#016 「俺に良い考えがある」
エリーカにサブマシンガンと、ついでにライフルの分解整備方法を教え、射撃訓練なども厳しく……まぁ、概ね厳しく教えたりして数日を過ごした。無論、それだけにかまけていたわけではなく、俺は娯楽室を作ったり、宿舎を新しく作ったり、訪問者用の宿泊施設を作ったり、キャラバン用のキャンプスポットを作ったりと色々と忙しくしていた。
エリーカも農場の周辺で採取をしたり、採取してきたものを使ってジャムやその他の食べ物を作ったりと日々の生活を送っている。
夜? まぁ一緒に寝てはいるが、エリーカの体調次第だな。彼女の心身に刻まれた傷痕は深く、大きい。こういうのは根気強く付き合っていくのが大事だ。
「グレンさん」
いつも通り作業室で戦利品の銃器をレストアしながらボットやドローンに指示を出していたところに何やら思い詰めた表情のエリーカが現れ、俺の名前を呼んだ。
「どうした、エリーカ。隨分と思い詰めた表情に見えるぞ」
「その……グレンさんにお願いがあるんです」
そう言ってエリーカが俺の顔を見つめてくる。目も鼻も、一見口も無いように見える俺の顔をじっと。
「コルディア教会に、私の無事を伝えたいんです」
「なるほど」
エリーカの真剣な表情を眺めつつ、現実的なプランを考える。
プラン一、連絡のつく場所に直接出向いて伝える。取れる手段は二つだ。一つは徒歩でえっちらおっちらと歩いていくこと。その間は拠点を空けることになる。まぁ論外だな。
もう一つはシャトルを使って飛んでいくこと。拠点を空ける期間は少なくて済むだろうが、まぁ目立つよな。もし対空兵器や気圏戦闘機などの航空戦力を抱えている勢力に目をつけられると面倒なことになる。これもまぁ無いな。
プラン二、コルディア教会に連絡をつけられるキャラバンに依頼する。
現実的なプランだな。問題は、キャラバンがいつ来るかは運次第だし、コルディア教会に連絡がつくのがいつになるのかはわからないということだ。
プラン三、もう少しハイテクに行く。
いくらこの惑星の技術レベルが未開惑星並みに落ちているとはいっても、無線通信くらいは使っているだろう。通信機を作って無線通信で連絡をつける。うん、これが良いんじゃないか。ついでに軌道上にいる商船との通信もできるとなお良い。惑星上で手に入れるのが困難な物資や装備もやり取りできるようになる。
「俺に良い考えがある」
☆★☆
作業用ボットとドローン達が金属元素を使って高いアンテナを作っていく。地上で遠くまで電波を届かせるのも、またより遠くからの電波を拾うためにもアンテナは高ければ高いほど良い。軌道上を行き来する交易船と通信するにはそれだけでは足りないが、そこはテクノロジーでカバーする。
当然ながらいずれ軌道上の交易船と通信をすることは想定していたので、高出力の通信波を発信できる通信アレイを作るための設計図もパーツも事前に用意してあったのだ。
「な、なんだか隨分と大掛かりなものが出来上がりつつあるみたいですが……」
「なに、元からこのアンテナは作るつもりではあったんだ。作物が実って軌道上のトレーダーと取引をするための材料を整えてからな。まぁ、少し早いが問題はない」
横で若干慄いているエリーカを安心させるようにのんびりとそう言いながら、ボットとドローンの作業を見守る。
そうしていると、農場に警報が鳴り響いた。タイミングが悪いな。
「グレンさん」
「ああ、ライフルを取ってこい。宿舎の屋上で待機だ」
「はい」
俺の指示を聞いたエリーカがライフルを取りに走り出す。宿舎の屋上に身を隠しながら狙撃できるように遮蔽物となるバリケードなどを配置しておいたのだ。
「さて、お相手は……ん?」
偵察ドローンが捕捉したのは妙な連中だった。キャラバンにしては荷物が少ないが、品質の良さそうな銃を携えた護衛が多い。というか、あれは実弾銃か? 光学兵器では無さそうだが、実弾銃よりは高度な武器に見えるな。
そして、護衛されているのは三人の女達だ。その衣装はどこかで見た覚えがあるもので……ふむ? どこで見たんだったかな?
「エリーカ」
「はいっ!?」
丁度ライフルを取ってきたエリーカに声を掛けると、彼女はライフルを抱えたままたたらを踏んで立ち止まった。いや、すまん。でもまだ距離があるからそこまで慌てなくても大丈夫だぞ。
「ちょっと食堂のホロディスプレイを見に行ってくれ。なんだか見覚えのある格好のように思えるんだが、思い出せないんだ」
「えぇ……? わ、わかりました」
俺が差し出した手にライフルを預け、再びエリーカが走っていく。そのライフルを手の中で弄びながら、食堂のホロディスプレイに偵察ドローンからの映像を中継する。うーん、なんだったか。見た覚えがある気がするんだが。
「ぐ、グレンさんっ!」
再びエリーカが走ってきた。全力ダッシュだ。何故か戻ってきたなぁ……ホロディスプレイには音声を繋げるようにしてあるから、その場で話してくれて良かったんだが。相当慌てているな、エリーカは。
「だ、ダメッ! 攻撃しちゃ駄目です!」
「わかった、わかったから落ち着け。無警告で撃ったりはしない。向こうが最初からやる気で来てれば話は別だが」
「や、やる気に見えても駄目! 駄目ですよっ!? 絶対に撃たないで下さいね!?」
「オーライ、オーライ。わかった。撃たない。撃たないよ」
「パンチとかチョップとかキックも駄目ですよ!?」
エリーカの中で俺はどれだけ暴れん坊なんだ。必要とあらば撃ちもするし殴ったり蹴ったりもするが、無分別に暴れたりはせんぞ。
「で、アレはなんなんだ?」
「あの一行はコルディア教会の実行部隊です!」
実行部隊。実行部隊ねぇ? 何を実行する部隊なんだか。怖いねぇ。
それと思い出したぞ。あの護衛されている三人の服装。あれは出会った時にエリーカが着ていたのと同じ服だ。エリーカの服はあまりに酷い状態だったから廃棄したが、それでもあの女達の服の面影みたいなものがあった。
「じゃあ、お迎えするか。丁重に」
「そ、そうしてください! お願いしますね、本当に!」
そこまでやるなやるなと言われると逆にやりたくなってきてしまうんだが……まぁ、エリーカの古巣の人間をおふざけで撃つわけにもいかんな。とりあえずドローンを向かわせるか。
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