第二章 パンドラの箱




続きましては、パンドラの箱という話である。


パンドラの箱とは、箱というよりも、それに触れると、様々な災いをもたらすという意味である。


昔話に、浦島太郎の話がある。

昔、昔、浦島は〜助けた亀に連れられて〜……そう、その浦島太郎の話。

話の内容は、みなさまも御存知だと思われるので、省かせて頂く。

この浦島太郎……助けた亀に連れられて、さて、何処へ行ったかと申しますと、竜宮城でございます。

竜宮城には、美しい娘がおり、歌や踊り、豪華な食事で、浦島太郎をもてなします。

そして、美しい乙姫様の登場。

別れ際に、乙姫様は、浦島太郎に箱を渡します。

「この箱は、決して開けてはなりませぬ。」

そう……決して、開けてはいけない。

乙姫様は、浦島太郎に、そう言ったのです。


箱をもらい、陸へ戻った浦島太郎。

なんと、浦島太郎が竜宮城へ行ってる僅かな時間に、何年、何十年もの月日が経ち、母親も死んでいた。

箱を持ったまま、海をぼんやり眺めていた浦島太郎は、フッと箱に目をやる。


ー決して、開けてはなりませぬ。ー


そんな乙姫様の言いつけも守らず、浦島太郎は、箱を開け、中から出てきた白い煙で、白髪の老人へと姿を変える。

ザッと、こんな話である。


その浦島太郎の玉手箱と同じように、『開けてはいけない箱』それがパンドラの箱である。


そんな箱の話。




「いいか、タダシ。この箱は、何があっても開けてはいかんぞ。」

金持ちの息子のタダシは、一つの箱を見せられ、父親に、そう言われた。

「父さん。中には、何が入っているの?」

タダシが聞くと、父親は、深刻な面持ちで、こう言った。

「世の中の様々な災いの元が入っている。」

「ふ〜ん……。」

まだ小学生のタダシには、そんな事は分からない。

しばらくは、父親の言いつけ通り、箱を開けずにいた。


さて、開けてはいけないと言われると、中身が気になって、開けたくなるのが人間の心理。


父親が用事で一日、家を空ける日があった。

リビングで、ソファーに腰掛け、テレビを見ていたタダシは、サイドボードの上に置かれた例の箱に、目がいった。


『父さんは、開けてはいけないと言ったけれど……。』

箱に呼ばれたように、サイドボードに近付いたタダシは、そっと、箱を手に取った。


『様々な災いって、何だろう?』

タダシは、箱の中が気になって気になって、仕方ない。

父親は、夕方まで帰って来ない。

この箱を開けるなら、今のうち。

なーに、中を確かめたら、また蓋をして、箱を元に戻しとけばいいんだ。


などと、簡単に、そんな事を考えてたタダシは、とうとう、箱の蓋を開けてしまう。

箱の中には、白い粉が小さなビニール袋に、いくつも入れられていた。


「なんだ……つまんない。」

タダシは、呟き、ビニール袋の一つを手に取った。

「何だろ?これ?」

袋を開け、手のひらに粉を出すと、タダシは、ペロリと舐める。

「砂糖かと思ったけれど、なんにも味がしないや。」

もう一回……そして、もう一回。

タダシは、粉を舐め続けた。




「なんで、あの箱を金庫になおしておかなかったんだ!!」

用事を終え、帰宅した父親が部下を怒鳴る声が響く。


怒鳴りながら、リビングのドアを開けた父親は、リビングのカーペットの上で、白目を剥いて、口から泡を吹いて、息絶えているタダシを発見する。

「あれほど、開けてはいけないと言ったのに……!タダシ……!!」


その後、父親は、警察に捕まり、箱の中身は、箱ごと、警察に没収された。


ある意味、様々な災いをもたらす箱であった。

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