第五章 開かずの間




開かずの間。または、開けずの間とも言うそうだ。


何か特別な事がない限り、使用を禁止されている部屋の事である。


旅館やホテルでも、そういう部屋があるとかないとか。


ほとんど、その部屋で、事故、事件、または自殺があったなど。

幽霊が頻繁に出るからなど、理由は、いろいろあるだろう。


何故、その部屋が開かずの間になったのか?


理由を知りたい。

気になる。

そういう思いが人間の心理。


つまりは、禁断を犯すという事なのだ。


そう……全ては、その好奇心から生まれる。

知った後に、後悔しても遅いのである。


とある家に、地下室があった。

その地下室には、入ってはいけないと、いつも言われていたが、オカルト好きな、ある少年がその地下室に入ってしまった。


この好奇心旺盛な少年の運命は……?そんな、お話。




僕は、中学2年のオカルト好きな少年、フミヤ。

僕の父は、いろんな研究をしている偉い人。

僕は、父を尊敬している。

そんな父だが、家の地下にある部屋に閉じこもっては、何か新しい研究をしているらしい。

父は、危険だから、その地下室には、絶対に入ってはいけないと言うんだ。


でも、気になるじゃん。


父がどんな研究をしているのか気になった僕は、父が地下室の鍵を隠しているのをこっそり見た。


父の書斎にある額縁の裏。

そこに、地下室の鍵がある。


この額縁に描かれてあるのは、僕の母。

父が描いたものだ。

母は、僕が幼い頃に病気で死んでしまった。

僕は、ほとんど母の事は知らないが、父から、とても優しくて、美しい人だったと聞いた。

いつも、母の話をする父は、母の事をとても愛していたんだなと思う。


まっ、そんな事は、どうでもいいんだ。


今日は、学会の為、朝から父は、外出していた。

今がチャンス!!


僕は、父の書斎に行くと、額縁に手を伸ばし、地下室の鍵を取った。


地下室へと続く階段を下り、鉄の扉の前に立つ。


なんだか、ワクワクしてきた!


カチャリと音がして、地下室の鍵が開いた。

ギィ……ギギギィーと、不気味な音を立て、鉄の扉が開く。

地下室は、二重扉になっていて、もう一つ扉があった。

その扉のノブに手を伸ばした僕は、何か異様な雰囲気に、手を止めた。


中から、人のような、獣のような声が聞こえる。


ゴクリと、唾を飲み、僕は、扉を開けた。


中は、薄暗く、僕は、電気のスイッチを手探りで探し、明かりをつけた。


明るくなった部屋の中、手足のない裸の女がテーブルの上にいた。

女の首には、鎖が付いていて、太い柱に繋がれていた。


女には、歯がないのか、何かを呟いているが何を言っているなか分からない。


恐る恐る近付いた僕を虚ろな目で見ると、女は、白目に近い目から、涙を流す。


この女は、誰なんだ?

何故、ここに、こんな姿でいるんだ?

父は、なんの研究をしているんだ?


いろんな疑問が僕の頭の中に浮かぶ。


「に……にげ……て……。」


そう女が呟いたように聞こえた。

その時、バタンと地下室の扉が閉まる音がして、僕は驚き、振り返った。


いつの間にか、父が帰ってきていて、震える瞳で見つめる僕を悲しく見ていた。


「フミヤ……。何故、父さんの言う事を聞かなかったんだ。ここには、入るなと言ったじゃないか。」


静かに呟きながら、父は、ゆっくりと僕に近付く。


「父さん!これは、どういう事?!この人は、誰なの!?」


少しずつ父から離れながら問う僕に、父は言う。


「それは、お前の母さんだよ。」


「えっ!?」

驚いて、僕は、もう一度、女を見た。

やつれて、少し見た目が変わっているが、確かに、その女は、母だった。

「母さんは、病気で死んだんじゃなかったの?!」

僕の言葉に、父は、フッと口元に笑みを浮かべた。

「母さんはね……。父さんやフミヤを裏切ったんだよ。あんな男と……!悪い母さんだ。二度と、私から逃げないように、ここに閉じ込めているんだ。」

フフフと低く笑う父は、まともではなかった。


僕は、慌てて地下室から出ようと、扉へ向かった。

でも、扉は開かない。

「フミヤ。人はね、知ってはいけない事があるんだよ。知らない方が幸せな事がね。お前も、父さんから逃げるつもりだろ?……逃がさないよ、フミヤ。」


「父さん!!やめてー!!」





あれから、どのくらい経ったのだろう?

今、僕は、母さんと一緒に地下室にいる。


母さんと同じ姿で……。



好奇心って、良くないね。今更だけど。

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