十勝名人爆破指令
「十勝名人、ようやく来ましたね、遅刻ギリギリですね、待ちくたびれましたよ」
「済まない鈴木九段、道路が混んでいてね、なんでも有名なアイドルグループのライブがあるとかでね」
ここは札幌プラチナホテルの最上階、今日ここで十勝名人が持っている名人の称号の防衛戦が行われようとしていた。
「まぁ遅刻ではないからいいのですが……」
「そう言ってくれると助かるよ、じゃあ始めようか」
そう言いながら座布団に座る十勝名人、その顔はある種は気迫がある真面目なものとなっていた、それを見た審判は対局開始の合図をする。
「では対局を初めて下さい、先行は鈴木九段からどうぞ」
「わかりました、では……」
鈴木九段が歩を動かそうとしたその時、十勝名人は将棋盤に違和感を覚えた。
(むっ! この将棋盤……何かがおかしい……何かが……)
十勝名人は目を瞑り周囲に集中し始める、すると程なくして十勝名人はある音がしているのに気がついた。
(カチカチカチカチ……この音は……まさか……)
「どうしました? 十勝名人? そんなに青ざめた顔して?」
「鈴木九段! それに周りの皆さんもこの将棋盤から離れるんだ! 中に爆弾が仕組まれている!」
「えっ……何を……」
「いいから速く! 速くしないと爆発するぞ!」
「あっ……はい」
十勝名人と鈴木九段、そして周りにいた審判や観客などは急いで将棋盤から逃げる、その直後である、将棋盤がガタガタも揺れ始め、そして大きな音を立てて爆発した。
「うっ! ウワーッ!!」
「くっ……!」
爆発の直撃こそ免れたが、将棋盤から最も近い場所にいた十勝名人と鈴木九段は爆風を受け壁に吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ……大丈夫かい……鈴木九段……」
「ええ……とりあえず生きています……ですがこれでは対局は出来なさそうですね……」
「……そういうことが言えるのなら大丈夫そうだね……」
爆発によって将棋盤は完全に破壊、それだけでなく対局に使われていた部屋もただ事ではなくなっており、人的被害こそ出ていないが最早将棋どころではなくなっていた。
「とりあえず……警察に連絡だな……」
十勝名人はスマホを取り出し、札幌国際警察に連絡をかけるのだった。
◆
「十勝名人! 無事でしたか!」
「ケン刑事! どうしてあなたが?」
爆発の現場にやってきたのはケン刑事が率いる札幌国際警察の精鋭達であった、彼らは既に爆発現場の検証を始めている。
「状況的にプライムガードがあなたを狙ったという可能性が高いですからね、なので私がやってきたというわけです」
「なるほど……それで実際にこの爆発はプライムガードの仕業なのか……」
十勝名人はケン刑事にそう聞くと彼は首を縦に振った。
「ええ、やはりこれはプライムガードの仕業です、今回使われた爆弾は彼が普段使うものと酷似している」
「彼? 彼とは一体?」
十勝名人はケン刑事に聞く。
「ええ、今回あなたを狙ったのは元アメリカ特殊部隊所属の軍人であり、現在はプライムガードの爆弾魔……その名はボマー大佐です!」
「ボマー大佐……元アメリカ軍特殊部隊だって!?」
十勝名人は驚いていた、プライムガードが大きな組織であることはケン刑事から聞いてはいたがそのような人材まで網羅しているとは思っていなかったのだ。
「ええ、彼はアメリカ軍の中でも選りすぐりの爆弾のスペシャリストを集めた特殊部隊【B・O・M】に所属していました、しかし彼はしてはいけないことをしてしまった……任務で解体した爆弾を密かに売り捌いていたのです」
「……なんてやつだ」
「私もそう思います、その後彼はフリーの傭兵として各地を転々とし、その後プライムガードにスカウトされたようです」
「なるほど……つまりそんなやつが僕を爆殺しようとした訳だ」
十勝名人はそう呟くと周りを見渡した、元々将棋の対局が行われようとしていたこの部屋は今や観るも無惨な姿になっている。
「全く、僕だけでなく周りのみんなまで巻き込むとは……」
「十勝名人、これがボマー大佐のやり方なのです、任務を達成するためなら手段を選ばない、彼はそんな冷酷な男なのです」
