第10話 囚われの身
「曲者を捕らえよ!」
立川 伊従は、霧隠 鹿右衛門と共に屋敷の庭へと飛び出した。
「彼処じゃ!」
屋敷の家来たちが右往左往する中、鹿右衛門が忍びらしく、玄魁が屋根を伝って逃げるのをあざとく見つけ出した。
家来たちは、曲者を捕まえようと四方八方から投げ縄を放った。
その内の一本が玄魁の右腕に引っ掛かり、動きが止まった所に左腕にも絡み付いた。
両腕を拘束された玄魁は、下から引っ張られる力に耐えきれず、屋敷の庭土に頭から落とされてしまった。
直ぐ様、立ち上がろうと足を踏ん張ったが、打ち所が悪かったのか、力が入らず、更には、そのまま意識を失ってしまった。
「誰の差し金かのう?」
そう尋ねてくる伊従に鹿右衛門は、こう答えた。
「見たことのない忍び。然し、我が藩を探ろうとする相手といえば、武田の手のものしかござりませぬ。」
「くそっ、気づかれたのか!事を急がねばなるまいの。」
「はっ、早急に徳川様に使者を。」
立川藩が徳川家康の天下取りを助けていることは、今はまだ武田信玄に悟られる理由には行かなかった。
そして、真田幸村の家臣、霧隠 鹿右衛門がこの場に居ることも。
「玄魁、玄魁、しっかりしろ!玄魁!」
立川に捕らえられた玄魁は、城の地下にある牢獄で拷問を受けていた。
一本鞭で叩かれ、水責め椅子、兵糧、指挟みと続く立川の家来たちによる責苦にも玄魁は、口を一切割ることなく、何度となく意識を失った。
牢獄部屋の壁から聞こえてくる声に暗黙しながら聞き入る玄魁。
「よいか、玄魁。もう少しこのまま辛抱するのじゃ。霧隠一派と立川の黒幕がわかるまで。」
「源水師匠だ。御免なさい、捕らえられてしまいました。でも師匠が来ているなら死んでも耐えられます。」
源水は、うずら隠れの術と呼ばれる土遁の術を使い、牢獄内の壁に消えるように忍び入っていたのだ。
玄魁が捕まることは、源水にとっては想定内のこと。
二手三手と策を張り巡らせていた。
「徳川様、この度立川の城に曲者が入りました。捕らえましたが、どうやら武田信玄の手の者と思われます。」
「武田じゃと!ふん、小百姓侍風情が、わしに逆らうとでも言うのか!どうでも良いわ!わしは天下人じゃ、虫けらなど相手にせん!」
「捕らえた者の始末は如何致しましょう。」
「好きにせい!・・・それよりもじゃ、織田を早く討って参れ!そして幕府を我が物にするのじゃ!」
「はっ!」
徳川家康の思惑は、織田、武田の両陣営により手も足も出ない状態だった。
「
霧隠鹿右衛門一派、邪忍党は妖術を使う忍者軍である。
源水一派の興十が使う妖術と同じ陰陽師である安倍晴明の流れを汲む
鹿右衛門が作り上げた忍者軍は源水軍と同じ陰陽道の従忍達なのだ。
「参るぞ!」
武田軍、源水一派と徳川軍、霧隠一派との戦いは戦国の世を揺るがす事態へと向かって行った。
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