死の土俵

「グワハハハーッ!! 帝山参上でゴワス!!」

 突如として上から降ってきた力士、【帝山】は豪快に着地すると四股を踏んだ。

「どうですかこの美しい肉体は、とてもいいでしょう?」

「悪いとは言わんよパビリオンよ……まぁよい、要はプライムソルジャー弐型をその帝山と戦わせるという事じゃな?」

「そうです、帝山、準備はいいですか? 」

「いいでゴワス!!」

「わかった、プライムソルジャー弐型……起動じゃ!!」

 スカル提督がスイッチを入れるとプライムソルジャー弐型が起動した。


「ガガーッ!! ピーッ!!」

「よし! 起動成功じゃ!! あそこの力士が見えるか!! あの力士を倒すのじゃ!!」

「ピピーッ!! 了解!!」

 プライムソルジャー弐型はスカル提督の命令をうけ帝山に向かって跳躍する、しかし帝山はそれをその大きな身体からは想像できない素早い動きで回避する。

「ゴワスゴワス!! 最新の戦闘ロボットもその程度でゴワスかっ!!」

「ピーッ!!」

 プライムソルジャー弐型は帝山に対して次々と攻撃仕掛けていく、しかしそれは全くもって当たらなかった。


「ゴワス!! 避け続けるのも飽きたでゴワス!! 次はこちらがいかせてもらうでゴワスよ!!」

 そう言うと帝山はプライムソルジャー弐型に張り手を喰らわせる、最初は避けたりガードしたりして対処していたごやがて耐えきれなくなり張り手がクリーンヒットした。

「ガガーッ!! ガッ!!」

「そこまでじゃ!! それ以上はせっかく作ったロボットが壊れてしまうでな!!」

「おっと、危ないでゴワス、もう少しで壊してしまうところでゴワスな」

 帝山は張り手を止める、スカル提督はプライムソルジャー弐型を回収する。


「プライムソルジャー弐型……もう少し改修が必要そうですね」

「そう言うなパビリオン、これはあくまで量産型の戦闘ロボット、一体で強者相手に勝てるようには出来とらん」

「おっと……それは失礼しました」

「まぁ回避性能はもう少し上げてもいいかもしれんがな……ところで帝山と言ったかの?」

「ゴワス!!」

「いい返事じゃ、お主に一つ仕事を頼みたいのじゃが」

「いいでゴワスよ!!」

「いい返事じゃ!! では帝山よ!! お主には倒して欲しい男がいるのじゃ!!」

 スカル提督ほスイッチを押しモニターに一人の男を映し出す、それは十勝名人であった。


 モニターに映し出された十勝名人、それを見て帝山は唸った。

「ほう……この男、十勝名人でゴワスか!!」

「そうじゃ!! 将棋棋士である此奴がプライムガードに楯突いていることは既に知っているであろう!!」

「ゴワス!! ワテをを拾ってくれたプライムガードに仇なす十勝名人!! 許せないでゴワス!!」

 帝山は怒ってその場で四股を踏む、スカル提督は慌ててそれを止めた。


「待つんじゃ待つんじゃ全く!! その四股で基地が壊れてしまうのじゃ!!」

「おっと……危ないでゴワス……」

「その怒りは十勝名人にぶつけるんじゃ!! というわけで行くのじゃ帝山!!」

「わかったでゴワス!! 待っているでゴワスよ!! 十勝名人!!」

 帝山は走って基地から去っていった、それを見送ったスカル提督はパビリオンに声をかけた。

「ところでパビリオン、帝山は十勝名人に勝てると思うかね?」

「まぁ、勝てる可能性はある……と言っておきましょう」

「なんじゃ? なんというか気が無いのう……」

「それだけ十勝名人が脅威ということです……さて、次の手を考えなければ……」

 パビリオンはマスクの下の眼光を光らせた。



 ススキノ、そこは札幌市を代表する歓楽街、そこに存在するBAR【アフター5】に十勝名人は来ていた。

「BARか……こういうところにはあまりこないんだけどね……」

「お客様、お一人でございますか?」

 十勝名人がアフター5の中に入るとバーテンダーの男に呼び止められた。

「いや、待ち合わせでね、七三分けの眼鏡の男はいるかい?」

「七三分けの……いえ、まだ来ていませんね」

「そうか、じゃあ待たせてもらうよ、ところで僕はBARという場所に来るのは初めてなんだが、何かオススメのお酒はあるかい?」

「オススメですか、では当店オリジナルのカクテルを作りましょう、飲みやすいですよ」

「じゃあ頼むよ」

 バーテンダーの男はカクテルを作り始める、十勝名人はそれを見ながら以前の戦いの事を思い出していた。


(ボマー大佐……あの男は僕を倒すという目的のためだけに小樽中を火の海に包んだ……そういう奴がプライムガードにはまだいるというのか?)

