第7話 対決

「次の勝負始め!」


その瞬間だった、晴れ渡っていた空は真っ黒な雲に覆われ、稲光が響き渡り豪雨となった。

二人の侍が勝負の立ち位置にいたが、その一人、寺川てらかわ 松左しょうざはあまりに激しい稲光に集中力を失くしている。

然し、相手方の侍は、雷鳴に微動だにせず、下段の構えに乱れ一つなかった。


りゅう昇林しょうりんという男、素性は知らぬがかなりできる男。それにもましてあの刀は、長刀ながらあ奴の腕に生えてるように馴染んでいる。一筋縄ではいくまいて・・・さすればこちらも秘術を使うしかあるまい。」


寺川は刀の刃を相手に突き刺すがごとくに構え、切っ先を小さく回した。

「これぞ我が秘術、円状撹乱剣。何処から刃先が貴様を刺すか分かるまい。」小さく回した円が速度を増し、刀がまるで太い丸太を持っているように見える。

然し、龍昇林と呼ばれた男の下段の構えに変わりはなく、それよりも、太刀から何やら怪しい妖気が漂い始めた。


「動けぬか、ならば死ね!」


円状撹乱剣は、剣の道の突きをヒントにしている。

龍昇林の身体を貫こうとした円状撹乱剣がその切っ先に手応えを感じたとき「俺の勝ちだ。」そう寺川は思った。


その瞬間、激しかった雷が寺川を貫き、寺川の肉体は黒焦げとなった。




龍 昇林と呼ばれた男は試合開始から1度もその構えを乱さず勝ちを収めた。


「この妖刀、満闇みつやみがある限り、俺は無敵だ。」


試合場は、いつしか、晴天となり、雨の余韻さえもなかった…


「2回戦は明日巳の刻執り行う!」






月潟 喜志郎は、日没のため順延となった試合場から帰路に着いた。

帰る脚に緊張感が走る。


「何者かが後をつけている・・・」


長屋の脇道に入り迷路のような細い脇道で待ち伏せた喜志郎が出くわしたのは、龍 昇林だった。


「俺に用か?試合は明日だろう?」


喜志郎は、龍 昇林の刀の妖気を感じていた。


「ふん、試合など小賢こざかしい、今ここで貴様を斬りたくてな。」


龍 昇林のふてぶてしさに喜志郎の怒りが湧く。


「斬れるとでも思っておるのか?」


互いに何時刀を抜くか機会を伺う。

先に刃先を現したのは妖刀満闇だった。

龍 昇林が下段の構えを取ると、喜志郎もすかさず名刀宗碌を相手の身体の中心に向ける。


場外での勝負が始まった。

一変、にわかにかけ曇り、晴れ渡っていた空は暗雲の闇に変わった。

暴風雨が起こり始め、周囲の家という家がバタバタと倒れていく。

風と雨は何時しか水竜巻となり、家々の人々がその渦の中に吸い込まれていく。

そして暫くそれが続くと、その場は原っぱの様に何もない跡地へと変わってしまった。


「幻影には惑わされぬぞ。」


月潟は開いた眼を閉じ、心眼によって龍 昇林を警戒する。

名刀宗碌は輝く諸刃の光りで妖刀満闇の妖気を遮るように輝きを増す。


「お前は、俺の父を斬った罪悪人だ。その刀は、善人を切る魔刀。魔刀にはこの妖刀満闇で成敗せいばいを加えるのだ。」


龍の言っている意味が月潟には分からない。

全く身に覚えのないことを言っている。

そう伝えようとした時、一陣の雷光が月潟の傍に落ちた。


「ドーーーーーーーン!」


地響きとともに地割れと炎が上がる。


「死ぬがいい、悪党め!」


「ドーーーーーーーン」


「ドーーーーーーーン」


雷光は間髪入れず月潟を襲った。

然し、そのたびに宗碌が眩い光を放ち、月潟の立つ位置をずらしていった…



風雲急を告げる。

雷光を放つ妖刀満闇に対して名刀宗碌は秘剣円陣の光で勝負に出た。

月潟の姿が刀の回転の裏に消える。

輝きに紛れて月潟が龍の背中の後ろに立ち剣を突き立てようとした瞬間だった。


「ピカッ、ゴロゴロ、ドーーーーーーン!」


稲光が遂に月潟を捕らえ宗碌と共にその身体を貫いた。


「あぁぁぁぁーっ!」


その場に倒れた月潟、そして名刀宗碌は粉々になった刃と桜の紋所の束を残して姿を失くした。

ゆっくりと後ろを振り返る龍 昇林。

然してその顔は鬼神と化した鬼の顔だった…

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