第11話 冥王星

「若君様、この石星を肌身放さず、誰にもお見せにならぬようにお持ちくださりませ。」


「母君、これは何です?」


「これは信玄様から頂いた勇士の証。」


「何ですって!憎き武田からの物ですと?何故それを母君が?そして私にお渡しになるのは何故です?」


「それは若君様が信玄様の血を引くからです。」


「こ、この私が信玄の血を引くと・・・!?」


上杉謙信の家臣、彦江 将吾ひこみ しょうごの忘れ形見、彦江 六三郎ろくさぶろうはこの年12歳で主となった。

将吾の正室である羽立うたつは戦乱の中、武田信玄に手籠めにされ子を宿した。

後に上杉家に奉孝に上がり謙信の目に止まる。

謙信は自らの家臣、彦江将吾に妻をめとるよう勧め、羽立を紹介した。

将吾は、一瞬で恋に落ち正室に迎えた。

そして羽立は一人の男の子を産む。

だが、生まれた子が自分の子ではないことを将吾は知っていた。

謙信の子である、親方様の生まれ変わりであると思い込む事で諦め、六三郎を大切に育てていた。

それが敵方、武田信玄の子であることも知らずに…


「母様、この文字は何と読むのです?」


です。」


「どういう星なのですか?」


「地獄の王、詰まり閻魔様を象徴した星です。」


六三郎は、剣の道に優れた子供だった。

ある時、彦江藩内で子供達が次々とさらわれる事件が起こった。

六三郎も多分に漏れず人攫いに山の奥へと連れ去られ、あばら家の中に十数人の子供達と共に監禁された。

ほとんどの子供達が怯え泣き叫ぶ中、六三郎は、周囲を隈無く一瞥し、武器となる心張り棒を隠し持った。


「こら!うるせぇぞ!静かにしろ!ぶっ殺すぞ!」


子供をさらったのは、野党一派で、獄門党だ。獄門党は彦江藩の元家臣、若木 堂龍わかき どうりゅうが藩を追われ山に逃げ籠った時に、一緒に付いてきた侍達の成れの果てだ。


「お前らの、お父ちゃんお母ちゃんにお金を貰えばあの世へ行って仏様と暮らすことになるんだ。もう直、楽になるからおとなしくしてろ!」


六三郎はじっと機会を伺っていた。

父に教わった剣の道に恥じぬために・・・。


「おい!そろそろ行くぞ!」


「はいはい、そう急ぐなよ。」


盗賊が、父、母からの金を受け取りに行くところだった。

盗賊は不用意にゆっくり引き戸に向かい、隙だらけだった。


「えぇぇぇーい!」


六三郎が冗談から棒を思いっきり相手の頭に振り下ろしすと、血しぶきが上がり盗賊はその場にゆっくり倒れ、動かなくなった。

その際、盗賊は、六三郎の履いた袴の裾を固く握った。

六三郎は身動きが取れず、半べそを書いたが他の子供達の協力で、難を逃れた。

六三郎の勇気で、他の武家の子供達も奮い立った。


「六三郎、彼奴は俺に任せろ!」


「松ちゃん、彼奴って一番体のでかいやつだよ。大丈夫ののかい?」


「ふん、遠ちゃんに習った北辰一刀流でコテンパンにしてやるよ。」


「松ちゃん・・・」


子どもたちの勢いは止まらない。

10人いる遠族たちを次々に武士道で倒していく。


「えぇ~い!」


「やぁー!」


「あぁぁぁぁ!」


「助けてくれぇー!」


そして最後の盗賊の頭領を残し、子どもたち全員が、その周りを取り囲んだ。


「クソガキ共!ただじゃ済まさねぇぞ!俺様に叶うとでも思っているのか。」


頭領の言葉は、真実味を帯びていた。真剣を取り出したのだ。而も構える姿は恐怖差へ覚えるほどの妖気を放っていた。


「見せてやる、妖刀、界雷剣かいらいけんの力を!」


その妖刀が頭領の手からなにかの力で、宙を舞い、子どもたちを次々に斬っていった。


「た、助けてぇー!」


「うっ!」


バタバタと子どもたちの死骸が広がっていくのを六三郎はただ、立ちすくんで見ているしかなかった。


「小僧、オメェが最後の一人だ。覚悟しろ!」


六三郎は死を覚悟した。


「もうダメだ。俺はここで死ぬんだ。」


そう思ったとき、何故か心が落ち着き、冷静に相手の動きを確かめることができた。


「うん?あの刀良く見ると打てから離れてないぞ。何か紐のようなものが付いている。あれを斬ってしまえば、立場は同じだ。」


六三郎は、ジリジリと迫る頭領の手に集中した。


「ほれ、刀がお前に飛んでいくぞ!」


その手から、刀が離れる瞬間、六三郎も手に持った棒を思いっきり投げつけた。

すると細い絹でできた糸よりが絡まり刀が地面に落ちた。

それを拾うおうとする頭領の頭に仲間の持っていた短剣を突き刺すとそのまま息絶えた。

六三郎は、一人人さらいの悪党から逃げ出し、大人の助けを呼んだのだった。


松本城、城郭。


「武田様、武田様。」


「源水か。」


「はっ!」


「如何致した。」


「立川は徳川と繋がっておりました。」


「そうか。」


「徳川の忍び霧隠一派が責めて参ります。」


「霧隠鹿之助か?」


「はっ!」


「分かった警護を強める。源水、総出陣せよ。」


「はっ!」


こうして武田信玄は最初の敵、霧隠一派と相見まえることになった。

徳川の息の根を止めてやろうと震源は自らも打って出るつもりだ。


「天下は我が物になる。」


そう信じて・・・。

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