「なるほどね……ケン刑事、実を言うとこの対局の後小樽に行く予定があったんだよ」
「十勝名人? いきなり何を言ってるんです?」
「ケン刑事、奴は……ボマー大佐は僕を殺す気でいるんだろう? ならば敢えてこのまま小樽に行きこの身を目立たせ、奴を捕まえやすくする、じゃないと被害が大きくなってしまうからね」
「十勝名人……分かりました……小樽に行くというのならこれを持ってください、それが条件です」
「これは……」
ケン刑事が十勝名人に渡したもの、それは腕時計であった。
「これは……腕時計?」
「ええ、私の知り合いの技師が作ったものです、一見ただの腕時計ですが右側についてるボタンを押すと中からワイヤーが出てきます、有効に活用してください」
「ありがとうケン刑事、じゃあ僕はこれから小樽に行くよ」
「分かりました十勝名人……気をつけて……」
十勝名人は札幌プラチナホテルから立ち去って行った。
◆
二時間後、夕方、小樽、十勝名人は小樽運河で黄昏ていた。
(ボマー大佐、奴は僕があのホテルで死んでいないと既に気がついているはず、ならば奴は僕を殺す機会を窺っているはず……どこだ……どこから来る)
十勝名人は周囲を警戒する、小樽運河は観光客等でいっぱいだ、流石のボマー大佐もこの中で襲いかかってきたりはしないか、十勝名人がそう思い始めたそのときである、彼が持っているスマホがなり始めたのだ。
「むっ! 電話か! なにっ! これは非通知!!」
十勝名人が持つスマホに画面には非通知という文字がデカデカと映し出されていた。
(普段なら出ないところだが……しかし何か嫌な予感がする……でないと取り返しのつかないことになるような……)
十勝名人は警戒しながら電話に出た。
『クハハッ! 十勝名人、私のプレゼントは気に入ってくれたかい?』
「プレゼントだって! あんたは一体……」
『クハッ! 察しが悪いな! まぁいい、自己紹介してやろう……私はボマー大佐だ』
「ボマー大佐だって! あんたが!?」
「ククッ! そうだ!」
十勝名人は辺りを見渡す、しかし周辺にボマー大佐らしき人物の姿はなかった。
「無駄だ! 貴様に私を探すことはできない!」
「くっ!」
「それにだ! そんな悠長な事をしている時間はないぞ!」
「なにっ! どういう事だ!」
「貴様がいる小樽運河周辺に爆弾を仕掛けた! 5分以内に見つけないと貴様と観光客どもは御陀仏だ!」
「くっ! 狙うなら僕だけを狙え! この卑怯者!」
「ククッ! 卑怯……卑怯か!! 戦場ではあらゆる手段を使わないと生き残ることができない!! それが例え関係ないものを巻き込む事になってもだ!!」
「それがどうした!!」
「貴様は本当の戦いを知らないという事だよ……さて、この様な言い合いをしている時間はないぞ! もう既に爆発までのカウントダウンは始まっているのだからな! さらばだ!」
「待てっ! くっ! 携帯の通話が切れたか……」
十勝名人は携帯をしまい辺りを見渡す、とりあえず爆弾らしきものは見当たらなかった。
「流石に分かりやすく置いていたりはしていないか……」
十勝名人は目を閉じ精神を集中させる、音を聞き分ける事により爆弾を探そうとしているのだ、しかし……
「くっ! 人が多すぎて雑音ばかりだ! これでは爆弾を探すどころではないぞ!」
十勝名人は急ぎ腕時計を確認する、爆弾が爆発するまで後三分を切っていた。
(どうする……ここにいる人たちに爆弾がある事を知らせるか? いや、それでは混乱が起きてしまう、それに残り三分でここにいる全員を退避させることができるとは思えない、やはり爆弾を探すしか方法はないか……)
十勝名人は走り出す、とにかくこの辺りを隈なく探すしかない、すると1人に路上ミュージシャンが目についた。
「みんな聞いてくれてありがとう、じゃあ次はボクのオリジナル曲を弾かせてもらうよ」
(路上ミュージシャンか……こんな時じゃなければ一曲くらい聴いていきたいところだが……むっ!)
路上ミュージシャンの曲をよくよく聴いてみると明らかに楽器の音ではない音が混じっていた、カチカチカチ、それは規則正しく鳴っていた。
(まさかあのミュージシャンの近くに爆弾が? ギターケースの中か!)
