ファイティング・チェーン

 青空の上を悠々と飛ぶ巨大空中戦艦【スカル・フライヤー】これは悪の秘密結社【プライムガード】が誇る兵器の一つであった、その中にある船長室では一人の男がウルトラカブキを待っていた。

「さて、ウルトラカブキがそろそろ来る頃なのじゃがのぉ?」

 船長室にいるのは顔に骸骨のメイクを施したバイキングのような筋骨隆々の男であった。


「ウルトラカブキは既に我が戦艦スカル・フライヤーに乗り込んでいるはずじゃが、どこで道草を食っているんじゃ?」

「申し訳ありません、スカル提督様、遅れました」

「むっ、来たか!」

 船長室の扉を開け現れたのは怪盗ウルトラカブキである、手には札幌中央美術館から盗み出した黄金の将棋盤を持っている。


「ウルトラカブキ、どうやら無事に黄金の将棋盤を盗み出すのに成功したようじゃな! 毎度のことならば中々の手腕じゃ!」

「ええ、お褒めに預かり恐悦至極、しかし今回の盗みに関してはプライムガードの幹部であるスカル提督様のお耳に入れたいことがありましてね……」

「ほう、なんじゃ? 言うてみぃ?」

 バイキング風の男、プライムガード幹部の一人【スカル提督】は船長室の船長用の椅子に腰掛け、話を聞く体勢を整えた。


「単刀直入に言うと強敵が現れました、十勝名人をご存じですか?」

「もちろん知っておるよ、将棋の名人で黄金の将棋盤の持ち主じゃろ? ……もしやそいつが?」

「ええ、十勝名人は剣術の名人でもあり、黄金の将棋盤の守り人でもあります、正直、我らプライムガードが黄金の将棋盤を持っている限り我らと敵対することでしょう」

「うむ……」

 スカル提督は考え込むように目を閉じ、やがて開いた。


「わかった……十勝名人をこのままにしておくの厄介じゃ、刺客を送り込むことにするかの」

「刺客ですか、一体誰を送り込む気で?」

 ウルトラカブキがスカル提督に問いたその時、船長室に大きな笑い声が響き渡った。

「ハッハッハ! ハーッハッハッハ! 十勝名人を倒す刺客! 俺が一番乗りさせてもらうぜ!」

 ウルトラカブキとスカル提督が声の方を見てみるとそこには両腕に鎖を身につけたリーゼントの男がいた。


「貴様は……蛇腹鎖鞭のファイ・チェンか!」

「応よ! 俺の名前を覚えてもらえてるなんて嬉しいねぇ!ウルトラカブキさんよ!」

 リーゼントの男【ファイ・チェン】は髪型を櫛で整えながら二人の元に近づいた。

「それで……十勝名人を倒せる算段はあるのかの?」

「ハッハッハ! スカル提督さんよぉ! 俺は蛇腹鎖鞭の使い手だぜ! いかにすごい剣術の使い手であろうとK.Oできるというわけよ!」

「……わかった、そこまで言うならやってみぃ!」

「ありがとうよスカル提督! じゃあ早速行かせてもらうぜ!」

 そう言うや否や、ファイ・チェンは足早に船長室から出て行った、それを見送ったウルトラカブキはやや心配そうにスカル提督に話しかけた。


「ファイ・チェン……実力は確かですが大丈夫でしょうか?」

「うむ、やつは強者との対決を何より生き甲斐としている男じゃ、ハイになっておるのぉ……まぁとりあえずあやつに任せて休んでおくのじゃ」

「御意……」

 ウルトラカブキも黄金の将棋盤を置いて船長室から去って行った、それを見送ったスカル提督は黄金の将棋盤を見ながらつぶやいた。

「さて、もう少しゆっくりする予定じゃったが、例の計画を手早く進めていかなきゃならんのぉ……」



 さっぽろ羊ヶ丘展望台、それは札幌でも屈指の知名度を誇る観光地である、ここでは羊ヶ丘という名前の通り羊が放牧されているところを見れたり、ジンギスカンを食べることのできるレストランがあるが、何より有名なのはクラーク博士像だろう。

 クラーク博士は【少年よ、大志を抱け】という名言で有名な札幌農学校の初代教頭であるが、羊ヶ丘展望台にはそんな彼が右手を挙げている銅像は中々の凛々しさを感じさせることだろう。

 しかし普段は観光客がひしめく羊ヶ丘展望台だが、今は足湯エリアに1人の男がいるだけである、その男の名は十勝名人、将棋の名人であり、黄金の将棋盤を守る守護者であった。


