#033 「レバーアクションライフル、ですね?」

 今回仕留めた自律型駆逐兵器からはどのような有用なものが鹵獲できるのか? と言われると全部有用だとしか言えないのだが、特に有用なのは武装周りのパーツだ。

 例えばエネルギーキャパシターは俺が使っているような対人レーザー兵器のものよりはデカくて嵩張る割に性能がそこまで違わないものなのだが、数世代前のものだからそれは仕方がない。だが、だからといって役に立たないわけではない。

 大容量のエネルギーを貯蓄し、任意に放出することのできるエネルギーキャパシターというものは電磁投射兵器やレーザー兵器のような所謂ハイテク兵器のコアパーツとも言える代物だ。無論、武器以外にも使い道は色々ある。例えば、作業場で使っている弾薬製造機。ああいった機械のコアパーツとしてもエネルギーキャパシターは使用されているのだ。


「ということだ、わかったか?」

「なんだか凄いものなんだということはわかりましたけど……」

「まぁ、そうだよな……」


 馬鹿にするわけではないが、俺とエリーカ達とではテクノロジーに対する理解度が違い過ぎるからな。エネルギーキャパシターの有用性を理解できないのは仕方がない。


「これで何を作るの?」


 ミューゼンがセンティピード型から取り出した子供の頭くらいの大きさがあるエネルギーキャパシターを指先と触手でツンツンと突きながら聞いてくる。


「何を作るか、か……うーむ。何かしらの武器を作るのに使っても良いし、何か新しく生活に役立ちそうな装置を作っても良いが」


 差し当たって今のところ作っておいた方が良い装置というのも思いつかない。特に、エネルギーキャパシターを利用するような高度なテクノロジーを使うようなものは。センティピード型の大型コイルガンは全て無事だし、三連装コイルガンタレットとかでっち上げても良いかもしれんな。シールド技術を持っていないこの星の賊相手ならさぞかし役に立つことだろう。


「現状だとぉ、戦闘となればグレンさんが全部一人で片付けてしまいますからねぇ……武器もグレンさんが持ち込んだレーザー兵器の方が強力なんですよねぇ?」

「そうだな」


 タレットにするならともかく、敢えて携行型のコイルガンをでっち上げる必要は無いと言えば無い。まぁ、ここいらで出回っている武器よりも強力で、だが上から持ってきた武器ほどではない。現地で手に入れたモノだけででっち上げたハイテク武器というのは『見せ武器』としては有用かもしれん。


「今少し考えたんだが……」


 と前置きして『見せ武器』として携行型のコイルガンを作る考えを話してみる。


「そうですねぇ……レーザータレットがある時点で正直あまり効果は無いような気もしますけどぉ、人目を気にせず普段使いできるハイテク武器というのは悪くないかもしれませんねぇ」

「そうだな。レーザータレットは普段は隠蔽して、普段はコイルガンタレットをメインで使うというのもアリかもしれん」


 正直、レーザータレットはこの星の賊相手にはオーバーパワー気味なんだよな。少なくとも、現時点で観測した範囲ではだが。俺が当初想定していた以上にこの星の技術レベルが低いということは認めざるを得ない。俺にだって学習能力はある。認識違いは認めるさ。


「それじゃあセンティピード型の大型コイルガンとソルジャー型のコイルガンを使って武器とタレットをでっち上げてみよう。幸い、素材は沢山手に入ったからな」

「それじゃあ私とエリーカさんはサムさん達に対処しておきますのでぇ、こちらはお任せしますねぇ」

「了解した」

「手伝う」


 ミューゼンが両手を触手を上げて意気揚々とそう言ってくれたが、まずは設計図をでっち上げるところからだから、出番は無いんだ。すまんな。


 ☆★☆


 子供の頭ほどの大きさがあるエネルギーキャパシターを武器そのものに組み込むことは諦めた。どう考えても携行武器としてはデカくなり過ぎて取り回しが悪いし、重すぎる。俺なら扱えるが、俺以外の人間が扱うのは難しいだろう。


「というわけで、完成したのがこれだ」


 数日後、俺は完成した銃のお披露目をするためにエリーカ達を射撃訓練場に集めた。

 え? サムとジェシーのキャラバン? 資材――じゃなかった、自律駆逐兵器の襲撃があった次の日にうちで作った塩を沢山持って出発していったよ。それよりも新しい銃だ。


「レバーアクションライフル、ですね?」

「そうだな。参考にした」


 エリーカが俺が作り上げた銃を手に取り、ためつすがめつ眺める。レバーアクションライフルというのはこの星で現役の実弾銃の一種で、レバーのようになっているライフルのトリガーガードを操作することで排莢と次弾装填を行う形式の銃のことである。

 この銃の場合は排莢の必要がないので、チャンバーに次弾を送り込むための動作になるが。


「実際に撃ってみせよう」


 そう言って俺は銃の横に置いてあった拳大の大きさのエネルギーキャパシターケースを腰の後ろに装着し、ケースから伸ばしたコードをエリーカから受け取った銃と接続する。


「銃自体にエネルギーキャパシターを搭載するのは諦めた。こうして別途携行して接続する方式にすることで、暴発を防ぐ一種のセーフティとすることにしたんだ」

「なるほどぉ」


 ライラが興味深そうに机の上に置いてあるエネルギーキャパシターケースに視線を注いでいる。


「これが弾?」

「そうだ。高密度金属を磁性体のジャケットで覆ったものだな。見た目より重いだろ?」

「うん」

「これがバレルの下のチューブに三五発入るようになっている」

「なかなかの装弾数ですねぇ」

「リロードは少々面倒だがな」


 一発ずつバレル下のチューブに込めなければならないので、戦場でのリロードは少々手間だ。ここは要改善点だと思う。ドラムマガジンかヘリカルマガジンでリロードできるようにするべきかもしれない。まぁ試作品だから許して欲しい。


