#046 「わかったなら良い」

「いえーい」

「曲芸みたいな乗り方はやめろ。事故の元だし故障の元でもある。二度とするな」

「ごめんなさい」

「わかったなら良い」


 リバーストライクで意図的なウィリー走行をしたミューゼンを叱る。リバーストライクをごく短時間で乗りこなしたのは凄いが、ふざけて危険な運転をするのは論外だ。


「これは早いですねぇ」

「荷物も沢山積めるね」


 タウリシアン達の運転は安全第一という感じで見ていて安心感がある。ただ、あまりアクセルを踏み込まないな。高速走行が怖いのかと思ったら、無理をさせて壊すのが怖いそうだ。足回りが壊れて動けなくなったらたちまち略奪の対象となると。なるほど。


「ひゃっほー!」

「おい馬鹿踏みすぎだ! スピード落とせ! うわあああこわいいいいぃぃ!?」


 フォルミカン達は慎重かはっちゃけるかのどっちかだな。テンションを上げて爆走している奴にはタグを付けてチェックしておく。後で俺が『地獄の接触横転事故連続耐久~お前が反省するまで事故るのをやめない~』を実施してやろう。

 エリーカは優秀だな。習得時間が特に早いわけではないが、今は護衛型の高機動車両を堅実かつ安全に運転している。リバーストライクの運転もマスターしたら追加で製造して二台で遠乗りに行くのも良いかもしれん。

 一通り運転させたところで暴走行為をしたフォルミカン達を乗せて事故りまくりながら五キロメートルほど爆走し、泣きが入ったところでコア部品のエネルギーキャパシターと脚部先端の電磁モーターの他、分解した護衛型高機動車の部品を背負わせて農場まで歩かせた。一人当たり八〇キログラムくらいの負荷ならギリギリ背押せるようだ。フォルミカンは力持ちだな、ハハハ。俺は一人で二〇〇キログラム分背負っているので文句は言わせないぞ。

 残りはタウリシアン達に輸送型高機動車に回収に行ってもらった。


「というわけで、危険な運転は事故確率を上げて単純にリスキーな上に、装備の破損を招きやすくなる。そうなった場合は事故車両を分解し、最悪の場合コア部品だけでも背負って帰ってきてもらうことになる。どうしようもない場合は爆破して破棄することになるが、そうした場合の損害は計り知れん。この星ではそう簡単に手に入らないものだからな。そういうわけで、装備を取り扱う際には細心の注意を払うこと。わかったな?」

「「「さ、さー、いえっさー……」」」


 八〇キログラムもの荷物を背負っておよそ五キロメートルを駆け足させられた三人のフォルミカン――デミア、ザニア、カンバ――が足をガクガクと震わせながら返事をする。

 運転についてはある程度目処がついたので、今度は簡単なメンテナンスについて皆を集めて講義を行う。高機動車両で一番トラブルが起こりがちなのはやはり足回りだ。とはいえ、ちゃんとケアをしてやればそう簡単に壊れるということもない。要は、銃器と同じでしっかりとメンテをしてやるのが大事なのだ。


「そういう意味では駄載獣と変わりませんねぇ」

「だな。足の様子をチェックしたり、飯や水をやったりするのと同じだ」


 ライラとスピカがそんな事を言いながら頷いている。確かにそういう観点で見れば同じかもしれんな。高機動車はセルフチェック機能があるから、動物よりは世話が楽だと思うが。何せどこが悪いのか自己申告してくれるからな。


「とはいえ、セルフチェック機能に頼り切りになると、肝心な時に故障が出かねない。どこかの入植地に到着した時や、野営時にメンテナンスの時間があれば軽くチェックと清掃はするように」

「「「はーい」」」


 他にトラブルで擱座し、どうしようもなくなった時の対処法――コアパーツだけ回収して放棄するなど――についてもレクチャーする。最悪、エネルギーキャパシターさえ回収できれば他はなんとでもなる。


「ただ、勘違いをしないで欲しいんだが、所詮モノはモノ、装備は装備だ。何よりも搭乗者であるお前達の命が優先だ。命あっての物種だからな。いざとなれば装備は破棄して構わん」


 装備の保全やコアパーツの確保を優先した結果、大怪我をしたり命を落としたりするのでは本末転倒だ。確かに高品質のエネルギーキャパシターはこの惑星ではそうそう手に入るものではないが、シャトルを使って買いに行くことはできなくもないからな。


 ☆★☆


 数日をかけて高機動車やリバーストライクの慣熟訓練や、車載機銃の試射、それに再生・合成繊維製の布地や衣服を用意する一方で、中央区画――最初に壁で囲った区画だ――で作物の収穫を進め、収穫の終わった農地は順次第二防壁と第一防壁の間に新しく開墾した農地へと土などを移して新たな宅地などにしていく。

 最終的に、この中央区画は最重要施設であるジェネレーターを中心にハイテク製品などを収めている半地下倉庫や、教会施設、ハイテク作業機械がある作業場、各種車両の駐車・メンテナンス設備など、外部の連中に見せたくない、或いは見せる必要のない設備を集めるつもりだ。その中には俺達の住居も含まれる。

 まぁ、俺達の住居も最終的に第三防壁を作り始めたら、第二防壁と第三防壁の間に移すことになるだろう。土地が足りなくなりそうだしな。もしかしたら俺の家だけ残すことになるかもしれんが、俺の家族というのもな……エリーカというか、コルディア教会のスタンスに従っていくと、まだまだ増えそうだしなぁ……子供ができたりということもあるだろうし、中央区画では手狭になるだろうな。やはり外郭に居を移すことになりそうだ。

 そうそう、キャラバンや訪問者向けのキャンプサイトや宿泊施設に関してはライラの雑貨店近くにとりあえず集中配置することにした。よそ者が住人の住居や高度な作業機械がある作業場、それにハイテクな乗り物の周辺を自由にうろうろして回るのは保安上の問題があるし、その辺りの管理が緩いと思われるのも問題があるという。場合によっては舐められるかもしれないと。

 実際には各種作業用ボットや偵察ドローンなどが訪問者などの動きを逐一チェックしていて、不審な行動があれば警報が鳴るようになっているんだが……そんなことは今まで俺しか知らなかったことだし、よそ者はそんなことわかりっこないからな、確かにそういう対策も必要なのだろうということで納得はした。


「私達、監視されてた?」

「家族として登録したから監視レベルは下がってるけどな。それでも例えば何か破壊工作をしたり、放火しようとした場合にはすぐに警報が飛んでくるぞ」

「そんなことしない」

「なら何の問題もないさ」


 それでもなんとなく納得し難いのか、ミューゼンの触手が俺の背中をぺちぺちと叩いている。まぁこれくらいは可愛いものだな。


「キャラバンの出発はどうしますかぁ?」

「用意が出来次第出発で良いんじゃないか? 今は商品にするための布地や服を量産しているんだよな?」

「そうですねぇ。お塩と布地、それとグレンさんが作った機械で基本的な服も作ってますねぇ。あと、手作業でも服を作ってるところですよぉ。じゃあ、ある程度商品が揃ったらキャラバンを出しますねぇ」

「そうしてくれ。差配は任せる。ただ、新しい装備を使った初めての交易だからな。あまり日数をかけず、短期間で帰ってくるようにしてくれ。長距離遠征に関しては徐々にやっていく形にしよう。どんなトラブルが起きるかわからないからな」

「そうですねぇ、わかりましたぁ。計画を立ててからもう一度相談しますねぇ」


 ライラはそう言ってニッコリと笑みを浮かべた。

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