第四章 牛の首




都市伝説とも言える話に、こんな話があります。

牛の首。


昔、昔のお話です。

ある村に、とても金持ちの長がおりましてな。

お金は、腐るほどあって生活には困らなかったもの、長には、一人息子がいましてな。


その一人息子が生まれつき、精神に異常がありまして、時々、奇行が目立つので、長は、息子を隠すように育てておった。


ある日、村の牛が殺されてな。

奇妙な事に、首を切断されててな。

いくら探しても、その首は、見つからなかったそうじゃ。


そのうち、村の若い娘が行方をくらますという事件が起こりましてな。

村人達は、夜回りをして警戒しておった。


それは、月が雲に見え隠れする、満月の夜じゃった。

いつものように、村人達が夜回りをしていると、村の丘の上にある小さな地蔵と祠の前で、奇妙な姿をしたものを見つけた。


それは、薄暗闇に、人間のように、手足はあって、二本の足で歩いているのに、頭が妙だった。


とても人間とは思えぬほど、その頭は大きく、そして、角が生えておった。


「鬼じゃ!!」


誰もがそう思った、その時、雲に隠れていた月が顔を出し、そのものを照らし出した。

それは、牛の頭を被った全裸の人間じゃった。


全身、何かで、テカテカと光らせた、その身体は、男だった。


牛の頭を被った男は、ある洞穴にくると、中へ入っていった。


男の後を追って、洞穴に入った村人達は、そこにある沢山の人骨に、驚く。


洞窟の奥で、牛の頭を外し、人肉を貪り食っていたのは、長の息子じゃった。


そこに転がる沢山の人骨は、今まで、行方不明になっていた娘達で、身体がテカテカと光っていたのは、血を浴びていたからじゃった。


村人達は、考えた。

いくら、人殺しとはいえ、長の息子。

人を殺したものには、同じく死を……。

それが掟じゃが、頭が狂っているとはいえ、相手は、人。

殺す事など出来ぬ。


では、どうしたのか?


村人達は、逃げ回る長の息子に、牛の頭を被せ、その息子を殴り殺した。


ーわしらは、人を殺したんじゃねぇ。牛を殺しただ……!!ー


と。





じい様の話を聞いていた七歳になる保三(やすぞう)は、恐ろしさに、ブルッと身体を震わせた。


「それって……本当の話か?」

眉を寄せ、そう言った保三に、じい様は、にっこりと笑って言った。

「本当じゃとも。昔、この村で起こった事じゃ。じゃがのう、保三……。この話を誰にも話してはなんねぇぞ。もし話したら、牛の首を被った男が殺しに来るからな〜。」

じい様の言葉に、保三は、ケラケラと声を上げ笑った。


「やっぱり、じい様、嘘でねぇか。死んだ奴が、どうやって、殺しにくるだ?」

話を信じない保三を見て、じい様は、言った。

「実は、男は死んでおらなんだ。死んだフリをして、生きていたんじゃ。頭に大怪我をしたがな。」

「本当かー!」

驚いて声を上げた保三に、じい様は、にっこりと笑う。



「ああ、本当だ。……ほれ、これがそん時の怪我の後じゃ。」

そう言って、じい様は、後頭部に残った傷を見せた。


パックリと割れたと思われる傷口がグシュグシュと動いたように見えた。

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