第13話 数奇な運命

視力をなくした月潟は、盲目になりながらも剣の道を捨てていなかった。

山中に籠もると、木々の間に太縄を貼り、そこに又、数本の縄を結わえる。

その先に盗みで手に入れた包丁や、短刀、大刀を強く結ぶとそれらを振り子のように揺らす。

月潟は、大縄に沿ってそこを歩んでいく。

当然、揺らした刃物は、月潟の体の横から刺すように向かってくるのだ。

一瞬たりとも気を抜けず、更に進むことで体制が整えにくい。


「うっ!」


「くゎっ!」


月潟の着ている白い羽織、袴は忽ち朱色に染められていった。


「林に打ち勝つには、秘剣を作り出すしか方法はない。痛みなど物の数ではないわ。」


林への復讐心に喘ぐ月潟の顔は、いつしか、林が見せた鬼面と同様の覇気が現れていた。



「この目は神が与え給うた秘剣への道標。必ず、必ず、秘剣を生み出し、林をこの手で斬り捨ててみせる。」


修練の日は、幾月もの歳月を齎した。


いつしか月潟は懐にしまった筈の、月と刻印された石球を失ってしまった。

石球の行方は何処なのか?

ここに一人の小侍がいた。

だが、懐刀がない。

武士であるのにだ。

この者、きっての博打篩で城に上がった給金を悉く丁半博打に使い込み、挙句の果ては、懐刀まで献上してしまったという訳だ。

当然、城に上がるときには腰物は必要となる。

それを竹光で補っている大馬鹿者だった。

名を宋義そうぎ 蜜衛門みつえもんと言った。


「蜜衛門、お手前の剣は竹光たけみつと聞く。而して、その訳は?」


「何を申される。渋谷殿、我が名刀が竹光などと、戯けを申さぬように。」


「では、蜜衛門殿、その懐刀をこの場で抜いて見せてくれぬか?」


「良かろう!しかとご覧あれ。」


「ふん!」


「おぉぉ!」


蜜衛門が腰から抜いた大刀の剣先はその輝きに神々しい輝きを放っている。


「いや、見事だ。見事な名刀。して名は?」


「義天刀だ。」


「ぎてんとう!」


「おおぉ!」


こうして蜜衛門はこの藩内で名刀の持ち主として地位を得たわけである。

果たして、この名刀がいつ蜜衛門の手に渡ったのか?


時は、月潟が林に打ちのめされた場外での果し合いの頃に遡る。

林が蜜闇の妖力で嵐を吹き起こした時、そこから一里ほどの場所で蜜衛門は小さな石球を畑の畦道で見つけた。

拾い上げてみるとそこには太陽という文字が刻印してあった。

手にすると神々しい輝きを放つ不思議な石。

家宝にしようと長屋へと歩きだすと暗雲が立ち込め、嵐となり、稲光が数限りなくその場所を襲った。


「ま、まずい。何処かへ逃げないと・・・。」


すると、逃げる蜜衛門を追いかけるように稲妻が襲ってくる。

そして、一閃の雷が彼の身体を貫いた。


「あぁぁ!・・・」


黒焦げに倒れた蜜衛門。

屍となったその体から、激しい光が放たれその体がみるみるうちに元の生身の人間へと戻っていった。


蜜衛門が気が付いたのは彼が倒れてから一日経過した頃だった。

その頃、月潟は長屋で目を覚まし、お姪を斬り盲目となった。


「うっ、うぅぅん。・・・はっ!おれは・・・そうか死んでなかったんだ。うん?こ、これは・・・」


蜜衛門のその手にあったもの、それは、神々しく光を放つ一刀の刃だった。

その鞘には月の刻印が印されてあった。





源水一派は、前回下見した春日山城内にすでに忍び込んでいた。


「山の仕掛けは前回と大差がなかったが、ここからはどんな策が張り巡らされているかわからぬぞ。興十、まずは、見張り番を幻術で撹乱して参れ。その間に、他の者は憎き上杉を探す。だが、あ奴の首を取るのは待て。影武者かもしれん。全員が揃ってからじゃ。それから玄魁、お前は皆と離れて行動するのだ。お前が我等の最後の砦となる。」


「さいごのとりで・・・」


この時、玄魁には源水たちが死を持って自分に託すのだと悟った。

その役目が何故自分なのか?

源水師匠で何故無いのか?

その数奇すぎる運命を玄魁に知ることは叶わぬことでもある。


それでも、一派が死を持って上杉を倒すのならば、己も死を覚悟でこの戦いに勝つ、そう決心を固めた。



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信濃之国 138億年から来た人間 @onmyoudou

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