#044 「これはもう農場じゃなくて小規模の城郭都市とかじゃないか?」

 今回グレン農場に移住してきたタウリシアンの娘達は全部で五人。

 エルナ、プリマ、セクンダ、アイン、ティエンの五人だ。エルナはタウリシアンとしては小柄だが力持ち、プリマはおっとりとしていて料理好き、セクンダは大柄で武器の扱いにも長けた武闘派、アインは寡黙だが裁縫が得意、ティエンはライラと同じくらい商売に通じた知恵者。まぁ総じて乳がでかい。タウリシアン恐るべし。

 そしてフォルミカンはスピカを入れて十人。

 スピカについては割愛するが、名前はそれぞれザヴィヤ、ポリマ、ミネラ、デミア、ヘーゼ、ザニア、シュルマ、カンバ、エルガだ。総じてぺったんこの絶壁だ。

 ザヴィヤは片目隠れで引っ込み思案だが、冷静で射撃の腕が良い。他の面々も勇敢だったり、のんびり屋だったり、生真面目だったり、逆にだらけ癖があるがいざという時のフォローが上手かったりとなかなか個性的だ。


「だんなー、私達の扱い雑じゃない?」

「そーだそーだ! おっぱい差別はんたーい!」

「数が多いんだよ、数が。名前はちゃんと覚えたからおいおいな、おいおい」


 一人一人に顔や体格の情報を元にしたARタグを振り、タグに名前を登録しておく。これで名前を間違えることもない。


「誤魔化してませんか?」


 真面目属性なフォルミカンにジト目を向けられるが、黙殺しておく。それよりも、俺達には優先すべき議題があるんだ。


「今すぐどうこうってわけじゃないが、畑を拡張しないと食糧危機の恐れがある」

「一気に増えましたからねぇ……私達、食べる量も多いですしぃ」

「私達も身体の大きさの割にはよく食べるって言われるからなぁ」


 俺の発言にライラとスピカが同意するように頷く。今回、タウリシアンの娘達とその護衛をしていたタウリシアンの戦士達は賠償金もとい持参金だけを持ってきたわけではなく、大量の保存の利く食料を運び込んできてくれた。それらも持参金の一部だと言って置いていってくれたわけだが、元々の備蓄と合わせても今の食料生産ペースでは半年もすれば食料備蓄が底を突きかねない。


「エリーカは統括機と情報を共有して早急に耕作面積の拡張についてどの程度必要になるのかを検討してくれ。拡張計画としてはこうしようと考えている」


 そう言って俺は卓上のホロディスプレイを起動し、偵察ドローンが上空から撮影した農場の俯瞰図を表示した。その映像――というか、大型のホロディスプレイを目にした新入りのタウリシアン達やフォルミカン達がお驚きの声を上げる。


「今の防壁の外にもう一枚防壁を作る。タレット群もそちらに移す予定だ。で、この第一防壁と第二防壁の間を全て農地にしようかと思っている」

「防壁を二重にするのは堅牢性という観点では大いにアリだと思うけど……」

「なんだ?」


 言葉を濁すスピカに先を促す。意見はちゃんと出してもらった方が良い。


「これはもう農場じゃなくて小規模の城郭都市とかじゃないか?」

「人が住んでいて、畑がある。だからここは農場だ」

「そうかなぁ……?」


 スピカは納得できないとでも言いたげな表情をしているが、これだけは譲れんな。俺が作っているのはちょっと頑丈な農場で、決して砦だとか要塞だとか城郭都市だとかそんな物騒なものではない。いいね?


「まぁ、これはあくまでも予定だ。将来的にもっと畑の面積が必要だということであれば、防壁と防壁との間をもっと広くして土地を広くすることもできる。結局のところ農作物はこの農場のメイン商品にもしたいから、正直食料自給率100%どころか200%以上を目指したい。いくら作っても売り先はなんとでもなる。だからエリーカは統括機と余裕を持った数値を出してくれるよう頼む。着工はそれからだ。ああ、壁外の農地化はすぐにでも始めてくれ」

「はい、グレンさん。ライラさんにも相談に乗ってもらいますね」

「はぁい」


 とりあえず農地と食料生産についてはこれでよし。次は交易だな。


「交易に関してなんだが、うちではタラーがだいぶだぶついてる。だから、タラーを持って外に物資を買いに出て欲しいと思っている。買い出しに行って欲しい物資に関してはリスト化するが、モノとしては基本的には利用されずに倉庫の奥にしまい込まれているハイテク製品だな。由来や使い方がわからずに放置されているものを買い叩いてきてくれ。ライラ、そういったものの目利きはできるか?」