(……黄金の将棋盤はウルトラカブキによって盗まれてしまった……そしてウルトラカブキは悪の秘密結社プライムガードの一員であるという、つまりプライムガードを追っていけば黄金の将棋盤への手がかりが掴めるはずなのだが……)

 十勝名人が思いを巡らせているとそこに眼鏡と七三分けの一人の男が現れた、札幌国際警察究極犯罪課のケン刑事である。


「十勝名人、今現在羊ヶ丘展望台は私の部下に封鎖をさせております、ここに人が来ることはありません」

「ありがとうケン刑事、ここで話をしたいと言う僕のワガママを聞いてくれて」

 ケン刑事は十勝名人の斜め後ろの位置に立つ。

「ところで十勝名人、何故羊ヶ丘展望台で会おうなどと言い始めたのです? 私に会うだけならもっと目立たない場所があると思うのですが……」

 ケン刑事の質問に十勝名人は笑みを浮かべながら答えた。


「ここは僕にとって思い出の場所でね、昔父さんが何か祝い事があるたびにここに連れて来てくれてね、今でも大事な対局がある時はここに来ているんだ、ふふっ、父さんはクラーク博士が好きだったな……」

「そういえば十勝名人、あなたのお父上は確か……」

「ああ、僕が12歳の頃に飛行機事故で死んだよ……」

 十勝名人はどこか遠くを見ていた、恐らくそれはここではない何処か、ケン刑事はそんな空気感を振り払うかのように本題に入った。


「十勝名人、私としては正式に貴方に協力して欲しいのです、私達札幌国際警察は北海道の闇であるプライムガードをずっと追っていた、ウルトラカブキに一矢報いたあなたがいれば心強い」

 それを聞いた十勝名人は足湯から出た、そしていい表情でケン刑事の頼みに答えた。

「ああ!…… こちらこそよろしく頼む!」

「ありがとうございます十勝名人! では早速プライムガードの情報を……」

 ケン刑事が懐にしまっていた資料を取り出そうとしたその時である、ケン刑事の手に突如とした鎖が巻きついてきた。


「なっ……!? これは一体……!?」

「ハハハーッ!! 札幌国際警察の刑事が一人釣れたぜーっ!!」

 突如として現れたの黒を基調とした衣装を着たリーゼント姿の男であった、彼は手に巻きつけている鎖をケン刑事の手に巻きつけたのだ。

「ぐっ……貴様は一体……! この辺り一帯は私の部下が封鎖しているはず……」

「アン? あれは封鎖していたのか? 隙だらけだったから全員気絶させてやったぜ!!」

「なんだって!?」

「そして誰だって聞かれたから自己紹介させてもらうぜ! 俺の名はファイ・チェン! 蛇腹鎖鞭のファイ・チェンだ!」

「蛇腹鎖鞭のファイ・チェン! プライムガードの武闘派か!?」

「俺のことを知ってくれているとは嬉しいねぇ!! だがあんたはお呼びじゃないんだよ!!」


 ファイ・チェンは鎖鞭でケン刑事を引っ張るとそのままクラーク博士像に叩きつけ、そしてクラーク博士像に鎖で縛り上げた。

「ぎゃあああああ!! うぐっ!!」

「ケン刑事!!」

 クラーク博士像に鎖で磔にされたケン刑事を救おうと走る十勝名人、しかし十勝名人の足元に鎖鞭が叩きつけられる。


「おっとぉ……あんたの相手は俺だぜ十勝名人」

「くっ……ファイ・チェンと言ったか、あんたを倒さなければケン刑事を救い出せないようだね……」

「そういうことだ!! さぁ戦え十勝名人!! 俺を楽しませろ!!」

 十勝名人とファイ・チェンの戦いが羊ヶ丘展望台で始まった、十勝名人は鞘から王将刀を抜く。


「良いねぇ……それが話に聞く王将刀か!」

「ああ……あんたをさっさと倒してケン刑事を救出させてもらうぞ!!」

 十勝名人は王将刀を高速で振り衝撃波をファイ・チェンに飛ばす、しかしファイ・チェンは鎖鞭を高速で回転させることで衝撃波を打ち消した。

「なにっ!」

「ハハハーッ!! そんな単純な攻撃は効かない算段だ!! 次は俺からいかせてもらうぞ!!」

 ファイ・チェンは鎖鞭で十勝名人の手を縛り上げようとする、しかし十勝名人はそれを王将刀でガードした。


「流石だな十勝名人! そう簡単には行かないか!!」

「その動きは読めていたのでね!」

「くくっ! そうか! だがこれはどうかな!?」

 ファイ・チェンは鎖鞭を地面に這わせ十勝名人の足を狙う、その動きはまるで獲物を狙う蛇のようであった。


「どうだ! これなら簡単には反撃できまい!!」

「くっ!」

 バックステップで鎖鞭から逃れようとする十勝名人であったがしかしファイ・チェンの攻撃は執念深く、やがて捕まってしまった。

「ぐぅ!!」

「ハハハーッ! 十勝名人捕まえたりぃ!! このまま足湯に突き落としてやるぜ!! 大好きな足湯で溺れ死ね!! 十勝名人!!」

 ファイ・チェンは十勝名人を足湯に落とそうとする、足湯はそこまで深いわけではないがまともに身動きの取れない状況で落とされてしまったらたまったものではない、しかし十勝名人も簡単にやられる気はなかった。


