第2話
男装デートから数日後の学校の放課後。部活に所属していない聖奈は帰り道を歩いていた。空手は中学で優勝し満足したこともあり高校で続ける意思はなかった。将来を有望視されていたのだが、彼女は普通の高校生活を過ごしたかったのだ。
オレンジ色の夕焼けの眩しさに目を細めていると前方で三人の男子がひとりの男子に因縁をつけているではないか。見たところ中学生同士にも思える。
「俺たちにぶつかっておいてごめんなさいで済むと思ってんのか。あぁ?」
胸倉を掴まえ威圧的な言動をする不良に聖奈は顔をしかめた。中途半端な奴に限って群れを作り数で威圧をし、自分より弱い相手に威張り散らす。元より正義感が強い聖奈は見過ごすことはできない。後先考えることなく駆け出し、声をかける。
「アンタら、みっともないよ!」
「あぁ? なんだテメェは関係ねぇだろ」
不良が睨むが聖奈は動じない。
彼女の身長は一七三センチもあり、彼らよりも背が高い。
不良のリーダー格も心なしか声が小さくなっていく。
「訳を話してみなよ」
「ソイツがぶつかってきたんだよ」
リーダーが指さす先を振り返ると、そこには平次がいた。彼は一六〇センチとそこまで上背があるほうではないのと急いでいたこともあってか中学生と見間違えてしまった。
「聖奈。彼らが先にぶつかってきたんだよ。僕は謝ったけど彼らは金銭を要求してきた」
「カツアゲとか最低……」
不良に軽蔑の視線を向けると血管を浮かび上がらせた不良が殴りかかってきた。
「うるせぇデカ女!」
放たれた拳を軽々と受け止め、笑う。
「か弱い女の子に暴力を振るっちゃモテないよ」
「だ、黙りやがれ~!」
空いている左拳を振るう不良のリーダー格だが、それもキャッチされる。
両の拳を封じられ睨み合いを続ける。
笑顔のままの聖奈に対し不良は怯み冷や汗を流す。
「続けるのかやめるのか決めなよ」
聖奈の手から感じる握力は握り拳が砕けてしまいそうなほどだ。
まともに戦えば勝ち目はない。この女は恐ろしく強い。本能が警戒心を抱かせ、拳を引き抜かせると踵を返した。
「……チッ。やめてやるよ。こんなやつ相手にしてもつまらねぇ」
不良たちが退散したあと、聖奈は平次に向き直り。
「絡まれたのって今回が初めて?」
「初めてじゃない。別のグループに絡まれてお金を要求されたけど断ったよ。中学生に間違われるってのも困りものだよ」
「ねぇ。明日からアタシと一緒に帰らない? その方がおしゃべりもできるし」
「いい案だね。ひとりだと心細いけどふたりなら怖くないし、いざとなれば僕が君を守るよ。まあ、さっきは守られてしまったけど」
「いいって。あんなのノーカン。じゃ、今度アタシが危ない目に遭ったら守ってもらいましょうかね」
「必ず守るよ。僕は君の友達だから」
毅然とした面持ちで言い切る平次に聖奈の頬が緩む。
友達であって恋人ではない。彼の中ではきっちりと線引きができている。
アタシに抱いているのは友情。ずっと一緒の幼馴染で親友。
学校は違ってもたまに会っていた。そしてこれからは帰る時も同じ。
考えごとをしていたからだろうか聖奈は足元の小石に気づかず躓きかける。
「危ないっ!」
平次は咄嗟に聖奈の右腕を掴んで転倒を防いだ。自分より体格で勝る聖奈を踏ん張りを利かせて懸命に支えている。素早く体勢を立て直した聖奈は笑顔を見せて言った。
「約束、守ってもらっちゃった」
「ううん。これぐらい誰でもできるよ」
「アンタが傍にいたからアタシは転ばなかった。だからアンタのおかげ。ありがと」
「どういたしまして」
夕焼けの中をふたり並んで歩く。中ぐらいの影と大きな影。
学校が違うので話す内容も盛りだくさんだ。
これからは楽しい放課後になるだろう。
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