第6話
隣あってテレビゲームをしながら聖奈はタイミングを伺っていた。
深刻な雰囲気を出してはいけない。空気が重くなる。あくまでもさりげなく。
「ちょっと気になったんだけど。もし平次はアタシより顔がよくって性格もよくて完璧な男装女子がいたらその人のことを好きになったりする?」
「ありえないね」
一蹴された。
「なんで?」
「僕は男装した君が最高の恋愛対象と思っているし、これまでのデートで確信に変わった。君以外の運命の人はありえないと。仮にその完璧な男装の子が現れたとしても、彼女は絶対に君に勝てない」
「どうして?」
「十年。
幼馴染として親友として過ごした時間の積み重ねと信頼が君にはあるからね。
それに君は僕に本気で惚れてほしいと努力していると思う。
それが美しいんだよ。もちろん男装時の君の魅力は言葉で表現できないほどだけど」
「平次……」
平次の言葉ひとつひとつが聖奈の胸に沁みこんでいく。
彼は男装すれば誰もいいわけではない。
明確にアタシだけを愛し、素のアタシの努力や頑張りも察した上で惚れている。
それが聖奈にとってどれほどの喜びを与えたか。
可能ならばハグとキスをしたい衝動に駆られたが間違いなく平次が戸惑うので辛うじて堪え、決定的な質問に入る。
「もしさ。アタシが男装を辞めたら、平次は付き合ってくれる?」
一瞬の静寂の後。平次はゲームをセーブして聖奈に向き合って言った。
「それは、親友として? それとも恋愛対象として?」
「恋愛対象」
「無理。大変申し訳ないが、僕は自分に嘘はつけない」
「そっか……」
俯き、自然と涙が流れる。泣き顔は見られたくない。
平次はいつだって正直な男だ。真っすぐで不器用だ。飄々としているように見えるけど、自分の意志は決して曲げない。どこまでも誠実な男なのだ。
普通だったら何か言葉を濁し傷つけない表現をするだろう。だが、彼はできない。
しないしできないのだ。だからストレートに自分の想いを口にする。
そういうところがアタシは好きなんだ。だから、この人のことを愛しているんだ。
素の聖奈としては完全敗北。けれど男装の聖奈としては完勝だ。
彼はこれからも一途に自分だけを愛してくれる。その確信が持てたから――
「アタシ、これからも男装を続けたい! だけどアンタとも親友でいたい!」
思いの丈をぶつけた聖奈に平次は穏やかに笑って。
「これからもよろしく。僕の親友で永遠の恋愛対象!」
おしまい
最愛の幼馴染に告白したら男装することになりました。 モンブラン博士 @maronn777
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