そう気づいた後の十勝名人の行動は早かった、彼は素早く路上ミュージシャンの元に近づいたのだ。
「ちょっと失礼……」
「えっ……あんた何っ? 今歌っているんだけど……」
「話は後だ! このギターケースの中身、見させてもらうよ!」
「えっ……あっ……はい……」
路上ミュージシャンは十勝名人の迫力に押され何も言えなくなる!そしてギターケースの中を見てみると確かに爆弾があった。
「むっ……やはりここに爆弾が……」
「爆弾……爆弾だって!」
「ひぃ……逃げろーっ!」
「あああああーーーっ!!」
「おおおおおおおーーーーっ!!」
爆弾の存在に気づいたミュージシャンと観光客達は慌てふためき逃げ惑う、爆弾が爆発するまで残り1分だった。
「むう! 時間がない! こうなったら一か八かだ!」
十勝名人は爆弾を上空に放り投げる、そして王将刀を抜刀し爆弾に衝撃波を浴びせる、すると爆弾は小樽運河の上で爆発した。
「ふう……なんとかなったか……」
十勝名人はその場にへたり込む、すると彼のスマホから着信音が鳴り響く、十勝名人は即座にスマホを手にした。
「クハハッ! 中々乱暴な方法だったが爆弾を解体することができたようだな!」
スマホから笑い声が聞こえる、ボマー大佐だ。
「くっ! ボマー大佐! 姿を現せ!」
「クハハッ! 私はファイ・チェンの様な喧嘩好きではないのでね! 私の姿を見たいのなら見つけてごらん?」
「グッ……!」
「ところで、爆弾はまだこの小樽市内に存在するんだ」
「なにっ!」
「即座に爆発させるというのもいいがそれでは風情が無いし、何よりあんたを爆殺することができない、だからヒントをあげよう」
「なにっ! ヒントだとっ!」
「子守唄鳴り響く本当の館……これがヒントだ、爆発までの時間は、そうだな……30分というところにしようじゃないか、ではまた、生きていたらまた会おう」
その言葉と共に電話が切れた、十勝名人はヒントとなる言葉の意味を考えていた。
(子守唄鳴り響く本当の館……子守唄と聞いて思い浮かぶのは優しい音色だ……小樽で優しい音色と言ったらオルゴールだ……という事はオルゴール堂……しかし小樽にオルゴール堂は複数ある……いや待て……本当の館……本館ということか!!)
爆弾の位置はわかった、しかし問題はオルゴール堂までの距離だ、ここから徒歩で行くとなると時間がかかる、しかし先ほどの爆弾騒ぎの影響か、タクシーは見えなかった。
「くっ! 走っていくしか無いか!!」
十勝名人は俊足で走って行った……。
◆
二十分後、十勝名人はオルゴール堂本館に辿り着いていた。
「はぁはぁ……爆発まであと十分といったところか……」
十勝名人はオルゴール堂の中に入る、先程の爆弾騒ぎの影響か、中に人はいなかった。
「お客さんはいないか……不幸中の幸いといったところか……さてと、爆弾を探さないとな」
十勝名人は目を閉じ耳を澄ませる、しかしその時、店の中のオルゴールが一斉に鳴り響き始めた。
「なにっ! これでは爆弾の音を聞くことができない!」
「クハハッ! そう簡単に爆弾を解体はさせないぞ十勝名人!」
「なにっ!その声はボマー大佐!」
ボマー大佐の声はオルゴール堂内にあるスピーカーから聞こえていた。
「その声! スピーカーからか!」
「そうだ! だが私を探そうとしても無駄だぞ! 私はこの建物の外からスピーカーのシステムをハッキングして貴様に声を届けているのだからなぁ!」
「くっ!」
「それより早く爆弾を見つけた方がいいと思うぞぉ! 早くしないと小樽が誇るオルゴール堂が粉々になってしまうのだからなぁ!」
「ぐっ!!」
爆発まで時間がない、十勝名人は爆弾を探し出す。
「ボマー大佐が仕掛けた爆弾……一体どこにある!?」
十勝名人は爆弾が仕掛けられているオルゴール堂を調べる、しかし爆弾は見つからない。
「くっ! どこだ!」
「クハハハッ! 十勝名人!! 爆発まで後五分しかない!! 見つけることができますかね!!」
「くっ! うるさいぞ!!」
「クハハ!! 失礼!!」
十勝名人は考える、まだ探していない場所、爆弾はそこにあるはず……
「しかし探していない場所など……」
十勝名人はふと上を見る、すると綺麗なシャンデリアがあるのが見えた。