「撃つぞ」


 新型銃――コイル・リピーターを構えて発砲する。スパァン! と高密度金属の弾頭が空気を引き裂く音がして、標的と代わりの俺の腕ほどの太さがある丸太が砕け散った。

 カシャコン、と軽い音を立てながらレバーアクションでチャンバーに次弾を装填し、再発砲。先程と同じくスパァン! と小気味の良い音を立てて高密度金属の弾頭が発射され、先程よりも遠くの標的が砕け散る。


「……これ、機械兵士の銃より威力がありませんかぁ?」

「口径は小さいが、センティピード型……機械ムカデのコイルガンに威力は近いぞ。バレルも弾頭も改良してるからな。こいつなら機械ムカデの装甲も抜ける。保証しよう」


 武器としては試作品の域を出ないものではあるが、十分実用に足る性能であるはずだ。


「これ、量産はできないんですよねぇ?」

「これはソルジャー級のエネルギーキャパシターを使っているからな。ちょっと難しいな。あと、外部に売るのは無理だぞ。エネルギーキャパシターにエネルギーを充填する装置やジェネレーターが無いだろうし」


 仮に奪われたり盗まれたりしても、エネルギーキャパシターケース内のエネルギーが切れたら使用不可能になる。図らずも盗難・鹵獲対策ができてしまったな。コイル・リピーターとエネルギーキャパシターケースを別に保管しておけば盗難されても使用もできないし。


「そうですかぁ……新しい商品になるかとおもったんですけどねぇ」

「おいおい、ここは農場だぞ。武器工場じゃないんだからそんなものを商品にするのはおかしいだろう」

「うちの収入源の半分は鹵獲してグレンさんが整備した武器類と、グレンさんが作った弾薬が占めてるんですけどぉ、言ってることとやってることに乖離があると思いませんかぁ?」


 そう言ってにっこりと微笑むライラから俺は顔を背けた。

 俺はできることを最大限にやってるだけだから。俺は悪くない。


 ☆★☆


 コイル・リピーターが完成して数日。今のところは平和な日々が続いている。そろそろ蕪やキャベツ、葉物野菜が収穫できそうだとエリーカが言っていた。確かにそれらの野菜は見た目にも大きくなってきおり、生命力を溢れさせているように思える。

 あ? コイル・リピーターは活躍したのかって? 一回狩りに使ったんだが、獲物の上半身が吹き飛んで大変なことになったよ。それで急遽威力の調節機能をつけることになった。それで今はちゃんと活躍している。


「今日はのんびりですね」

「そうだな」

「ぬくい」


 俺とエリーカ、それとミューゼンの三人は、畑の傍に設置した日除けの屋根の下で農作業用ボットやドローン達が働く姿を眺めながらのんびりとお茶を啜っていた。

 このお茶はエリーカとミューゼンが採取してきた野生のハーブを使ったもので、爽やかな香りと僅かな苦みが心地よさを感じさせる一品だ。採取した野生のハーブは株ごとプランターに植え替えられており、エリーカが大切に育てている。

 どうしてこんなにのんびりしているのかって? それはやることがないからだ。鹵獲した武器類の整備はミューゼンの手伝いもあって全て終わっているし、自律駆逐兵器の残骸は全て資源化した。

 鹵獲したコイルガンやエネルギーキャパシターを使ってコイル・リピーターも二丁作ったし、残りは分解してコイルガンタレットとして防壁への配備も終わった。

 防壁も完成した今、次に作るべきは対空兵器かシールドかといったところなのだが、それらの設備の建設に着工しようにも、防壁の建設のために大量の資材を使ったので資材の備蓄が乏しい。今は作業用ドローンを素材の採取に回して資源の採取に努めているところだ。


「ライラさんは働き者ですよね」

「ワーカホリックか何かなんじゃないか」


 ライラは一人でやれ備蓄のチェックだ商品の棚卸しだ収穫予定作物の試算だと楽しそうに働いていた。やはりドMの類なのかもしれん。


「グレンもそうだと思ってた」

「俺はこういうのんびりとした生活を楽しむためにこの星に来たんだよ」


 やることがあるなら片付けるが。そうでないならのんびりする。のんびりするために傭兵稼業から足を洗ったのに、暇になったらなったで落ち着かないとか本末転倒じゃないか。

 と、ミューゼンに語っていると、通信機に着信の通知が入ってきた。うちの通信機の周波数を知っているのは今のところコルディア教会くらいの筈なので、ミューゼンの処遇が決まったのか? などと考えつつ通信回線を開いた。


『こちらグレン農場』

『グレン農場!? 確かうちから東に何日か行ったところに新しくできたところだな!? こちらはレイクサイド! 敵対コミュニティから襲撃を受けているんだ! 頼む! 救援を寄越してくれ!』


 なんでだよ。

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