「ある程度はできますけどぉ、グレンさんほどにはわからないと思いますよぉ?」


 ライラが眉根を寄せながらそう言うと、タウリシアンの娘達も同じように眉根を寄せたり、不安そうな表情を見せたりする。


「ある程度の判別をつけられるようにスキャンデバイスを支給するから、うちの物資をそれでスキャンして勉強してくれ。あと、そう言う物資だけでなく嗜好品の類も集めて欲しい主に酒や茶だな。タバコやその他ドラッグ類は――」


 エリーカに目を向けると、彼女は両手と外肢を使ってダブルバッテンを作り出した。ミューゼンもそれに倣って両手と触手でバッテンをたくさん作る。


「見ての通りコルディア教会的にアウトだそうだ。だから、酒と茶、あとは保存の利くドライフルーツやジャムなんかの長期保存ができる甘味類だな」

「食料は良いのですか?」


 タウリシアンの娘達のうちの一人、ティエンが小さく手を上げて質問をしてくる。


「少なくとも当面はな。さっきも言ったが、食糧問題は早急に対応しなければ将来的に詰みかねない重大な問題だが、逆に言えば早期に対応しさえすれば問題なく乗り越えられる問題でもある。狩猟による肉の獲得と保存を強化すれば脅威度は更に下がる。最悪、俺の伝手でなんとかするって手も無くはない。だから、交易に関してはハイテク製品やその部品、それと嗜好品に全振りして構わない」

「わかりました。持ち出すのはタラーだけですか?」

「いや、塩と長期保存可能な清潔な水、あとは銃火器や弾薬を商品としてもらう。銃火器は鹵獲した物がメインだな。新規製造も可能だが、どういったものを流すかはライラとスピカを中心に今後相談する。二人は相談に同席させる人員を選抜しておいてくれ」

「わかりましたぁ」

「了解」


 交易と防衛、両方に関係することなので二人とその部下を交えて相談することにする。うちの農場の外にあまり高品質な武器を流して、その結果うちの農場が脅かされたり、うちから流した武器が原因で友好関係にある他のコミュニティで大きな被害が出たりすると面倒だからな。うちで作る武器は精度も品質もそこらで出回っているオンボロとは一線を画すものになるだろうから、無責任にそこら中にばら撒くというわけにもいくまい。


「それと、交易を安全に行うために護衛を担当してもらうフォルミカン達には俺が色々と装備を支給する。当然、今までに扱ったことのない装備ばかりになるだろう。お前達の戦闘能力は今までの倍どころではなく跳ね上がることになる」


 俺の宣言にフォルミカン達が感心したり、歓声を上げたり、指笛を吹いたりする。ははは、笑っていられるのも今だけだぞ貴様ら。


「つまり、装備を正しく扱わなかった場合の危険度も今までよりも数倍に跳ね上がる。また、装備を鹵獲された場合の危険度も同様に跳ね上がる。そんなことが絶対に起きないように朝から晩まで反吐も出なくなるくらい締め上げてやるから、今のうちに楽しみにしておけ」


 続く俺の宣言を聞いたフォルミカン達がシンと静まり返った。お祭り騒ぎから一転してお通夜のような雰囲気になる。


「スピカ、わかっていると想うが脱走を許さないように。まぁ、逃げようと思っても逃げられるとは思わんが」

「うっす……」

「スピカが相手でも容赦はせんぞ」

「はい……」


 スピカが肩を落としてしょんぼりとする。可哀想だが、それはそれ、これはこれだからな。


「それと、実際に交易に行くタウリシアン達」

「「「は、はい」」」

「重い荷物を背負って長距離を歩くのは終わりだ。輸送能力と走破能力に優れる高機動車両を用意するから、今後はそれに乗って行商をしてもらう。フォルミカン達ほどに厳しくする気はないが、ちゃんと運転は覚えてもらうぞ」

「「「はいっ!」」」


 もう重い荷物を背負わなくて良いと聞いたタウリシアンの娘達が満面の笑みを浮かべる。


「お前達もだ。高機動車両に追随できるような移動手段を用意する。その慣熟訓練も行うから、そのつもりでいろ」

「「「いえす、さー!」」」


 よし。とりあえず今すぐ話し合いをして、伝えておくべきことはこれくらいか。あとは住居の配置やら何やらをまたやり直す必要があるな。こんなに沢山の人数を一気に抱えるつもりはなかったからな……やれやれ、やることが多い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る