「ん……? このシャンデリア……?」
十勝名人は違和感を覚える、おかしい……何かが……おかしい。
「むっ! あのシャンデリア! よく見るとデザインが違う!! という事はあれが爆弾!!」
十勝名人はついに爆弾を発見した、シャンデリアは爆弾に差し代わっていたのだ。
「しかしあのシャンデリア爆弾、どうやって解体する?」
「クハハッ! どうやら爆弾を見つけたようだね十勝名人!!」
「ボマー大佐!!」
店内のスピーカーから聞こえるのはボマー大佐の声だ、十勝名人は吠える。
「ボマー大佐!! こんなふざけた物を用意して!! ふざけるんじゃないぞ!!」
「クハハッ!! これは特注品なんだがねぇ……まぁいい、ところでここはさっきと違って屋外じゃないし爆弾も大きい、さっきの方法は使えないぞ?」
「くっ! 分かっている!!」
「クハハッ!! では検討を祈っているぞ!!」
その声と共にボマー大佐の声は聞こえなくなった、どうやらこのまま観戦を決め込むつもりらしい。
「くっ!! 一体どうやれば!!」
十勝名人はふと右腕を見る、そこにはケン刑事から貰った腕時計があった。
「これは……いや、これを使えばなんとかなるかもしれないぞ!!」
十勝名人は二階に上がり腕時計からワイヤーを射出する、それはシャンデリアの根本を捉えた。
「よし! 行けええええ!!」
そのままワイヤーを力いっぱいシャンデリアを引っ張る、するとシャンデリアが勢いよく引っ張られ十勝名人の元に来る。
「よし! 今だ!! 十勝流奥義【大香車輪】!!」
十勝名人が王将刀でシャンデリアを止めるとそのままの勢いで王将刀を突き上げる、するとシャンデリアは天井を破壊しながら大回転し遥か空へと飛んでいく、そしてシャンデリアは空中で爆発した。
「ふう……天井を壊すことになってしまったが……なんとかなったか……」
十勝名人が一息つくとスピーカーから声が鳴り響く、ボマー大佐だ。
「どうやら今回の爆弾も解体した様だな十勝名人!!」
「くっ!! そろそろ姿を見せたらどうだボマー大佐!!」
「クハハッ!! 私が直接あなたと戦う必要性はないのでねぇ!!」
「なんだと!!」
「とはいえ爆弾の在庫が切れてしまったのでね、そろそろ小樽から帰還することにする!!」
「待てボマー大佐!!」
最後の声と共にスピーカーの音声が切れる、しかしその直前波の音が聞こえたのを十勝名人は聞き逃さなかった。
「むっ!! 波の音!! ということはボマー大佐がいるのは小樽港か!?」
十勝名人は走る、急げ十勝名人、ボマー大佐の元へ……
夜の小樽港、小樽運河で起こった爆発事件の影響で人がいない、そんな中ゴーグルを顔にかけた軍服姿の男が海を見ていた。
「それで、ここに来るまでどのくらいかかるんですか?」
「後二十分と言ったところじゃな、もうちょっと待っておれ」
「サーイエッサー」
その言葉と共に軍服の男……ボマー大佐は無線を切る、しかし彼の顔はイラついた顔をしていた。
「全くあの骸骨顔の爺さんめが……約束の時間を三十分も遅刻しているぞ……まぁいい……十勝名人が二十分でここに辿り着くとは思えないからな」
ボマー大佐は腕を組んで待ちの態勢を取る、しかしその時である、ボマー大佐の頬を衝撃波が掠めたのだ。
「ボマー大佐……ようやく見つけたぞ!!」
「誰かと思えば十勝名人か……どうやってここを見つけた?」
「最後の通信から波の音が聞こえたのでね、恐らく小樽港だろうと思ったんだよ」
「クハハッ!! 波の音……波の音かっ!! あんたの事を舐めすぎたようだな!! まぁいい……十勝名人!! こうなったら相手をしてやろう!!」
ボマー大佐は懐から手榴弾を取り出すと十勝名人に向かって投げつける。
「くっ!! だがそれくらい!!」
十勝名人は王将刀から衝撃波を放ち手榴弾を自らに届く前に爆発させた。
「クハハハハッ!! 流石にこれくらいでは死なないかっ!! だが私はプロだ!! 爆弾以外の戦い方も心得ているのだよ!!」
ボマー大佐は足につけていたサバイバルナイフを取り出すと十勝名人に切りかかる、十勝名人はそれを王将刀で受け止めた。
「ぐっ!! 速い!!」
「クハハッ!! 私の軍隊式ナイフ術は最高級でね!! 戦いを始めたばかりの素人に負ける道理は無いというわけだ!!」