「なるほど、足湯に落とすとはいいアイディアだが!! しかし僕と王将刀を舐めてもらっては困る!!」

「ハハハーッ!! 負け惜しみか!? 十勝名人!!」

「いいや……逆転の一手だね!!」

 十勝名人は王将刀で鎖鞭を斬り裂くとそのまま足湯をファイ・チェンの顔にかける。


「うおおおっ!! 熱っつ!!」

「今だ!! 十勝流奥義!! 王将斬!!」

 十勝名人は王将刀を力強く縦に振り下ろす、ファイ・チェンはそのまま吹き飛ばされる。

「ぐおおおおおおおお!! 十勝名人んんんんん!!」

「さてファイ・チェン、吹き飛ばされた先を見てみるんだ」

「なんだって……なっ!! あれは!」

 ファイ・チェンが吹き飛ばれた先にあるもの……それは……。


「なっ!! あれは! 羊の群れ!!」

 そう、十勝名人はファイ・チェンを羊ヶ丘展望台に放牧されている羊の群れの中に放り込もうとしていたのだ。

「その通り! 羊はその見た目とは裏腹に凶暴だ! もしそこに勢いよくダイブしたらあんたもタダじゃ済まないってことだ!」

「クッ!! 考えたな十勝名人!! だがそう簡単にはやられんぞ!!」

 ファイ・チェンは吹き飛ばされながらも鎖鞭を展望台の柵に向けた引き伸ばす。


「ハハハーッ!! 俺の蛇腹鎖鞭は無敵!! こんな状況からは簡単に脱出してやるぜ!!」

「させるかっ!!」

 十勝名人は鎖鞭に向けて剣撃の衝撃波を加える。

「ハハハーッ!! 無駄だぜ!! 俺の蛇腹鎖鞭は特殊な合金で出来ているんだ!!そんな攻撃で引き裂く事は……」

「いいや、無駄なのはファイ・チェン!! あんたの足掻きの方だ!!」

「なっ……ああーっ!!」

 ファイ・チェンの言葉とは裏腹に、鎖鞭が内側から音を立てて切り裂かれた。


「十勝名人!! 貴様一体何をした!!」

「どんなに硬い金属も大きな振動の前には弱い、つまり衝撃波を伝わせることによってあんたの蛇腹鎖鞭に振動を引き起こさせたというわけだ!!」

「むううううううん!! 十勝名人んんんんんんん!!」

「さぁ、羊の怖さを味わうがいい!!」

「なっ!! あっ!! 羊さん!! やめっ!! あああああああああああーっ!! ぎゃ!!」

 ファイ・チェンは羊の群れの中に消えていった。


「さてと、ケン刑事!! 大丈夫かい!?」

「十勝名人……とりあえず早く下ろしてくれるとありがたいのですが……」

「ああ、今助ける!!」

 十勝名人はクラーク博士像に縛られたままになっていたケン刑事を助けた。

「ありがとう十勝名人……またあなたに助けられるとは……」

「ああ……しかしファイ・チェンか……中々の強敵だった……」

「ええ……プライムガードにはたくさんの戦闘員がいます、刺客はまだまだ送られて来るでしょうね……」

「そうか……だが僕は諦めない!! 黄金の将棋盤を取り戻すその時まで!!」

 十勝名人は決意は新たにする、それに応えるように羊たちが鳴き声を上げるのであった。



 羊ヶ丘展望台から約1キロメートルほど離れた場所、そこでは顔にゴーグルをつけ軍服を来た男が十勝名人たちの様子を見ていた。

「クハハッ!! ファイ・チェンの奴め!! やられたか!!」

 ゴーグル男は不気味な笑みを浮かべる。

「だが奴は所詮喧嘩屋!! 奴を倒したとて戦いのプロであるこの私には勝てないという算段だ!!」

 ゴーグル男はさらに不気味な笑みを浮かべる。

「クハハッ!! 待っていろ十勝名人!! 次はこのボマー大佐が相手をしてやる!!」

 ゴーグル男……ボマー大佐はそう言い残すとその場から立ち去るのであった。

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