「お客様、カクテルが出来上がりました」

「はっ……そ、そうか……」

 十勝名人はバーテンダーの声がけで我に帰った、テーブルには赤色のカクテルが置いてある。

「これが当店オリジナルカクテル【アフター5】です、飲んでみてください」

「わかったよ……うん、美味しいじゃないか……」

「それはよかった……ところでお客様、先ほどは何やら深刻そうな表情をしておられましたが……何か悩みがあるのでしょうか?」

「悩み……悩みか……」

 十勝名人は悩んだ、流石にバーテンダーの男にそのままプライムガードのことを喋るわけにはいかないが、さりとて何もないと突っぱねるのも気が引ける。


「いや……なんというか……うん……」

「言えない……というのならそれで結構です、所詮私はしがないバーテンダーですから……ですが……」

 バーテンダーが何かを言いかけたその時、入り口のドアが誰かがやって来た。

「むっ、ケン刑事がやって来たかな?」

 十勝名人がドアの方に視線を送る、しかしそこにいるのはケン刑事ではなく一人の力士であった。


「なっ……」

「フハハーーッ!! ケン刑事はここには来ないでゴワスよ!!」

「なにっ!! どういうことだ!!」

「ケン刑事はワシが拐ったでゴワス!! プライムガードに楯突くものは容赦しないでゴワス!!」

「なっ……この!! ケン刑事をどこにやった!!」

 十勝名人は激昂し帝山に突っ込む、しかし帝山はそれを難なく張り手で返し、十勝名人を壁に吹き飛ばした。


「ガハッ……!!」

「フハハーッ!! ファイ・チェンを倒しボマー大佐を追い詰めたと聞いたでゴワスが、大したことないでゴワスねぇ……」

「くっ……」

「これならワシが手を下すまでもないでゴワス!! 来い!! プライムソルジャーども!!」

 帝山が声を掛けるとドアから三体の戦闘用ロボットが現れた。


「「「ガガー!! ピピーッ!!」」」

「なっ!? これは!?」

「こやつらはプライムガードの戦闘用ロボット、旧式でゴワスがあんたを倒すのには十分な戦力でゴワスな!! ではさらばでゴワス!!」

 帝山はそう言い残すとアフター5から出て行った、残されたのは十勝名人と三体のプライムソルジャー、そしてバーテンダーの男であった。


「「「十勝名人……タオス!!」」」

「くっ!!」

 プライムソルジャー達は一斉に十勝名人に襲いかかる、しかしプライムソルジャーたちの眼前に何かが掠める、それはダーツの矢であった。

「「「ピピ!! 新タナ敵!!」」」

「……ったく!! 私の店で散々暴れやがって……これは許せないよなぁ……」

 矢を投げたのはバーテンダーの男であった、その目は闘志に燃えている。


「ピピーッ!! マズハコイツカラ!!」

「フン!! わかりやすいんだよ!!」

 プライムソルジャーの一体がバーテンダーに殴りかかる、しかし彼はそれを避けプライムソルジャーにアッパーカットを浴びせる。

「ガガガーーーーッ!! ガッ!!」

 アッパーを浴びせられたプライムソルジャーはそのまま天井に頭がめり込みそのまま動かなくなった。


「「コイツ!! ガガーッ!!」」

 残された二体のプライムソルジャーはバーテンダーに突っ込む、しかしそこに一閃の刃が光る。

「おっと……ここからは先は僕が相手だ」

「「ガガーッ!!」」

 プライムソルジャーはがむしゃらになり十勝名人に突っ込む、十勝名人はそれを王将刀で一頭両断、二体のロボットは真っ二つになりそのまま動かなくなった。


「なるほど、十勝名人……最初はどうかと思ったが中々の強さじゃないか……」

「……あなたも中々の強さでしたね、ただのバーテンダーとは思えない、あなたは一体」

 十勝名人はバーテンダーの男を一瞥する、果たしてこの男の正体は?

 十勝名人とバーテンダーの男、睨み合う二人、先に声を出したのはバーテンダーの男であった。

「私はこのアフター5のしがないマスター【豊水五郎】」

「そういう話をしているんじゃない……あなたはあの戦闘ロボットをあっさりと倒したし、帝山……あの力士の乱入にも物怖じしていなかった、ただのBARのマスターではないですよね?」