「言わせておけば!! 喰らえ!!」
十勝名人は時計からワイヤーを射出しボマー大佐のナイフを奪おうとする、しかしボマー大佐は身を翻しワイヤーをかわした。
「クハハッ!! そんな子ども騙しに私が引っ掛かるとでも?」
「いや、だが僕のみくびりすぎだねボマー大佐!!」
「なにぃ!!」
「後ろを見てみるんだボマー大佐!!」
「後ろだと!! なっ!!ボラードがっ!! ぎゃっ!!」
十勝名人の狙いはナイフではなかった、ボマー大佐の後ろにあるボマード(港とかにある足乗っける奴)を引き抜きボマー大佐の頭に直撃させたのだ。
「どうだボマー大佐!!」
「うぐっ……うぐぐっ!!」
ボマー大佐は地面に突っ伏しうめき声を上げている。
「もう戦闘不能……といったところか?」
十勝名人がボマー大佐の状況を確認するため彼に近づいたその時である、サバイバルナイフが十勝名人の足を掠めたのだ。
「なにっ!!」
「クハハッ……あんたも油断したなぁ……十勝名人!!」
「ボマー大佐……まだ戦える体力が!!」
「しかし……さっきのボマードで、私のゴーグルも使えなくなりましたよ……せっかくの特注品を……」
ボマー大佐はそう言いながらゴーグルを外す、その顔は十勝名人に対する怒りに燃えていた。
「さてと……第二ラウンドを始めますか……」
「くっ!!」
十勝名人はボマー大佐を見る、先程までの彼とは違う殺気、十勝名人はそれを感じていた。
「こっちから来ないのなら……私から行くぞ!!」
ボマー大佐は十勝名人に切り掛かる、十勝名人はそれを紙一重でかわした。
「なにっ!! 速い!!」
「クハハッ!! もう一度行くぞ!!」
ボマー大佐が十勝名人にもう一度斬りかかろうとしたその時である、突如として十勝名人の足元に銃撃が走った。
「なっ……銃撃だと!!」
「やれやれ……いいところだったのだが……お迎えが来た様だ」
十勝名人が上を見るとそこには巨大な空中戦艦があった。
「あの戦艦は……見覚えがあるぞ……札幌中央美術館で見たのと同じ奴だ!!」
「そうじゃ!! これはプライムガードが誇る空中戦艦【プライムフライヤー】じゃ!!」
空中戦艦から老人の様な声が聞こえる、どうやら戦艦の中から声を出しているらしい。
「プライムフライヤー……それがその戦艦の名前か!?」
「そうじゃ、おっと自己紹介がまだじゃったな!! ワシの名は【スカル提督】!! プライムガードの幹部じゃ!! 覚えておくがよい!!」
「クハハッ!! 勝負の途中ですが……私はこの辺りで帰らさせてもらう!!」
「待て!!」
十勝名人はボマー大佐を追うがしかし、既に彼はプライムフライヤーから吊るされた縄に捕まっていた。
「くっ!!」
「では十勝名人!! 勝負は次に預けよう!、 クハハハハハハハハッ!!」
「くっ!! 逃がさない!!」
十勝名人は跳躍しボマー大佐を捕まえようとする、しかしその手はボマー大佐の足を掠め、戦艦はそのまま小樽の空へと消えていった。
「ボマー大佐……彼とはまた戦う時がやってくるだろう……その時までに自分をより鍛え上げなければ!!」
新たな決意を固める十勝名人、それを見ているのは満月だけであった。
◆
二日後、プライムガードの秘密基地、そこではある実験が行われようとしていた。
「なるほど、これがプライムソルジャー弍型ですか?」
「そうじゃ、中々いいデザインしてるじゃろ?」
そこにいたのは髑髏顔の海賊男、スカル提督ともう一人、仮面をつけた貴族風の男であった。
「問題はデザインより性能ですよ、そこは問題ないんでしょうね?」
「そこは大丈夫じゃよパビリオン、壱型の不満点を改善し戦闘性能を高めておる、問題ないはずじゃ」
パビリオンと呼ばれた貴族風の男はプライムソルジャー……スカル提督が作った戦闘用ロボットを見る。
「ふむ……まぁいいでしょう、それはこれから実証実験で調べればいい話です」
「そうじゃ、それで? どうやって実験をするつもりじゃ?」
「それはですね……出てきてください!! 帝山!!」
パビリオンの一声と共に上から何かが降ってくる、それは……力士であった。
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