第4話
新しくできたショッピングモールの中庭で、里絵の桜の木を見つけた。
葉桜だった。さらさらと葉がゆれて、木漏れ日も揺れ動き、なにか私を夢中にさせるものがある。誘われる先は彼女の思い出。
モールのホームページには、桜が咲く春を塾の子供と待ちわび、春が来れば桜を最大に楽しむ感性豊かな女性として里絵が書かれた。私はその草稿を見たとき、これは嘘だと思ったものだ。
でも、特に何も言わずに掲載の許可を出した。
何をもってそれが嘘だと言えるだろう。里絵が桜と折り合いをつけられずに憎んでいたというのもまた、私だけの真実であるかもしれないのに。
結局、亡くなった里絵に対して最大限に誠実であろうとするならば、ただ、里絵が生きた風景を桜と共に覚えておくこと、それだけなのかもしれない。ささやかなことだけれど。
そう結論付け、私は桜の木に背を向ける。
そのとき、いつか見た里絵の塾の子供が嬉しそうにこちらに、桜に走り寄ってくるのが見えた。
軽やかに、春の一陣の風のように。
うららかな午後の日だった。
桜の木にナイフ 膳所柚香 @miyakenziro
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