 疑念を挟む十勝名人にBARのマスター、豊水五郎はカクテルを渡す。


「……なにを?」

「先ほども言いましたが私はただのBARのマスター……少なくとも私はあなたの敵ではない、違いますか?」

 豊水五郎の様子は先ほどまでのプライムソルジャーと戦ってる時のそれではない、BARのマスターのものに変わっていた。

「それはまぁ……そう……」

「それにあなたの敵はあの力士、帝山のはずだ、今ならまだ間に合うはずです、追いかけては?」

「む!! 確かに!!」

「相手はあの姿です、よく目立つはず、今から行けばすぐ見つかるはずでしょう」

「わかったよ、あなたのことを疑って悪かった」

 十勝名人は豊水マスターに頭を下げる。


「頭を下げないでください、ですがそうですね、私の事をより知りたかったらまたこのBARに来てください、話し相手になりますよ」

「わかった、考えておくよ」

 十勝名人はそう言い残すとアフター5から出ていくのであった。



 その頃、帝山はススキノの街を縦断していた。

「ハハハハハハハーーーッ!! そこの酔っぱらいたち!! どくでゴワス!! 」

「ぎゃー!!」

「ママーーッ!!」

「ひひひーーん!!」

 四股を踏みながらススキノを我が物顔で喝破する帝山、そこに警察車両が現れた。


「そこの力士!! 止まりなさい!!」

「ススキノの街で暴走するなら、我々が許しません!!」

「むっ!! 警察でゴワスか!! しかし、この帝山の敵ではないでゴワス!!」

帝山は高速で四股を踏みながらパトカーに接近する。


「なっ……速い!!」

「驚くのは速いでゴワスよ!!」

 帝山はパトカーをその怪力で持ち上げる、そして警察官たちに向かってパトカーを投げつけた。

「なっ……みんな逃げろーっ!!」

 投げられたパトカーは地面に叩きつけられ爆発炎上、ススキノが燃え上がる。

「ひいいいいいいい!!」

「こんな……こんなの俺らじゃ手に負えないぞ!!」

「うぐぐうううううう!!」

 警察官たちは自らの職務と恐怖心の狭間に動けなくなっていた。


「ハハハハハハハ!! こんなものでゴワスか!! それじゃあそろそろ終わりにするでゴワスよ!!」

 帝山は力強く四股を踏んだ、ふると帝山の周辺で地震の様な揺れが起こり周りにいた警察官や民間人たちが揃って気絶した。

「さて、そろそろ先を急ぐでゴワスよ!」

「待て!!」

「ゴワス!!」

 帝山の前に一人の人影が現れる、それは十勝名人であった。


「ハハハハ!! 十勝名人でゴワスか!! 流石にあのロボットたちでは時間稼ぎにもならなかったでゴワスねぇ!!」

「勝負だ帝山!! 今度は負けない!!」

 十勝名人は鞘から王将刀を取り出す、帝山も四股を踏み戦闘準備を整える。

「この帝山、日本刀にも負けないでゴワスよ!!」

「でやーっ!! 行くぞ帝山!!」

 十勝名人は王将刀を帝山に振りかざす、しかし帝山はそれを腕で受け止める。


「なっ……!!」

「ワシの筋肉は刀をも跳ね返すでゴワス!! ふん!!」

「くっ……!!」

 帝山は腕を振り下ろすと王将刀による斬撃を跳ね返した、十勝名人は流石に驚きを隠せない。

「なんてやつだ……王将刀を筋肉だけで跳ね返すとは……」

「ハハハーーッ!! 十勝名人よ!! 今度はこっちが行くでゴワス!!」

 帝山は十勝名人に張り手を繰り出す、どうにか王将刀でガードするがしかしその衝撃は凄かった。


「クッ!! なんて衝撃だ!!」

「ハハハハハハハーーーッ!! ワシの闘うところはどこであろうと死の土俵になるでゴワス!! 死ねーっ!! 十勝名人!!」

 帝山が十勝名人にトドメを刺そうと張り手を繰り出す、しかしその時、帝山の前にワイングラスが掠めた。

「なっ……!! 一体何でゴワス!!」

「むっ……今だ!! 十勝流奥義!! 銀将竜巻!!」

 十勝名人が王将刀を大振りに振りかざすとこの力によって竜巻が発生、帝山を包み込む。


「なっ……これは?! ぐっ!! 出れないでゴワス!!」

「帝山!! いかに頑丈な肉体を持っていてもこの回転は耐えられまい!!」

「うぎゃあああああああ!! 目が回るでゴワスーーッ!!」

 帝山は竜巻の中で高速回転し、やがて地面にすごい勢いで叩きつけられた。

「うっ……ゴッ!!」

「どうだ帝山!!」

「くっ……ワ……ワシの負けでゴワス……」

 帝山はクルクル回転させられた挙句地面に叩きつけられ最早闘える状態ではなかった。

「さぉ帝山!! ケン刑事をどこにやった!! 言え!!」

「ぐおお……ケン刑事は……この先の廃墟に……ゴワッ!!」

 帝山は気絶した。


「この先の廃墟……確かつい最近テナントが全てなくなったビルがあったな、あそこか、しかし……さっきのワイングラスは一体……」

 十勝名人はワイングラスを投げた主を探そうと辺りを見渡す、すると十勝名人の目に一瞬赤い閃光が見えた。

「むっあれは……いや、今はケン刑事を助けるのが先だ、急がなければ!!」

 十勝名人は廃墟へと向かうのであった。



「十勝名人……まだまだ荒削りだが、あれは強くなるな」

 ビルとビルの間から十勝名人と帝山の闘いを見ていた男が1人、その男は赤いスーツを身に纏い5と書かれた覆面を被っていた。

「さて、俺はとりあえずここまでだ、俺は守護るべき場所はススキノだからな……」

 男はそう言うとビルの影に消えていった……。

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