#015 「俺は厳しいぞ」
作業場は倉庫の隣に建設した。かなり余裕を持って大きめに作ってあるのは、後々大型の製造機械――デュプリケーターと呼ばれる物体複製機など――を置くことを想定しているためだ。
今はまだごく基本的な作業台しか置いていないが、それでもこの惑星上で主に使用されている実弾銃の整備や、弾薬の製造などに関しては問題なく行える程度の性能はある。
また、今日最前線で使用されている対人光学兵器やプラズマ兵器、電磁投射兵器などのハイテク、あるいはウルトラテック武器に比べれば実弾銃という武器は基本的に構造が単純で、素材も精々通常元素をかけ合わせた合金か、ポリマー程度。
構成器で収集した資源とデータアーカイブから取り出した設計図を利用すれば、鹵獲したガタガタの実弾銃をピカピカで工作精度も完璧なほぼ新品に生まれ変わらせることも十分に可能だ。
「それにしたって限界があるというか……よくもまぁこんな銃を使っているな」
俺はぼやきながら賊どもから鹵獲した銃を分解し、清掃し、パーツやピンの一つ一つを磨き上げ、モノによってはパーツを新造し、酷使され、放置され、悲鳴を上げている奴らの銃器を一つ一つ生まれ変わらせていた。
ガタガタになって分解しそうになっている部分に紐や針金を巻いているなんてのはまだ可愛いもので、何を考えたのか溶接しているものまでありやがる。銃身すらロクに清掃されておらず、内部はよくわからんベタベタのオイルと錆だらけとか舐めているのかと。銃がこんな状態ではいざという時にちゃんと弾が出るかどうかも怪しいし、下手すりゃ暴発しかねんぞ。
「グレンさんって手先が器用ですよね」
ぼやきながら銃の整備をする俺の横で、椅子に座ったエリーカが俺の手元を眺めている。
何が楽しいのかわからないが、俺が銃の整備のために作業室に籠るようになると、エリーカはこうして俺が銃を整備する様をのんびりと眺めるようになった。無論、ずっとこうして眺めているわけではなく、ポチを連れて採取に行ったり、見つけてきた果物や山菜でジャムや菓子、保存食や料理などを作っていることも多いのだが。
「銃の整備はそれこそ物心ついた時から叩き込まれてきたからな。こういったことを疎かにする奴は戦場では生き残れない」
いざという時に銃が動作不良を起こして攻撃ができずに死ぬ奴もいれば、行軍している時に暴発して足を吹っ飛ばすような奴もいる。戦場では最善を尽くしても死ぬ時は死ぬが、最善を尽くさない奴から先に死神の手に捕まえられていくものだ。
「厳しいところだったんですね」
「そうだな。そんなところで過ごすのが嫌になって、今はこうしている」
そう言ってエリーカに顔を向けると、エリーカは俺に微笑み返してくれた。こんな真っ黒の、のっぺりとした顔しかない俺にも彼女は笑いかけてくれる。そんな彼女と出会えただけでも戦場を去った意味はあったのだろうと思う。
「ライラさんやスピカさん達は今度いつ来るんでしょうね」
「さてな……西の湖畔にある村に向かうとか言っていたが、その後どこに向かうのかまでは聞いていなかったからな」
「また来てくれるでしょうか?」
「連中が生きて商売を続けているなら、いつかまた顔を合わせることもあるだろうさ」
俺としてはエリーカがあいつらに何か素っ頓狂なことを言い出したりしないか不安なんだがな。
どうするかね? 突然「ライラさんとスピカさんもグレンさんのお嫁さんになりませんか? あ、ご姉妹の方々も一緒にどうぞ!」とか言い始めたら。流石にそれは無いか? 無いよな? 無いと良いな。
少し寂しげな表情をしてるエリーカを横目に、清掃し、修復したパーツを組み合わせて銃を元の形に組み上げる。
「わぁ、随分綺麗になりましたね」
「そうだな、壊れかけから良品くらいにはなったんじゃないか」
これ以上の品質に上げるとなると、修復というより作り直しになるからな。とはいっても、これでも摩耗した部品を交換したり、あまりにどうしようもない部品を作り直したりしているから、三割とまでは言わないが二割五分くらいは作り直しているようなものだが。
「私が持つのもこういう銃の方が良いんじゃないでしょうか?」
そう言ってエリーカが首を傾げる。
エリーカに持たせているライフルはボルトアクション式のカービンライフルで、信頼性が高く、威力と射程に優れている。反面、装弾数は五発と少なく、ボルトアクション式のライフルなので速射性に欠ける。また、近距離における取り回しもあまり良くない。
対して俺が今修復したサブマシンガンもまた信頼性の高い構造と機構の逸品だ。見た目は銃器というよりも工具のように見えたりするのだが、大口径で威力のある弾丸をばらまくことができる。
装弾数は三〇発と多くも少なくもない。しかし銃身が短く、銃本体の重量が少ないこともあって反動の制御は割と困難で、射程や精度に関してはあまり期待はできない。まさに近距離でばら撒く武器だな。
「不意打ちを受けた時なんかはこっちの銃の方が火力や取り回しの点で有利だが、周囲に張り巡らせてあるセンサー網と偵察ドローン網のことを考えると、エリーカが近距離での不意打ちを受けることはあまり考えられん。俺はライフルを装備しておいたほうが良いと思うが……だが、採取で境界線近くまで出ていた場合は確かにそういうことも有り得るか。ふむ」
それに、エリーカが自分で考えて欲しいと思ったものだし、エリーカの考えも確かに間違いとは言えない。普段はこちらのサブマシンガンを持ち歩き、拠点近くで警報を受けた場合にはライフルを装備するという形の方が合理的か。
「そうだな、この銃で良ければエリーカが使うと良い」
「はい!」
エリーカが嬉しそうに頷く。より良い銃が手に入ったら乗り換えることも検討しつつ、とりあえずはこの銃をエリーカに持たせてみるとしよう。本当はレーザーガンでも持たせてやるのが良いんだが、レーザーガンは万が一誰かに奪われると少々危険だからな……タレットや戦闘ボットが装備しているものはともかく、携行型の対人光学兵器の存在は可能な限り秘匿したい。
尤も、レーザータレットや光学兵器を装備している戦闘ボットを見て、俺が対人光学兵器を所有していることはバレバレだとは思うが。だが、
強力な武器を持っている相手には対策を講じれば良いが、持っているか持っていないかわからないという相手だと、対策を講じるべきかどうかという迷いが発生するし、
「そうと決まれば整備の仕方を教える。その後には射撃訓練だ」
「はい!」
「俺は厳しいぞ」
「は、はい」
若干勢いの無くなったエリーカを可愛らしく思いながら、俺は席を立って今まで座っていた席にエリーカを座らせた。最低限、簡単な分解整備くらいは叩き込んでやらんとな。
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