第49話 選手権大会開幕
全国高等学校女子硬式野球選手権大会が開幕した。
開会式はオンラインで行い、グリー学園は全員で大型ディスプレイ越しに参加した。
いよいよ大会が始まる。女子の大会に地方予選はない。出場60数校が関西地区の2つの野球場でトーナメント方式で試合をする。最後の決勝戦だけが阪神甲子園球場で行われる。
なので、グリー学園高校女子野球部は関西へ遠征する。次戦が1週間後になることからまずは日帰りでの遠征だ。その次は泊まり込むしかない。
抽選の結果1回戦の対戦相手は高知竜宮高校の女子硬式野球部と決まった。
「ねえ、高知竜宮高校って強いの?」
片倉みずえが誰に言うことなく、聞いた。高揚感を抑えきれなかった。
「残念ながらたいしたデータはなさそうです。高知竜宮高校も選手権大会に参加するのは初めてみたい。なので、ほとんど情報がありません」
由加里が片倉の質問に答えた。
「それじゃあ由加里のAI野球も通用しねえって事だな」
と神谷が言った。
「後は現場での分析になりますが、その為にはカメラなど機材が色々と・・・」
するとオンライン開会式に同席していた山辺理事長が口を出した。
「だめですよ。そうそうなんでも買えますか。パソコンに大型ディスプレイにスピードガン、他にもスポーツ・ダイナミクス社のソフトウェアにオープンAIの使用料など・・・これ以上お金はありません!」
さすがに山辺もお怒りモードだ。そして山辺は続ける。
「高知竜宮高校については、多少知っています。ここは今は亡き額賀真一郎先生が設立に尽力された自由
「ヌカガ? しんいちろう? 誰ですかそれ?」
「なんか自由一杯な学校みたいですね」
部員たちから声が上がる。
「もしかしたらだけど、我が校と非常によく似たチームなのかも知れません」
山辺が言った。
「自由なチーム・・・いきなり嫌な相手だったりして?」
三井が言った。
「自由な発想で、自分たちで何でも決める野球・・・確かにやりにくいかも」
神谷も三井に同調する。
「まあ、いいじゃない。私たちは私たちの野球をする。それしかありません」
栞がまとめると山辺が再び話し出した。
「申し訳ないけど、遠征の費用は学校では持てません。お金ないのよ。お家の方に負担を掛けるのは申し訳ないけど、宜しくお願いします」
すると1年生の佳恵が手を挙げた。
「どうしたの? 山口さん」
「あのお、バイトはだめですか?」
グリー学園高校では生徒のアルバイトは禁止になっている。山辺は苦い顔をした。
「悪いんだけど、皆さんだけ特別扱いするわけには・・・。いえ、私はねバイトくらいいいんじゃないかと思うんだけど、校則にそう決まってて・・・」
と言い訳がましく言った。
「理事長なんだから、校則変えちゃえばいいじゃないですか」
「そう言うわけにはいかないの。何とかお家の方に・・・」
すると部室のドアが開いて秘書の佐藤が入ってきた。
「バイト、やって貰いましょう。理事長」
「だから佐藤さん、校則もあるしそう言うわけには・・・」
「今月か来月に校舎のクリーニングが予定されてます。まだ業者さん選んでませんし、これを野球部にやって貰えば、予算からバイト代は払えます。業者さんに頼むより安く上がりますよ」
佐藤秘書がとんでもない提案をブチかました。それで栞たちは校舎の清掃のバイトを学校から受けることになった。
「バイト代は清掃内容を見てから決めます。雑ならバイト代は半分しか払いませんから」
と佐藤秘書。
「キビシー!」
部員たちは大騒ぎだ。
すると山辺理事長の携帯に電話が掛かってきた。
「そうですか。分かりました。よくやったわね。おめでとう」
そう言って山辺は電話を切った。
「男子野球部、聖蹟新田農業戦ですが、今終わりました」
一同その先を固唾を飲んで待つ。
「1対2で負けました」
一同沈黙した。誰も声を出せない。すると佐藤秘書が突然拍手を始めた。それを見た部員たちも手を叩き出す。
「凄えじゃん!」
「1点取ったんだ」
「聖蹟新田相手に1点差、よくやったよ」
「コールド負け予想だったんだから、上出来だ」
皆が口々に男子部を褒めそやした。
「そうね、よくあの屈辱的な敗北から立ち直って・・・」
山辺はそっとハンカチで涙を拭った。由加里のAI野球のおかげとは知る由もなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます