四名、フォルミカン六名の計十名が四台の高機動車に乗ってレイクサイドへと旅立っていった。旅立っていったと言っても、レイクサイドには急げば片道二時間ほど、ゆっくり走っても片道三時間ほどで着くはずなので、朝に出て日が落ちる前には商売を終えて帰ってくる予定なのだが。


「行っちゃいましたねぇ」

「まぁ心配は要らんだろう」


 火力でも機動力でもうちのキャラバンに脅威を与えられるような存在は……自律型駆逐兵器くらいか? 奴らのコイルガンを食らうと流石に高機動車は撃破されるな。偵察ドローンをちゃんと使っていれば接敵すること自体無いと思うが。


「今日は何をするの?」


 キャラバン隊が殆ど見えないくらい遠くに行ったタイミングでミューゼンが俺の顔を見上げながらそう聞いてくる。そうだな、今日やることか。


「喫緊のタスクは無いな。販売用の銃器を作るか、それとも消費が増えたから狩猟で肉の在庫を増やすくらいか」


 建築関連は全て作業用ボット、農業関連は全て農作業用ボットとドローンに任せているので、俺達が手を動かすことと言えば製造系の作業か狩猟くらいだ。ああいや、建築作業に使う鉱物系の素材が払底気味だから、地下鉱脈を探して自動採掘機を配備するのもアリかもしれん。

 自動採掘機は鉱物資源の採集に特化した自動機械だ。地下鉱脈の上に設置すると複数の子機を地下に送り出して採掘を行い、有用な地下資源を採掘し続ける。第二防壁の建設で鉱物系の資源が目減りしてきているので、設置するタイミングとしては悪くないかもしれんな。防衛に回せる人手も増えたことだし。


「地下資源の採掘機を設置するというタスクを今思いついた」

「今?」

「ああ、今だ。ついでに狩りもする」

「狩り。私もする」


 ミューゼンがそう言って両手に拳を作ってやる気をアピールする。触手も先端をぎゅっと丸めている。それはやる気のアピールなのか……?


 ☆★☆


 自動採掘機はそこそこ大型の機械だ。可能であれば壁の中に置きたいのだが都合よくそうはいかなかったので、外に置くしかない。また、動力の問題もある。流石にエネルギーパックなどで動かすには消費エネルギーが多いので、農場の中心にあるジェネレーターからエネルギーの伝導管を引く必要がある。まぁ、エネルギーの伝導管に関しては外壁までは通してあるので、外壁から自動採掘機の設置場所まで伸ばすのは問題ない。ついでに採取した鉱物資源を運搬する導管も敷設する。

 え? 分解するのは百歩譲って良いとして、分解した物質がどういう原理で消えたかのように格納されるのかって? 俺にそんな難しいことを聞くなよ……情報断片化とか次元圧縮効果とか俺には全く理解できない技術を使っているという話を聞いたことがあるが、実際にどうなのかなんて俺にはわからんよ。使えれば良いんだよ、こんなものは。


「設置作業、これだけ?」

「これだけだ」


 俺がやった設置作業とは上空の偵察ドローンからのスキャンで鉱脈がありそうな場所を探し、実際に現地に赴いてスキャナーで鉱物資源をスキャンし、自動採掘機の設置地点を決めて作業用ボットに自動採掘機の設置と動力管などの敷設を指示しただけである。実際に掘ったり組み立てたりは一切しない。素人がやるより作業用ボットに任せた方が確実だからな。


「なんか簡単」

「簡単になるようにしっかりと準備をしてきたからな」


 肩を竦めてそう言いながら、俺は狩猟に使うライフルの準備をする。今回狩猟用の銃として持ってきたのはエリーカが使っているのと同じタイプの実弾ライフルだ。レーザーライフルだと威力が強すぎる上に一瞬でショック死するし、それに熱のせいで血抜きが上手くやれないんだよな……コイルガンも威力が強すぎるのは同じだ。結局、美味い肉を捕るには火薬式の実弾銃が良いらしい。


「私も頑張る」


 そう言ってミューゼンが持っているのはエリーカから借りてきたライフルだ。つまり、俺と同じ銃だな。二人とも全く同じ銃を持ってきたわけだ。


「何を狩るの?」

「一番近いのはあっちにいるヘキサディアだな」


 ヘキサディアというのは角が生えている六本足の草食動物で、気性はかなり臆病だ。他の生き物の気配を察知するとかなりの速度で走って逃げる。俺なら頑張って走れば追いつけるがな。

 肉の味も悪くなく、この辺りでは一般的な狩猟動物とされている。ヘキサディア一頭から採れる肉でうちのコロニー全体で凡そ三日分の消費を賄える。


「たくさん捕る」

「処理の問題があるから沢山は難しいぞ……」


 ふんすと鼻息の荒いミューゼンにそう言いながら移動を開始する。しかしミューゼンよ。狩猟だと言うのにそのヒラヒラした修道女服で来るのはどうなんだ……? いや、まぁ別に良いけどな。血とかで汚しても知らんぞ。

 偵察ドローンからの映像で場所は判明しているので、風下に回り込むように慎重に進む。野生動物は鼻が良いからな。風上から近づくと臭いを察知されて簡単に逃げられる。それに、物音もあまり立てないように気をつける必要がある。枝の折れる音や金属音などには特に敏感らしい。


「見えた、姿勢を低くしろ」

「どこ?」


 まだ目標を見つけられていないミューゼンにもわかるようにヘキサディアのいる方向に指を指して教える。俺ならこの距離からでも当てられるが、ミューゼンには難しいだろうな。もう少し近づこう。今のうちにスライドを引いて初弾を薬室に装填し、忍び足でヘキサディアに接近する。ついでに今のうちに運搬作業用ボットを呼んでおく。獲物の運搬に必要だし、洗浄用の水を運んできてもらう必要もあるからな。

 そうしているうちにミューゼンでも十分に当てられそうな位置まで近づいたので、ミューゼンに群れの左側のヘキサディアを狙うようにハンドサインで指示を出すと、ミューゼンは触手で◯を作って了解の意を示し、両手だけでなく触手も使ってライフルを安定させ、狙いを定め始めた。ミューゼンの触手のうち一本が地面を叩いてカウントを始める。事前に示し合わせた通り、ミューゼンの触手が地面を三度叩いたタイミングで発砲する。

 パパァン! とほぼ同時に二丁のライフルが銃口から火を噴き、二頭のヘキサディアが血飛沫を上げて地面に倒れ込んだ。俺は素早く次弾を装填し、逃げようと身を翻したヘキサディアをもう一頭仕留め、更に完全に逃げ始めたもう一頭を仕留める。


「グレン凄い」

「これくらいの距離ならな。さぁ、血抜きをしてしまうぞ」


 四頭も処理するとなると二人じゃちょっと手に余るな。居残りのフォルミカンを増援に呼ぶとするか。今日は新鮮な内臓で焼き肉パーティーだ。

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